第五十九話 借り物競争のお題
昼休みが終わったら午後の部開始。
『午後の部最初の競技は借り物競争です。出場者は生徒会が選抜した借り物が会場内にあると祈ってください』
なんという投げやりな。
「仕方のないことだよ。だってお題を決めているのはもっと前なわけで、当日になにが会場にあるか分からないじゃないか」
「なら確実にあるであろう無難なものとかにすれば良かったんじゃないですか?」
「それじゃあ面白くないじゃないか」
ショタ先輩は絶対にドSだ。
人が簡単に見つからずあくせくしている光景を本部席から眺める気だ。
ただドSにも人の心があるのか、一組目のお題はかなり優しめだった。
メガネとかヘアピンとかその辺。
「鮫ちゃん頑張れー!」
二組目は鮫島の番。
スタートの合図と共にお題が並ぶテーブルへと走っていく。
しかし、お題が難しいのか辺りをキョロキョロ。
「あ、一番難しいのを引いたかな?」
「一番難しいお題ってなんですか」
「犬かな。犬は誰かの親御さんが連れて来ないとないから。あとは……」
「鮫ちゃんこっち来た」
近藤の声が聞こえ俺が前を向くと難しい顔をした鮫島が本部席へと来ていた。
「……平気なはず。私と来てください」
「俺?」
「そうです」
横にいるショタ先輩はニヤニヤととても面白そうに笑っている。
「お題は犬じゃないのか? 俺は人間だぞ?」
「は? 違いますけど」
「コラコラ、借り物競争でお題を聞くのはご法度だよ。人が必要なものはかなり限られる。悪口ではなかったはずだよ」
「……」
不満そうにショタ先輩を睨みつける鮫島。
言い方から察するに、ショタ先輩は鮫島のお題が分かっているようだ。
「まあ、別にいいけど」
鮫島に手首を掴まれ走ってゴールへ。
ゴールで待つ審査官という名のお題とちゃんと合っているかの確認役。
小さな身体ではパイプ椅子ですら足が着かない雨宮先生。
「はい。お題クリアです。難しいのによく一着で来れました!」
にっこりと頬をほころばせて鮫島はゴールした。
「なあ、お題ってなんだったんだ?」
「……言いたくありません」
なんてことないお題だったら鮫島は答えるだろう。
そして、雨宮先生が簡単に通したことから俺を選んで無理があるわけでもない。
つまり、『犬』というお題ではないということ。
『頭のいいひと』かとも思ったがそれは別に俺じゃなくてもいい。定期テスト前で学力が分かっていないなら近藤でも土屋でもいいわけだ。
「貴方には絶対に分からないですよ」
「うわー余計に気になる」
立場を逆にして考えれば分かるかもしれない。
どんなお題だったら五〇〇人近い生徒中から鮫島を選ぶか。
『最も頭がいい』『異性』『女王様』『冷徹』『可愛い』『美人』……多すぎるな。
ただ神崎先輩は「人を必要とするお題はそう多くないし悪口ではない」と言っていた。
つまりだ、鮫島から見て俺にもプラスな所があり、すぐに俺が思いつく程度には強い個性ということだ。
「いった! なに!?」
俺が真剣にお題を考えていると太ももを抓られた。
「静かだと思ったらなに無駄なこと考えているんですか」
「鮫島のお題を与えられたヒントだけで当てようかと」
「本当に無駄ですね。貴方には絶対に分からないと言ったばかりですけど?」
「その言葉が余計に俺の闘志に火をつけた」
むむむとジト目を俺に向ける鮫島。
人を焚きつけておいてなんて目してやがる。
「あーはいはい。私のお題は『お人好し』でした」
「ダウト。嘘つくならもっと自然につけ」
「嘘じゃないですよ」
本当に嘘なのかよ。
ブラフかそうかそうじゃないかくらいは分かりそうなものだが。
「目をそらすな。嘘じゃないなら胸を張れ」
「これ以上お題当てをするなら、貴方が私の胸が好きだと言いふらします」
「やれるもんならやってみろよ。鮫島自身も恥ずかしいぞ」
俺の虚勢に鮫島はにっこりと笑った。
これは、ブラフか? それともマジか?
考えていると鮫島は前の生徒の肩を叩いた。
「私がお題で連れてきた彼なんですけどね」
これはマジな奴だ。羞恥心とかないんですかね。
「分かった。これ以上の詮索はなしだ。俺が悪かった」
「分かればいいんですよ。貴方は私に逆らうことは許されません。これで理解しましたか?」
「でも下剋上って絶対面白いよね」
「石で殴ればその危険思想もなくなりますよね」
「そこはせめてグーでお願いします」
鮫島に肩を叩かれた前の生徒は見てはいけない物を見たような顔をして前に視線を戻した。
ぼそっと「爆発しろ」という言葉を吐いていったのを俺は聞き逃さなかった。




