第二十一話 『思考、行動、結果=勉強』
放課後、パソコン室で資料を作っていた。
「ふぁあぁ。すいません。寝不足で」
横から可愛いあくびと謝罪が聞こえてきた。
「ちゃっちゃと終わらせるか。大筋は外れてないか?」
「少し夢見すぎではないですか? もっと勉学や教育方針について情報をいれた方がいいです」
俺の資料が大筋から逸れてないかチェックするために俺が資料を作り、鮫島は添削をする方式。
尻に敷かれているようでむずむずするが、大幅に作り直す必要がなくなるのがいい点。
まあ、そのいい点を得るためだけに尻に敷かれた思いはしなきゃならないが。
「生徒用の資料だから少し夢見すぎ程度でいいんだよ。まず生徒にこの学校に通いたいって思わせられなきゃ意味がないからな」
「保護者用の資料も作っているんですか? そんなこと言われていませんが」
「手間にはなるけど伝えたい情報だけを伝えられるから効率はいい」
「むしろ非効率的な気がしますが」
「まあ見てろって」
生徒には少し砕けた言い方で距離感を近づけて青春の二文字をちらつかせる。
いじめ問題や偏差値故の難易度を棚にあげて。
逆に保護者には堅苦しすぎるほどの言い回しで鮫島高校の教育理念を語っていく。
「『思考、行動、結果=勉強』結構な教育理念を掲げてんのな」
「知ってて入ったんじゃないんですか」
「正直鮫島高校のことなんも知りません」
偏差値が七〇近いことくらいしか知らない。
先輩や雨宮先生から仕入れた情報がなければこの資料は出来なかった。
「鮫島高校の理事長は伯母だっけ?」
「そうです。お母さんのお姉ちゃんに当たる人ですね。それがなにか?」
「ってことは、鮫島もこの教育をされてきたわけか」
「言葉として聞いたのは最近ですけど」
「どう思った」
俺はかなり曖昧な質問をした。
「どうって……ああそうなんだー。くらいですね。実感はなかったですし」
「娘がそれなら他人の親はどう思うだろうな」
当然実感は湧かないだろうし、どういうことを実施しているのかも曖昧だろう。
「よし、こじつけよう」
「ちょっと待ってください。どうしてその結論に至ったのか説明を!」
キーボードを打ち込む手を止められてしまった。
「この教育理念は、赤ん坊の頃から自然と出来て意味があるような気がした。だから頭がガッチガチになった大人に言っても効果は薄い。だったら鮫島高校がやってることを無理やり結びつけてさも当然のように思わせた方がいい。そう思わないか?」
「それって……嘘をつくということですよね?」
「バレやしない。向こうは初見で元々曖昧なものなんだ」
それでバレたらこの学校の経営者陣か既に一人入学している人だ。
マイナス面がない素晴らしい嘘。
「相変わらず、嘘をつくことについては上ですね」
「それほどでも」
手が開放されキーボードに保護者用の嘘を書き連ねていく。
「出来た。印刷確認ついでに雨宮先生に見せてくる。だから先に帰っててもいいぞ?」
「いえ、抜け駆けはしませんよ。待ちます。作り直しなら必要となるだろうし」
「そうかい」
うーむ。
こういう『俺から遠ざける言葉』を否定されると期待してしまう自分がいる。
つい昨日、許したわけではないと言われたばかり。
でももう怒ってはいないのではないか、今弁明すれば許して貰えるのではないかという期待が膨らむ。




