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第三十七話 「覗かないんですか?」

「では試合形式でやってみますか?」

「勝てる気がしない」


 一通り教えてもらいはしたが、あの綺麗な連撃を防ぎ反撃が出来るとは俺には思えない。


「手加減しますので」


 手加減。

 経験者と今日触ったばかりの初心者なのだから当然な気もする。

 だが俺は手加減してもらうことが苦手というか身体が拒否反応を起すのだ。

 ムズムズと背中が痒くなるような感覚に襲われる。


「いいや、手加減無用だ。基礎が出来れば応用は出来る。当然その先の発展もな」

「そうですか。なら本気で行きます」


 道場のど真ん中でお互いに構えた。

 さわさわと風で葉が擦れる音までもが聞こえる静かな場で先に動いたのは土屋だった。


「はっ!」


 中段からの突きをさっき教えてもらった防御で受け流し上から切ろうとした。

 がしかし、土屋の薙刀は既に体勢を整えており簡単に防がれてしまう。


「愚直ですね」

「これからよ」


 手練れ相手に初心者が勝つには実力差を凌駕するリアル運、または人間離れした超人的な動きが必要とされる。

 だがただの人間である俺には運も超人的な動きも出来ない。

 出来るのは、アニメや漫画の動きを見様見真似で真似ることだけ。しかも超劣化版。


 薙刀の刃とは反対の部分、石突で刃を弾いた。

 そうなれば土屋の前ががら空きとなる。

 土屋も教えていない弾き方に驚いているようで反応が遅れている。

 勝てる。


 寸止め出来るように突き出すと薙刀から振動が伝わってきた。

 そして俺の目の前には木製の薙刀があった。


「は?」


 理解が出来ずそれしか声が出ない。

 俺はちゃんと土屋の喉元に突き出したはずだ。

 それなのに俺の薙刀は土屋の腰当たりを通り過ぎている。


「お見事です。教えていない石突での防御を初見でしてくるとは思いませんでした」

「なにが起こった?」

「ひっかき受けです」


 その名前から大体のやり方が分かる。


「薙刀は竹刀と違って反ってありますから、相手の薙刀を引っかけ外側に向けその隙に間合いに入るという技術です。まあ、かなり武術的にな技術なのであんまり使われませんね」

「初見殺しすぎる」

「私の方が上ですから、仕方ないですよ」


 妹や近藤に言われたら腹立つ言葉も土屋夏帆に言われたら「そんなものか」と納得してしまう。

 正直負けたのは納得いかないが、奥の手っぽい技を出させたということで今回は許そう。

 あんなもの見せられたら勝てる気がしない。


「着替えてきますね」

「おう」

「覗いちゃ嫌ですよ?」

「覗かないから」

「覗かないんですか?」


 それは覗けと言っているのか。それともただ単に俺をからかっているだけか。

 いや絶対に後者だ。


「いいから早く着替えてこい」


 誤魔化すためにそっぽを向いてスマホに視線を落とした。

 ネット小説助けて。

 悪魔に襲われてるから。異世界のヒーロー達。助けて。


 しばらくして道場から豊胸した土屋が出てきた。


「私の胸がなにか?」


 流石にがん見しすぎた。


「いや別に」

「さっきまでサラシを巻いていたので息苦しかったんですよ」

「聞いてないって」

「でも気になってはいたでしょう?」


 純粋そうな目で俺の顔を覗き込む。

 しかしその目の奥では「そうなんでしょう?」とほくそ笑む悪魔が見える。

 ゆえに俺はこうする。


「そりゃさっきと明らかにサイズが違ったらな」


 退くのではなく押す。

 これにはかなりの退魔効果がある。


「えっち」


 ただ全ての悪魔に効果があるかと言われると自信はない。


「き、今日はなにするんだ?」

「逃げた」

「逃げてない。それが本題だろうが」

「今日は父と母に顔合わせをしておこうかと」

「だと思った。挨拶でもすればいいのか?」

「いえ、今日一日は家にいるので偶然を装いたいです」

「分かった。紐はあるか?」

「亀甲縛りの練習ですか? 朝からハードですね」


 急に帰りたくなってきた。

 これもしかして鮫島と二人キリになるより疲れるのでは?

 いや、疲れる。


「冗談ですから。そんな嫌そうな顔しないでください」

「……で? あるの? ないなら一応勉強道具も持ってきたから勉強でもいいけど」

「足を縛る紐なんていくらでもありますよ。あ、手錠にしてみますか?」

「名案みたいな顔してるところ悪いが普通の紐で頼む」


 今回の目的は顔合わせだろうが、出来るだけ好印象を残したいはずなのになぜわざわざ印象を曲げに行くのか。

 これが分からない。


「疲れるお嬢様だな」


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