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第五十八話 大接戦

俺が校庭に戻ると最後の出勤五分前競技者がゴールしたところだった。

 次の競技は午前の部最後の大目玉、大綱引きだ。

 本部席まで小走りでいって大綱を校庭の真ん中まで引っ張っていった。


「神崎先輩、生徒会長が三年生でいるじゃないですか。他学年が勝てる見込みってあるんですか?」

「うーん。真野以外が全力を出さなければ多分」

「つまりは舐めプして互角と」


 真野会長は既に準備万端なのか校庭の真ん中でマッスルポーズ。

 その周りを女子が囲むことはなく、代わりに男子が神に祈るように拝んでいた。


「一年生にもルーキーはいるじゃないか。あの茶髪の」

「嘉川ですね。確かにうちの学年じゃ一番運動神経がいいですけど、真野会長と互角かと言われたらうーんって感じですけど」


 正直茶番にもなりうるこの大綱引き。

 ただそれは特別運動が得意でも好きでもない俺視点の話である。


「幸樹! あのガチムチ先輩に勝てるか!」「いや、おれたちの嘉川幸樹ならやってくれるって!」

「まあ、頑張ってみる」


 そんな控えめな嘉川の返答に男共は大盛り上がり。

 人生楽しそうでなにより。


『午前の部最後の競技は、各学年による大綱引きです。三年生が勝てば初の三連覇となります。一年生、二年生は下克上目指して頑張ってください』


 こう遠目に見ると真野会長と他生徒の体格がまるで違う。

 三年生と一年生を比べても体つきが違うのだ、一分持ちこたえられたら流石だと思う。

 ピストルの合図と共に一年生男子と三年生男子が一本の縄を引っ張り合った。


 一瞬で決着がつくかと思ったが一年生が意外と頑張っている。


「全員腰落として引け! 腕だけじゃなくて体重で引っ張れ!」


 嘉川の荒々しい声が本部席まで聞こえる。今の声でどれほどの女子の心を掴んだのだろうか。

 爽やかそうだけどイベント時には無邪気な少年へと変わるイケメン。

 今回の体育祭でさぞ人気が爆上がりするだろう。

 だが三年生も負けていない。


「若造が!」「真野の力に頼ってんじゃねぇぞお前ら!」「格の違いを見せてやるよぉ!」


 こっちはこっちで最上級生としての意地が見える。

 あと何人か実際に輩な人いるな?


「一年男子ー! 負けんじゃねぇぞ! 負けたら砂食えな!」


 隣で罵声を飛ばすのは近藤玲奈。生徒席でやれ。


「おいおい。罵声を飛ばすな」

「罵声じゃないやい! 立派な応援だろうが!」

「負けたら砂地獄のどこが応援なのか」


 結果、力はいい感じに拮抗していたものの体力の差で三年生の勝利。

 

「やはり三年生は強いですね」

「あの真野会長の鍛え抜かれた肉体は偽物じゃないってことだ」


 あの肉体を作るのにどれほどの労力をかけているのだろうか。

 同じ男として尊敬してしまう。


 大綱引きの結果は三年生全勝、一年生一勝、二年生全敗という結果に終わった。

 二年生は本当に可哀そうだと思う。三年生には瞬殺され、その三年生と拮抗した勝負をした一年生にも瞬殺されるという。

 

『ただいまの競技をもちまして鮫島高校体育祭午前の部が終了します。午後の部は一時から開始いたします』


 アナウンスが入って学校全体は熱を持ったまま緩んだ空気になった。


「お昼にしよ!」

「結局ずっと本部席にいたな」

「僕らは別に構わないよ。彼女たちがいなきゃ基本男だらけのむさくるしい現場だからね」

「ほら~」

「これでも?」


 掴みかかってくる近藤に抵抗する間に答えた。


「ああ。子供っぽくていいじゃないか」

「わたしは! これでも大人っぽく見えるように努力してんだい!」

「大人っぽくみられたい奴がそんな蟹股で叫ばねぇよ。鮫島を見ろ、完全無視して昼飯広げてんぞ」

「付き合ってたらお昼が終わってしまうので」


 この通り。近藤の扱いを既に熟知してらっしゃる。


「ほら、昼食べんぞ。時間ないから」


 近藤を土屋の横のパイプ椅子に座らせて俺達は昼食タイムへと入った。


「体育祭で定番のおかずと言えばなに?」

「ウィンナー」

「卵焼きでしょうか」

「私もですね」


 俺達三人は普段のお弁当の中身のような回答。

 しかし近藤の回答は違った。


「近藤は?」

「うちパン。体育祭の時は少し豪華になる」

「よかったじゃん」

「小学校の時はよかったよ? 皆と違って交換とかもしやすかったしさ。でもたまにはお米食べたい」


 パン屋に生まれた近藤玲奈は例え特別な日でもお米は食べられないようだ。

 俺からすれば穀物と言えば米だが、近藤家では穀物と言えば小麦なのだ。


「おにぎり要りますか?」

「誰が作ったの?」

「私ですけど」

「ちょっと競売にかけてくる」


 いくら鮫島彩音という美少女が握ったおにぎりでも金はとれないだろ。

 五〇〇円だったら買うかなという程度。


「男子にだったら絶対に売れる! いや、売る!」

「そこで商売根性爆発させなくても。見ろこの汚物を見る目を」

「それは私との絆です。売りたければどうぞ」

「うまぁー!」


 近藤玲奈は鮫島手作りのおにぎりを口いっぱいに頬張った。


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