第三十二話 身長がデカいだけでお姉さんとか、最高かもしれない
次の日の体育の授業。
運動勉強ともにガチ勢が集まる鮫島高校では授業が変則になる。
「座学がないって最高ー! もう一生体育祭やってよ」
短パンジャージ姿の近藤玲奈が晴れた校庭で元気よく腕を伸ばした。
「三回目から絶対飽きる」
「適度な運動だからいいんです。やり過ぎはむしろ逆効果になりますよ」
それに、活躍できる人と出来ない人が完全に分断されてしまう。
そして青春棄権者が続出するという事態になるのだ。
「頑張れよ障害物競走」
「凹凸が少ない身体こそ有利なのだ! ……え?」
「やめて。こっち見ないで」
自爆しておいて光を失った目で見るな。
「つちやんとイチャラブ二人三脚頑張ってねー。ヒューヒュー」
「小学生みたいな煽りやめろ」
「体つき小学生だから大丈夫だって」
「戻ってきて」
地雷で自爆した挙句自暴自棄になりやがった。
「まだ高校生じゃないですか。これからですよ」
「日々ちゃんと食べて寝ていれば大きくなります」
「鮫ちゃんが言うなら平気だ! 完全復活!」
鮫島の「科学的証拠はないですが」という小さくつぶやいた言葉、俺は聞こえてたからな。
哀れなり近藤玲奈。
体育の授業が本格的に始まれば各出場種目に分かれて授業開始。
俺の出る種目はパン食い競争と混合二人三脚である。
パン食い競争を毎日練習は出来ないから主な練習は二人三脚。
「よろしくお願いしますね」
「おう」
他の練習、特に騎馬戦練習の邪魔にならないように校庭の隅っこで足首を紐で結んでいく。
俺のキャッチボール相手の壁君の傍だ。
すまない壁くん。君を裏切るような真似をしてしまって。
「きつくないか?」
「はい。大丈夫です」
今俺と土屋の間には拳一つ分開いているわけだが。
それでもなんか良い匂いしてくるし熱というか体温を感じられる気がする。
妹以外でこんなに女子に近づいたのは初めてかもしれない。
鮫島とも手を繋いだことすらなかったし。
「ん。土屋身長高いな」
「そうですか? 同じくらいだと思いますけど」
「いくつ?」
「一六二センチですね」
「俺一六〇ピッタリ」
「お姉さんですね」
身長がデカいだけでお姉さんとか、最高かもしれない。
膝枕からの耳かきとかしてほしい。
「なあ、今回混合二人三脚に立候補したのって好感度稼ぎのためか?」
「はい。そうですよ」
悪びれる様子もなく土屋は言い切った。
「距離を近くするためには物理的に近づくのがいいかと思いまして」
「それはそう」
心の距離を一気に詰めるためには身体的接触が一番早い。
が、一番リスクのあることでもある。
ビッチや淫乱のレッテルを貼られかねないからな。
「近々、縁談相手と会うことになっているのです。なので鷹山さんと早急に距離を縮めなければならいないので」
「どうするよ。助けを求めた相手が極悪非道なゲス野郎だったら。女は子供を産むための道具としか考えていなかったら」
流石にここまでのゲスは小説の中でしか見たことがないが、他人を道具としか思わない人は絶対にいる。
「それは私のミス。甘んじて受け入れ道具として使われるでしょう。ですがそうならないための指標というのは存在します」
「相手の本心を見抜く方法ってことか?」
「はい」
結びなおす振りをしならがら俺は聞き返した。
「その人の周囲を見れば簡単です。特に、知らない過去を知ってる人を見れば」
「イマイチ分からないな」
「鷹山さんの場合は鮫島さんです。彼女が唯一、鷹山さんの中学時代を知っています」
「なるほど。んで? その鮫島から俺の何が分かるっていうんだ?」
鮫島から得られる俺の情報なんてマイナスすぎて関わりたくないと思われるのが関の山だと思うが。
「鮫島さんは、誰に対しても平等でキツイ性格だと思います。その鮫島さんの傍に中学からいて高校になっても一緒に居られる所を見る限り、自分勝手な王子様でないことくらい分かります」
なるほど。キツイ性格同士じゃ一緒にいるには無理があるってことか。納得。
「ってことは、縁談相手は自分勝手な王子様なのか?」
「いえ、優しい人ですよ。とても。大手企業の社長で子会社をいくつも持っている人です。事業に対する手腕も素晴らしく、悪い噂は一切聞きません」
そんな望んでも手に入らないような超良物件のなにが嫌なのだろうか。
婚活サイトに登録したら一秒で売り切れるぞ。そんな逸材。
「完全に私の好みの問題です」
「好みの問題で人動かそうとよく思ったな」
「この問題を解決できるのは、勉学かスポーツで実績のある人、且つ男性、しかも私と接点があるという条件をクリアできる人だけです。誰でもいいというわけではないんですよ?」
そう考えると案外該当する人は少ない。
運動での実績は鮫島高校に入った今年から作られる。
となれば、俺に白羽の矢が立つのは納得。
「なるほどな。全て計算づくってことか」
「これでも鮫島高校に入学できるほどの頭脳はあるので。それに、鷹山さんなら動いてくれそうな気がして」
「どうだろうな」
正直俺だって日々の人生を常に考えて生きているかと言われれば確実にノー。
直感で動くことや、気まぐれで本屋に入ったりもする。
つまり、俺自身土屋に助けを求められたときに動くかは分からないのだ。
勿論好感度が高ければ高いほど動くのは間違いないが、一度知り合いこうして裏を見せてくれた相手をそう簡単に切り捨てられるかと聞かれればそれも答えはノー。
面倒というか複雑というか。
こうして胸を押し付けられるたびに守りたいという気持ちになるくらいにはフクザツなのだ。




