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第三十八話 十中八九、その性格のせいだと思います。

 土屋が運動出来る服装に着替えるというので部屋の前で待つことに。

 恒例行事にしようとしているのか、またもや「覗かないで」の件があった。


「本当に覗かないんですね」

「当たり前だろうが。家の人間じゃない奴がお嬢様の部屋を覗き見してたら印象最悪だろ」


 どんなイケメンでも汚名はまぬがれないだろう。


「それでもお嬢様本人から覗いてもいいという許可を得ていれば問題なくないですか?」

「少なくとも俺は覗いていいなんて言われてない」

「バレました? 覗いたら鮫島さんに報告しようと思ったのに」


 それならいっそのこと警察に通報して牢獄にぶち込んでくれ。

 その方が何億倍もマシだ。


「どこで練習する?」

「どこでしたいですか? 人通りが多い場所、今両親がいる場所に近い場所、そして、滅多に人が来ない場所や絶対に人が来ない場所などなど用途に合わせて色々ありますよ?」

「人通りが少しあって邪魔にならない場所がいい」


 各場所の用途は聞かないで置こう。

 聞けと横から圧を感じるが絶対に触れてやらん。


「この廊下なんてどうですか?」


 陽当たりがいい廊下、いや縁側と言った方が適切か。

 学校の廊下のような長さで目を凝らしてやっと端が見えるくらいには長い。


「人通りが多そうだが、大丈夫か?」

「はい。ここ以外にもこの部屋挟んで通路がありますしどちらを使おうと時間は大して変わりませんから」

「ここで練習していて主目的は達成されるのか?」

「どうでしょう。大きな物音を立てればもしかしてという感じですね」


 それはどんな方法を取ろうと結構危ないのでは?

 くしゃみ程度でいいならまだいいが、それ以上となるとなにかを動かしたりするわけだし。


「両親には鷹山さんが来ていることは伝わっているはずですから、大丈夫だとは思いますけど」

「ま、最悪最後に挨拶して帰るか」


 そうすれば主目的は自然と達成される。


「では結びますね?」


 土屋はバンダナを結ぶとジーパンの上から妙な締め付けがあった。

 足元に視線を落としても赤いリボンがあるだけで感じているほどの締め付けはないように思える。


「結んだ足から前に出しますね」

「おう」


 一歩ずつ前に出し始めは歩く程度のスピード。


「走っても平気なのか? 響きそうだけど」

「はい。響いても文句をいう程人もいませんし平気ですよ」

「ならスピードを上げるぞ」


 来た道を小走りのスピードで戻る。


「鷹山さん? 変なこと考えてませんか?」

「失礼な。俺は至って真面目だぞ」

「その割には挙動不審ですよ?」

「虚像に逃げないとやってられない」


 歩くスピードじゃ分からなかった凶器。

 それが俺の左胸に突きつけられている。心臓が近いんだ。やめてほしい。


「やっぱり男の人は胸がいいんですね」

「そういうわけじゃ……否定は出来ないけど」

「えっち」

「ごめん」


 そういいつつ嫌という風な感じを出さない辺り、鮫島とは違う。いやまあ、だからセクハラしてもいいということにはならないけども。

 罪悪感がそこまで感じられない。

 なんなら押し倒したらその先も行けそうなまである。

 いかないけど。


「中学で問題とか起さなかったのか?」

「なんですか急に」

「その性格なら勘違いした男も多かっただろ」

「……」


 土屋の顔を覗き込むと明らかに顔が曇った。

 思い出すのも辛いほど壮絶な事があったのだろうか。


「悪い。軽く踏み込むべきじゃなかった」

「いえ、この性格を晒せるほど仲良かった人がいなかったなと」

「そんなこともなくて安心した」

「高校生になるまで家に人なんて招いたことありませんでしたし、来るかと問えば大抵は遠慮してしまうんですよね。なんででしょう。特に盗まれて困るようなものは外には出ていませんし障子の一枚や二枚破かれても大した損失ではないというのに。鷹山さん、なんでだと思います?」


 十中八九、その性格のせいだと思います。

 隣で呪詛のように言わないで欲しい。

 鮫島で加圧トレーニングしてなかったら死んでいた。


「さあな。日本人は控えめな人が多いから、自分から行くとは言いづらいんだろ」


「時々例外いるけど」とちゃんと近藤のことも忘れずに。


「土屋はアレだろ、嫌われるかもって考えて大胆に動けないタイプだろ」

「そうだと思います。嘘つくのも結構ドキドキしてます」


 俺とは真逆のタイプ。

 中学までは人の顔色見て自分も顔色合わせてニコニコしてたけど鮫島の隣に並ぼうと脈略のない目標が出来てからあまり気にしなくなった。

 現に、一年の頃に仲良くなった人達とは連絡先も消えるくらいに縁が切れてしまった。


「あんまり人の顔色気にしても意味ないぞ。むしろ相手には違和感が伝わるから溝の原因になる」


 特に自分の意見を迷わず言えるタイプとは相性が絶望的に悪い。

 鮫島、長谷川辺りとは多分合わないだろう。


「鷹山さんは長谷川さんにも臆せず行けるタイプですからそう思うだけで、そうじゃない人達はビクビクしなきゃいけないんですよ。これはもう考え方でどうにかなる問題でもないと思います」

「大変そうー」


 適当に流せば横から拳が飛んでくる。

 しかし密着するほどの近さ、痛くもない。


「やめろ。暴れるな」

「真剣に考えてるのに! なんですかその適当な返事! 他人事みたいに!」

「実際他人事だし……やめろ! 暴れんなって」


 足を未だ縛ったままの俺達。

 そんな中、片方がバランスを崩せばどうだろう。

 ワックスかなんなのかやけに滑る縁側。そこに靴下で暴れれば未来は簡単に想像できる。


「だから暴れんなって言ったんだよ」


 茶色い廊下に広がる紺色の髪。驚き潤む紫色の瞳と上下に動く豊満な胸。

 それを見下ろす位置、つまり俺の目線というのは絶景というに相応しい光景が広がっていた。


「夏帆」


 凛した声がして首だけ庭に向けると赤い口紅が特徴の女性が立っていた。

 日本家屋に似合う着物姿で青のあじさいをイメージしたような色の着物がとてもよく似合っている。


「お母様」


 おかあさま?

 母親様でございましょうか? え、この状況が初対面でいいんでございますか?


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