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第三十九話 コードをまとめたり、なにかを硬く結んだりするのに最適なアレ

「夏帆。なにしているんですか?」

「体育祭練習です」


 俺に組み敷かれたまましっかりと答える土屋。

 流石に無理がある。


「鷹山さん……でしたっけ?」


 凛と鈴の音のような声で呼ばれると嫌でも背筋が伸びる。

 完全には立てないため膝立ちで背筋を伸ばした。


「娘さんにはお世話になっています。ご挨拶が遅れてすいません。鮫島高校一年一組、鷹山来夢です」

「土屋夏帆の母です」


 お互いに自己紹介を済ませたところで本題へ。


「娘とお昼からなにをするおつもりなんでしょう」


 ですよね。ま、組み敷いた瞬間しか見ていないなら発情した俺が押し倒したようにしか見えないだろう。


「体育祭練習です。男女混合の二人三脚です」


 嘘偽りない競技名。

 それを聞いた瞬間、土屋母の眉が少しだけ動いた気がした。


「そうですか。怪我のないようにしてください。あとお客様が見えているので大声も遠慮願います」


 分からん。

 眉が動いた以外のヒントはなく声の調子も目線も所々の所作も乱れはなかった。

 歓迎されているのか邪険にされているのか。

 分からん。


 広い庭から土屋のお母さんがいなくなるとすぐそばから声がした。


「鷹山さん? そろそろ起こしてくれるとありがたいです。その……恥ずかしいので」

「ああ、悪い」


 起こそうと手を差し伸べれば土屋は握り返してきた。

 息を合わせて起き上がらなければいけないほど片足の拘束は強力なものだった。


「一体何で結んだら……土屋夏帆さん? これはどういうことでしょうか」

「はい?」


 はい? じゃないが。

 俺達の足を結んでいたのは布製の赤いバンダナともう一つ。

 コードをまとめたり、なにかを硬く結んだりするのに最適な結束バンド。


「なんで結束バンドで俺達の足を結んだんでしょうか」

「……」

「無言で目を潤ませても追及は続くぞ」

「もしもの時の保険です」


 諦めたのか無感情に白状した。


「なんの」

「途中で怖気づいて帰るとか言った場合の防止策です」

「入念すぎるだろ」


 俺の言葉に頬を膨らませる土屋。

 可愛い。

 普段大人しい女子が子供っぽいところを見せるとここまでギャップが生まれるのか。


「それだけ失敗というか、後戻りは出来ないんです」

「そうかよ。お父さんとは顔合わせしてないがいいのか?」

「父もいるはずですが母に挨拶をしている以上無理にするのは返って不自然です。する必要はないかと」

「なら結束バンド外して練習な」

「つけたままで良くないですか? 物理的に密着出来て役得でしょう」


 まったくもってその通りではある。

 全体的に男の身体と違って柔らかいしなんか良い匂いしてくるし動くたびに触れる胸は視界の端でも存在感バッチリ。

 これ以上なにを望むというのか状態。


「痕になったらどうするつもりだ。結束バンドの痕なんて説明のしようがないぞ」


 下手すれば俺達の関係を誤解される。


「仕方ないですね。私の部屋にハサミがあるのでとりに行きましょう。練習も兼ねて」


 結束バンドで走るのは危ないし痛いから歩く。


「私達、相性いいと思いませんか?」

「どの辺が」

「悪戯好きな彼女と度が過ぎた悪戯でも呆れるくらいで許してくれるって」

「自覚があるなら気を付けようか。あと俺には妹がいるから慣れてるだけだ」


 桃の悪戯の方がよっぽど面倒だ。

 一昨年はなにを思ったのか増えるワカメを袋全部風呂に入れて泣きながら俺の部屋入って来てワカメ駆除したっけな。そのあと母さんの雷が落ちたのは言うまでもない。


「いくつですか?」

「二個下の中二」

「お兄さんだったんですね。だったら慣れているのも納得です。このままもっと過激な悪戯にも慣れないですか?」

「断る。俺の人生にこれ以上の刺激を与えないでくれ」


 その後の人生が無味無刺激すぎて死にたくなるから。

 刺激は適度にあるほうが絶対人生の楽しめる。


「残念です。私と鷹山さんならいい線いくと思いましたのに」

「そう言われるとなびいてしまいそうになる」

「案外チョロいですか?」

「恋愛耐性ゼロなもんで」


 そんなことを話していると土屋の部屋に到着し中へ。

 初めて入った時はあまり気にしていなかったが内装はしっかりと女の子だ。

 近藤はガッツリ女の子色でぬいぐるみだったり少女漫画があったりしたが土屋は部屋も大人しい。


 本棚にあるのは純文学の本だし壁紙や床もおばあちゃんの家のように古めかしく思える。


「今から切るので動かないでくださいね?」

「ああ」


 動くなと言われ部屋を見ているとすぐ近くから「えい」という可愛らしい掛け声が聞こえてきた。

 その掛け声のあと、俺の視界はぐるりと変わり、茶色い天井が視界に入ったと思ったら今度は紺色のカーテンがかかった。


 俺の顔を覗き込む紫色の瞳は嗜虐に染まっていた。

 俺、生きてこの家出られるかな。


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