第四十六話 「俺ルカリオじゃないから」
「鷹山さんよー。最近美少女とお熱じゃあねぇの」
「なんの話だ」
昼休み、総菜パンを食べていると牛乳をストローで吸いながらじっとりとした目を近藤から向けられた。
最近俺じっとりとした目を向けられすぎでは。
「だって! 授業中はつちやんとイチャコラして、放課後は鮫ちゃんとイチャコラしてんじゃんよ! 羨ましすぎるだろ! わたしも両手に花したい!」
願望が男っぽいんだよ。
そんなこと言っているうちは鮫島からの冷えた目線は収まらないぞ。
「と言ってもな、体育祭練習と体育祭準備だから仕方ないと言えば仕方ないことだろ」
「ならわたしも手伝う~」
「玲奈が来ると作業スピードが落ちます」
「どういうこと!?」
「邪魔ということですね」
土屋の純粋な解説が天真爛漫な近藤玲奈を傷つける。
「え、なに? 鷹山には美少女とくっつける才能でもあるの?」
「なにその才能。あったら超うれしい」
「私と鷹山さんは特別な関係ではありませんよ。ただ競技者として一緒にいるだけです」
「私だって、彼とはただのクラス委員、体育祭運営をするだけの仲です。それ以上はありません」
「くっつけるけど心の距離まではくっつけられないんだな。可哀そう」
近藤の純粋な哀れみが鷹山来夢を傷つける。
「まだ五月だぞ? 入学して一か月ちょい。そんなんで近づく心があってたまるか」
こうして仲良さそうにしている俺達でも本心は晒していないわけだし。
本心を晒し合えてそれでも相手を受け入れられたら本当の仲良しと言えるだろう。
ま、本心云々のまえに信頼関係があってこそだけど。そしてその信頼関係を未だ修復しきれていないと俺は感じている。
「あら、私は鷹山さんのことを好意的に見ていますよ?」
「あんがと」
「お? 嬉しくないの? こんな美少女でおっぱいクソデカいつちやんに好きって言われてんのに?」
首の後ろにある二つの果実を恨めしく叩く近藤。
近藤が叩くたびに果実はふよんと柔らかく押し返す。
それが気に食わなかったのだろう。近藤の頬はドンドン膨らんでいく。
「おっぱい大きいのに。大きいのに!」
「玲奈。声が大きいです」
「胸のサイズは関係ないだろ。前にも言ったと思うけど」
胸があればモテはするだろうが、それだけ苦労というのも増えるだろう。
実際にその大きさを体感したことないから知らんけど。
「それで? 嬉しくないんですか? 夏帆は性格は、いいと思いますけど」
「そこ詰まるところかよ」
「いいから答えろ」
なにこの二人。そんなに俺と土屋が一緒にいることに不満があるのか。
いや、近藤のは純粋な好奇心か。
ノールックでただただお弁当を食べ続ける鮫島と好奇心全開で前のめりな近藤の差よ。
「普通に嬉しいけど? 人からの好意なんてそうそう得られるもんじゃない。特に演技も嘘もなしではな」
「へーそうですか」
鮫島の好感度メーターが下がっているのが分かる。
嘘でもいいからフォローしなければ。
「俺的にこの三人は演技や嘘なしで付き合えて心地がいい」
時々圧が強いけど。
「さてはおめぇ誑しだな?」
「あら、私は嬉しいですよ?」
「『三人は』ですか」
すべての女性に聞きたい。
今のはなんと言えば正解だったのでしょうか。
「私なんかはこうして自分からお近づきになりたいと思ったのは鷹山さんが初めてですから」
それは俺の情を利用しようとしているから当然だと俺目線感じるが、恋愛番長からすれば違うらしい。
「お? お? つちやんから恋愛の波動が。鷹山からは? 恋愛の波動」
「俺ルカリオじゃないから」
近藤からの恋愛文句を軽く受け流す。まともにやり合うと大やけどからの骨すら残らなくなる。
「ダメだって」
「あら残念」
そうは言うが声から悔しみは伝わってこない。
「頼りにしていますよ? 鷹山さん」
そう言って柔らかな、本当に恋する乙女のように笑う土屋夏帆。
本心が分からないのならどの程度かも分からない。建前なのか本心なのか。
どうか俺の身体が無事でありますように。前からの圧で既に押しつぶされそう。




