第三十一話 種目決め
午後のホームルームは体育祭の種目決めが行われる。
雨宮先生の宣言のあと俺と鮫島が前に出た。
「それじゃあ体育祭の種目を決めていきまーす」
「なんでもいいという人は今挙手を。適当に入れてしまいますので」
鮫島がそういうと俺含め、数人の手が上がった。
五〇メートル走から順番に種目を決めていった。
がしかし、一つの種目だけは中々決まらなかった。
「男女混合の二人三脚ですが……雨宮先生、これは本当に男女でなければいけないのでしょうか」
「出来ればそうして欲しいです。運動ガチ勢のこの学校の盛り上がりどころですから」
「冷やかしの間違いでは?」
「そんな小学生みたいなことしませんよね?」
なんだろう。
ただの質問なのに妙な圧を感じる。
「それなら~鮫島と鷹山が出れば~?」
「嫌です」
馬鹿を演じた長谷川の提案を一刀両断。
嫌と言われたら俺からはなにも言えることはない。
理由は大方予想がつくし。
「だそうだ。悪い長谷川。諦めてくれ」
「そもそも、私と彼は体育祭の運営があるので一種目しか出られません」
鮫島高校名物、一年生主導の運営である。
マジで失敗しても責任取れないからな。
「でもそれってルールで決まってることじゃないよね?」
「ええ。あくまで私達の体力面を考慮してのことです」
「なら頑張ってよ」
懲りない奴だ。
前にボコボコにしたと思ったが案外メンタルの回復は早いらしい。
「だから……」
「なら私と一緒に出ませんか? 鷹山さん」
鮫島と長谷川の言い合いが始まる直前、柔らかい助言が教室中に響いた。
「もし鷹山さんさえよろしければお付き合いを」
恥ずかしそうに照れながら笑う土屋。
ここで断るのは男じゃないし恥ずかしいのを我慢して誘ってくれた土屋にも失礼というものだ。
決して、土屋の胸と合法的にくっつけるかもなんて思春期真っただ中の中学生みたいなことは考えていない。
「ああ、いいぞ」
俺の返答に鮫島が睨んで来た。
本心がバレたか? いやポーカーフェイスは完璧だ。
鮫島彩音に憧れて習得したこの特技。見破れるわけはない。
「平気だ」
「なにも言ってませんが?」
「目線が「大丈夫かお前」って言ってた」
「……倒れても看病しませんからね」
よし。バレてない。
と思いたいですが、視線がもう汚物を見る目です。隊長。
「桃にしてもらうからいいし」
桃の看病は雑だけど。
汗拭くためのタオルをびしょびしょで持ってきたりするからな。
絞れよ少なくとも。汗吸わないだろうが。
「ブラコンは他所でやってください。貴方がいいというなら私からはなにも。ただし、運営はしっかりとしてもらいます」
「分かってる。任せろって」
「あと夏帆になにかしたら……百回殺します」
「命の概念をご存じで?」
人間、命は一つしかないんだぜ? 俺も例外なくな。
まあ、鮫島彩音と一緒に運営するなら負担は実質ゼロに等しい。
ま、想定外のことがなければだけども。
「雨宮先生、取り敢えず全部埋めました」
「はい。ありがとうございます。先生からも無理はしないでくださいね。と言っておきます」
「調整はするので平気ですよ」
鮫島は未だ納得いっていないようだが。
なにがそんなに納得いかないのか分からない。
大事な友達が俺に汚されるかもと心配しているのだろうか。
その辺の安全は鮫島が一番保証出来ると思うけどな。中学の数か月、俺は一度たりとも鮫島彩音に手を出さなかったわけだし。
まあ、初めてのことが多すぎてそこまで頭が回らなかっただけだけど。
「よろしくお願いしますね」
席に戻ると土屋は俺に向かって意味ありげな笑みを向けた。




