第三十六話 「体育祭で男女二人キリでやる競技……セック!?」
「お兄、どっか出かけるの?」
「ああ、体育祭練習だ」
「……運動する格好には見えないけど」
俺の服装はジーパンにインナーとシャツ。
普段の服装からすれば結構カッチリしていると俺自身思う。
「電車を使うんだ。運動部でもないのにジャージで移動出来るか」
運動部でも帰るときは制服着用が推奨されているというのに。
「どうせデートでしょ? うわぁ。乗り換え早すぎて引くわぁ。彩姉にチクっちゃお」
「デートじゃないし鮫島はこのこと知ってるから」
「練習相手が女なのは否定しないんだ」
「実際女だし」
「え? 体育祭練習だよね?」
「うん」
「相手が女? 体育祭で男女二人キリでやる競技……セック!?」
「二人三脚だ」
想像力が豊かなのかいいことだが、豊か過ぎてこっちの想像力を超えてくる。
思春期真っただ中なのは分かったから叫ばないで欲しい。
「身体密着させるんだから実質セックス」
「暴論すぎる」
その満足げな顔やめろ。殴りたくなる。
「彩姉と出ればいいのに」
「色々事情があったんだよ」
「「えへ……さ、鮫島、い、い一緒によよよ夜の二人三脚し、しない? へへえへ」って言ったとか?」
「絶対その迫真の演技要らなかった」
「そりゃ振られるよ」
「勝手に言ったことにしないで」
そんなことを言えば鮫島じゃなくても俺は殺される。社会的にな。
「なーんだ。ただの浮気か」
「おい」
「だってそうじゃん! 前までは彩姉一筋だったのにさ! 入学早々他の女とさ! イチャイチャラブラブしちゃってさ!」
なぜに桃がここまで怒るのか。
「俺は誰とも付き合ってないんだ、浮気にはならない」
「クズ」
真顔からのその二文字が一番辛い。
「あんまりクズムーブしてると~ゴキブリにしちゃぞ☆ あ、これ原作再現」
綺麗に整えられた爪をビシッと俺に向ける桃。
最近のアニメについていける気がしない。
「本当に恋愛感情なしで動いてるから平気。じゃあな」
中二っ子な妹に背を向けて家を出た。
約束の時間まで一時間。
土屋の家に近づくにつれ俺の心臓は緊張と不安で変な鼓動を刻んでいた。
それもそのはず、今日は土屋両親との顔合わせなのだから。
土屋が言ったあの言葉「そのあと家族の用事がある」つまり家族が集まっている状況であり、そこに他人を招くとしたらただの体育祭練習ではないということになる。
これで間違ってたらすげぇ恥ずかしいけど。
「相変わらずデカい」
二回目でも迷わず来れるくらいには土屋家はデカい。
あの迷宮を内包しているとすれば当然か。
チャイムを鳴らしてしばらくすると聞き覚えのない声が聞こえてきた。
「はい? どちら様でしょうか」
「鮫島高校一年一組の鷹山来夢です。土屋夏帆さんいらっしゃいますか?」
「はい。少々お待ちください」
土屋の母さんだろうか。それにしては歳がかなり上のような気がする。
俺の名前を聞いても警戒した風はなかった。
しばらくしてインターホンではなく、木製の門が開かれて隙間から土屋夏帆本人が顔を出した。
「時間ピッタリですね」
「不都合でも?」
「いえいえ、ただ着替えが終わってないので少し待ってもらうことになりますけど」
「胴着?」
「はい。薙刀の稽古を」
「朝から?」
「はい。これからの時期は朝方の方が気温が低くて集中出来るんです」
「確かに。それは凄い分かる」
俺も夏場の勉強は朝からやることが多かった。
「薙刀か……カッコイイだろうな」
薙刀というのは漫画とかアニメの世界でしか見たことないし、それを振り回している姿というのは男女関係なくカッコイイと思う。
まあ、素人の俺が振り回したところで腰抜け足軽みたいになりそうだけど。
「よかったら見てみますか?」
「いいのか? 用事を先に済ませなくて」
「はい。今日一日ならいつでも出来るので」
否定をしないということは俺の仮説はあっていたらしい。
それと同時に緊張も倍増するわけだが。
母屋? とは別の建物。
和風建築でザ、道場! という風貌の建物に入ると学校の体育館のような広さだった。
「昔はここで指南をしていたらしいですが今は教えを乞う人がいなくなってしまいもぬけの殻となってしまいました」
そう言いながら土屋は壁に立てかけてある木製の棒を手に取った。
ただの棒ではなく、先が湾曲しており竹刀より断然長い。
土屋は俺に一礼すると切っ先を上へと持ち上げた。
「や!」
切っ先を振り下ろしてからの連撃。
素人目にはなにが起こったのか分からなかった。
手に持つ薙刀をまるで自分の一部のように優雅に舞っていった。
「見事なお手前」
「恐縮です。どうですか? 少し触ってみますか?」
「いいのか? ならやってみたい」
薙刀を振り回せる機会なんてないし、もしカッコよく振り回せたらと中二病故の妄想が働く。
土屋から使っていない薙刀を借りると一通りの構えなどを教えて貰った。




