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第五十一話 「貴方を主体にされると殺意が湧きます」

どんなに空気がギッスギスでも仕事というのは回ってくる。

 義務教育は終わり、生徒主体でイベントを進行する高校に入学してしまったから。


「これが去年の体育祭プログラムだ」

「結構分厚いですね」

「まあ、過去の戦績だったり功績を乗せるとな」

「それ、本当に必要なんですか?」


 俺も鮫島の意見に同意。過去の戦績って言ったって因縁があるわけでもないし、ましてやなにか世界的な記録を打ち立てたわけでもない。

 俺が入学する前、更には三年生である真野会長が入学する前の記録なんて省いてしまえばいいのだ。


「まあ、欲しいと言えば欲しい。あまり大きな声では言えないがお偉いさんの圧がな」

「生徒主導のイベントを語って圧力かけたら意味ないって分からんのか」

「……私に言ってます?」


 圧力だけの話なら。


「進行に影響があるものでもないしそういうプログラムを欲しがるのは先輩方だ。ま、任せる。なんせ今年は鮫島の嬢ちゃんがいるからな! お偉いさん方もそう簡単には口出しできまい」


 おそらく真野会長も、過去の戦績は要らないと思ったのだろう。だが上からの圧力に屈した。


「真野先輩、私達はこのプログラムをどうすればいいのでしょうか」

「おっと、そうだった。重要なのは競技順だ」

「それも生徒が決めるんですか」

「そうとも! 各学年の誰がどの種目に出るかの資料もある。全生徒に配慮した種目にすればベスト。最悪時間が足りないなら去年のままというのもアリだ。それじゃあよろしく頼む!」


 野太い手で俺の肩を叩くと真野会長は生徒会室へと戻っていった。

 手元に残ったのは分厚いプログラムと部活などが書かれた生徒名簿。


「途方もなさすぎる」

「全校生徒五〇〇人近い生徒全ての体力面を考慮しろということですが……出来ますか?」

「え、丸投げ?」

「こういう人の感情を考えるのは貴方の得意分野じゃないですか。模試よりも感情を優先するほどなんですから」

「それが分かっているならなぜ土屋に強く当たった……」


 教室へと移動しながら俺はこぼした。

 今鮫島に聞いたところでまともに取り合ってくれないだろう。


「……私だって、誰かと競い合って自分を高め合うというのに憧れるものなんです」


 自分の席に座りかけた俺は中腰の状態で止まった。

 まさか鮫島本人から胸の内を聞けるとは思わなかったからだ。

 なんの心の変化があったら浮気疑惑の晴れていない男に胸の内を話そうと思えるのか。

 情報か経験値が足りないのか俺には分からない。


「お、おう」


 落ち着くために深呼吸と着席。

 すると教室入口から冷めた声が聞こえてきた。


「聞いといてなんですかその反応」

「あーいや。あれだろ? 俺と競いたかったのに土屋が邪魔したから怒ったと」

「違います」

「えぇ……」


 他に解釈の余地はなかったが!? これが違うならなにが正解なんだよ。


「貴方を主体にされると殺意が湧きます」


 俺の周りの女子はなぜいつも殺意良好でいられるのか。

 特に鮫島近藤の二人は。


「誰でもいいなら怒らないだろ? だって俺以外にも競う相手は何百人といるわけだし」


 最寄りの会場だけでも一〇〇人くらいいて、更に全国の模試のため全国に会場がある。

 総勢千人あまりが鮫島が座る一位に行きたがっているわけだ。

 千人と比べたら俺一人の存在なんてちっぽけなものだ。


「それはそうですけど……」

「最初からそう言えば良かったのに。ま、鮫島の性格じゃ無理か」

「は? 貴方が私のなにを知っているんですか? 今更彼氏面ですか? 気持ち悪いのでやめてください」

「俺ってばフルボッコー」


 ただ意地っ張りって言いたかっただけなのに。


「ん。その先輩は文化部ですよ」


 資料と俺の手元を見た鮫島が言った。


「文化部だが、流石に玉入れと五〇m走だったら連続でもいいだろ。玉入れを後にすれば最悪体力尽きても周りがカバーできる」


 個人種目と団体種目を交互にやって、出来るだけ連続にならないようにする。

 これをまず一年生分やって二年生、三年生に連続する人がいないか確かめる。

 一番大変だったのは、長距離走とパン食い競争に入っている人だった。嫌がらせに長距離走ってすぐにパン食い競争をさせようと思ったが、生徒会役員で俺も出場する競技で顔合わせが気まずくなりそうだからやめた。


「うし。こんなもんだろ」


 五〇メートル、長距離走を最初に持ってきて出場選手のスタミナ回復。

 そのあと玉入れとキャタピラーレースを挟んで、パン食い競走からの障害物競走出勤五分前。大綱引き、昼休憩終わって借り物競走、男女混合二人三脚、盛り上がる会場そのまま騎馬戦、部活リレーで終わり。


「効率を度外視した結果という感じですね」

「なら鮫島はどう考える」


 俺が聞き返すと鮫島はメモに競技をスラスラと書いていった。

 それだけ効率がいい競技と悪い競技が決まっているということだ。

 しかし、五百人近い人が動く体育祭での効率なんてあってないようなもの。人がそれぞれバラバラに動くからな。

 その効率なんて俺には分からない。


「こうです」

「どう効率がいいんだ?」

「用具が必要かどうかです。騎馬戦は確かに大勢が動きますが必要なのはハチマキだけです。よってお昼前に持ってきます」


 なるほど。用具の必要不必要で分けただけか。


「ただそれだと午後が寂しくならないか?」

「それなら大縄跳びや男女混合物を午後に持ってくればいいんです」


 効率だけを重視するなら俺は鮫島彩音には敵わない。

 ただこれに関しては勝てなくてもいいかと思っている。

 両方考えられたらいいし、それに越したことはない。だが、俺と鮫島どちらかの考えが通じなかった時にまたどちらかの考えが必要となってくるから。


「合わないなー俺達」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 鮫島さんがデレたー笑 ツンドラの鮫島さんがー笑笑
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