第二十六話 小物感漂う極小悪党
案内が終われば生徒会長から次なる指示が出た。
「次はいよいよ本番、資料をもとにした説明だ」
「それも一年生がやるんですね」
「そうだな! 生徒会長他生徒会役員は裏方だ。大丈夫! 失敗しても作った資料が補助してくれる! 自信持て!」
確かに、あれだけ鮫島に鞭うたれて作った資料があるなら、不思議といける気がした。
一年一組の教室を覗くと保護者生徒合わせて満席状態であった。
まだ進級して間もないというのにもう進学先を考えているとは流石だ。
俺なんて鮫島との一件があってから進学先決めたのに。
「多くないですか?」
「なにを言う。秋以降のオープンスクールはもっと多いぞ。五組まで埋まったりするからな!」
その時は説明は二年生以降もやるというが、初めてにしてはいかんせんハードルが高すぎる。
「私と話せるくせに人前は慣れないんですね」
「威圧的な自覚はあるんだ」
「なにか?」
「いえ何も」
そういうとこ。
確かに一歩間違えれば必中の絶対零度で即死の鮫島と対等に話せるならたった一クラス分の人目なんてどうってことな。
鮫島に言われ急にそう思えてきた。
「行ってきます」
いつも授業をしている教室なのに違和感を覚えるこの感覚。
俺が教卓の前に立つと更に空気が変わった。
「えー。初めまして、説明を担当させていただきます、一年一組の鷹山来夢です」
「同じく補佐の鮫島彩音です」
鮫島の挨拶に俺は顔を見た。
補佐? 同じ一年生なのに俺が主動することが確定した瞬間である。
俺の不満に笑顔で「はよやれ」と言ってくる辺り女王様である。
「この鮫島高校はですね――」
自分に注目が集まる場というのは未だに慣れない。
鮫島彩音と他の人とのクッションになるなら平気なのに。
羞恥やらを説明することに注力しても今のはもっといい言い回しがあったとか、噛んだとか小さなことが気になってくる。
余計な雑念を振り払って俺は喋った。
「――以上で説明を終わります。長い時間、お疲れさまです」
特に台本などを用意していないためにこの辺は結構アドリブだったりする。
「今から質問タイムを行います。今この場で答えられることは少ないですが、疑問に思うことなどあれば遠慮なく聞いてください」
俺がそういうと一人の生徒の手が上がった。
黒髪メガネのザ、真面目といった生徒。
「なんでしょう」
出来るだけ緊張させないように、軽く聞く。
「はい。えっと……自分は学力が高くなくて鮫島高校に入れるか心配で……効率的な勉強方法などはありますか」
「なるほど。ではこちらからも質問を。勉強するときに音楽や動画、誰かと喋りながら出来ますか?」
俺の問いに中学生は首を横に振った。
なら俺の勉強法は正直当てにならない。
なぜなら、彼はシングルタスクであるから。
「鮫島さんはどういった勉強法を?」
壇上に一度も上がっていない鮫島に俺は回答を求めた。
「なにも聞こえない状況で数式や問題文のことだけを考えるんです。スマホなどは出来るだけ遠くに置き、勉強机にはペンと参考書以外には置かないといいと思います。時計は最も置くべきではないです。時間だけが気になってまったく進んでないのにやった気になってしまいますから」
「それだけ?」
「はい。他には特にやったことはありません」
おそらくがっかりした生徒もいただろう。
全国一位の勉強法とは完全に個人差のある方法で、とてもありきたりだったから。
ただ親御さん達は頷いていた。
「今鮫島高校の生徒としてこの場に立っている僕ですが、中学二年までは赤点スレスレ、というか苦手科目に至っては赤点をとるくらいに頭が悪かったです」
俺のいう赤点は平均点以下ではなく、三〇点以下という意味である。
「個人的に一番やってはいけないのは焦ることだと思ってます。焦って間違った知識を身に着けてもなんの意味もない。だから焦らず周りと比べず自分のペースを維持できれば勝ちだと思います。こう言ってはなんですが、模試はあくまで自分の勉強法が自分に合っているかの確認ですから、そもそもランキングをつけるのが間違いだと、僕は思いますけどね」
三年間一位の座に座り続けた人が平凡な勉強法であるならば、二年の途中から二位の座に座った俺はかなり過酷だったことになるだろう。
現実そんなもんだ。天才は悠々と上を行き、天才ではない人は地道に何度も確認しながら歩くしかないのだ。
これでなるほど、と理解して貰えたら万々歳だ。
「説明役の鷹山来夢と」
「補佐の鮫島彩音でした」
教室を出れば満足顔の雨宮先生が生徒会長に抱えられていた。
こう見ると完全に親子。
勿論、雨宮先生は子である。
「お疲れ様です! 初めてとは思えないほど上手かったと思います!」
「途中噛み噛みでしたけど」
「色んなこと考えちゃって」
俺の悪い癖。
結果、悪い方向へ行くこともしばしば。
「親御さんたちの反応見て分かりましたけど……利用しましたね?」
「ふっふっふ。気付かれてはしかたない」
近藤より小物感漂う極小悪党。
「どんなに利便性を語ろうが、教育理念を語ろうが、実績がなければ信じてもらえません」
「空っぽだからな。生徒が入って初めて機能するものだ」
なるほど。それを入る前に伝えたところで実感がなく、他人事で終わってしまうのか。
「なので、二人の実績を使わせてもらいました」
俺と鮫島が名乗った瞬間に数人の目の色が変わったのが壇上に立っていて分かった。
そこで利用されたことに気が付いたのだ。
「気を悪くしてしまったのなら謝ります。しかし、鮫島高校より頭のいい学校はありますし交通の面からいっても鮫島高校は素晴らしいとは言い切れないのも事実です」
「『使えるものはなんでも使う』精神じゃないと辛いのは生徒会長をしていても分かる」
少子高齢化とか言われてるし限りある生徒を獲得したいというのは分かる。
ましてや、誰でも入れる高校ではなく、進学校の分類に入る高校なら生徒もそう簡単には集まらないのだろう。
「別に気を悪くしたわけではないです」
「そうですか? ならまた協力して貰えますか?」
謝る姿勢を見せたあとのこの図々しさ。
幼女じゃなければ断っていた。
いつもご愛読ありがとうございます。
特にこれといったお知らせがあるわけでもないです。
ただ折角欄があるから使ってみようかなという感じです。はい。
なろうにしては進みが遅い拙作ですがお付き合いのほどよろしくお願いします。
ちなみに、近いうちにイチャコラ回があります。お楽しみに!




