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第二十四話 友情とは時にイケメンを凌駕するのである

「た、鷹山! まだ終わらないの!」

「もう二文」

「じゃあ鷹山もいれてじじ抜きしよ」

「なぜ自分から負けに行く」

「ふふん。おバカだねぇ。じじ抜きはババ抜きと違ってなにが抜かれてるか分からないから顔に出ないんだよ?」


 ああ、ババ抜きやったら負ける自覚はあるのか。

 だがお馬鹿なのは近藤の方だと教えてやろう。

 必勝法とまではいかないが、ババ抜き、じじ抜きには比較的勝ちやすい方法というものが存在する。


「だぁああ! 勝てない!」


 相手がトランプを投げだし発狂するくらいには勝率がいい。

 ま、この方法の真価は三人でババ抜きやじじ抜きをした場合に発揮されるのだが。


「土屋は知ってたのか?」

「なにがでしょう? あまり意識してなにかはしていませんでした」


 天然であの戦法で戦えるのか。俺は意識してないと忘れそうなのに。

 俺と鮫島は当然知っていたし、となれば知らない近藤の負けが込むのも納得である。


「ねぇ。なにしたの? え、マジック? それとも魔法?」

「簡単だ。自分の前の人が引いたカードを取る。これだけ」

「え、それならやってた気がするけど」


 真面目に教えろという圧が近藤からにじみ出ている。


「今回は四人でまた細かい確率は変わってくるが、近藤から土屋にカードが渡った時に土屋が捨てられなかった場合、それが俺と鮫島の二人が捨てられる確率が一〇〇パーセントになるわけだ。そして俺がそれを引けば五〇パーセントで捨てられるわけだ。さっきのカードカウンティングと一緒にやると勝率は九割を越す」


 さっき俺は五〇パーセントと言ったが三人の場合は一〇〇パーセントになる。

 ま、その引いたカードがじじやババじゃなかった場合だが。

 捨てられなかった場合、それがじじやババというのが分かる簡単な戦法。


「分かったか?」

「……そんな考えながら遊びたくない!」


 理解できなかったんですね分かります。

 ま、確かにそんなことを考えながらやったら楽しめないのは分かる。

 映画とかでメタ読みするのと同じだ。


「え、じゃあ必然的に鮫ちゃんが勝ちやすかったってこと!?」

「近藤で途中乱されるから今回に限っては不安定だった」


 ただ俺達三人は完遂しようとしていたから勝率が高まっただけの話。


「運に左右されるカードゲームないの?」

「あるだろ大量に」


『五十三枚の中から一枚とって、これはなんのマークと数字でしょうか』とかマジで運ゲー。

 運ゲーしすぎて出題者を殴り飛ばしたいくらいには運ゲー。


「それじゃ面白くないじゃん!」

「トランプで鷹山さんと鮫島さんに勝つのはほぼ不可能かと」

「くっそう。天才共め」

「悔しかったらここまで登ってこいよ~」

「むっかぁああ! 鮫ちゃん言ってやれ! 所詮はお前は二番手なんだよって!」

「虎の威を借る狐もここまで来ると清々しい」


 そしてそれでいいのか近藤玲奈。

 若干涙目になりながら鮫島のブレザーを握ってゆさゆさ。

 いつもなら真顔で「やめてください」くらい言いそうなものだが今は満更でもない顔している。


「あ~明日からゴールデンウイークか~」


 机に突っ伏した近藤が嫌そうに項垂れた。


「近藤さんは嫌なのですか?」

「嫌だよ。暇だし、店の手伝いしろってうるさいし。こっちは彼氏づくりに必死だっていうのに!」

「勉強すればせっつかれることもないのでは?」

「ふん。集中出来ると思う? このわたしが?」

「まったく」


 すぐに飽きてスマホに執心になる未来が見える。


「二人はいいさ。既に予定が決まっててさ。勉強だって集中して出来るだろうから。でもわたしは違うんだよ! 予定がないの! 店番ヤダー! 名前分かんないパンどことか言われてもわからないー!」


 パン屋の娘も娘でそれなりの苦労があるらしい。

 確かに近藤の店規模だったら二〇種類はあるだろうし、それを全て覚えろっていうのは酷なのかもしれない。


「ね、遊ぼ?」

「模試が近いので私は無理です」


 そんな切ねる願いも鮫島彩音は一刀両断。取り付く島もないとはまさにこのこと。


「遊ぼうよ~!」


 ただ両断するはずの刃が素直に通るかは別問題らしい。

 じたばたと駄々っ子のように手足をばたつかせる近藤。


「確かに模試の勉強も大事かもしれませんが、息抜きも大切ですよ?」

「そう! そうだよ!」


 その手があったと言わんばかり大便乗。

 近藤の小物感が凄い。ずいぶんと主張が強い小物だ。


「遊べばいいんじゃないか? 一年の模試で進路が確定するわけじゃないし、むしろこれで結果が良くなかったらそれはそれで断る理由になるんじゃないか?」

「とか言って一位になりたいだけですよね?」

「当たり前だろ」

「小物みたい」


 近藤にだけは言われたくない。


「……ゴールデンウイーク中の一日くらいならまあ、いいですけど」

「っしゃおら! なにする!? なにする!?」


 鮫島彩音の一日というどんなイケメン男子でも勝ち取れなかったものを簡単に勝ち取っていく近藤玲奈という恋活女子。

 友情とは時にイケメンを凌駕するのである。


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