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第十四話 キャッチボールしようぜ! お前壁な! 状態。

 調理自習のあとは体育。

 食べたあとの体育ほど苦痛な時間ってないと俺は思う。

 そして、鮫島高校一年一組の男子は元々偶数である。

 だが一人欠席してしまうと奇数となり二人ペアの場合あまりが出てしまう。


「それが俺というわけだ」


 前の授業の反動か元々男子との接点がなかったからか二人ペアの時に俺はあまってしまった。

 一人寂しく野球ボールを手に壁とキャッチボール。

 投げたらそれと同等くらいの力で返してくれる壁君とのキャッチボールだが、暇である。

 素直で文句の一つも言わずに相手してくれる壁君だが暇である。


「へーい彼氏ー! 今暇?」


 安っぽいナンパのような声を聞き振り返ると体育着姿の近藤と土屋がいた。

 校庭の半分は女子が使っていてハンドボールの授業中。


「サボりか? それともあぶれた俺を笑いにでも来たか」

「にゃははははは! ボッチとかぷぎゃー!」


 このクソガキ。顔面に野球ボールを投げつけてやろうか。

 キャッチボールしようぜ! お前壁な! 状態。


「笑っては、ふっ、可哀そうですよ」

「土屋も含み笑いなのやめろ。本当に何しに来た」

「友達自慢!」


 自信たっぷりに胸を張る近藤。

 土屋に促されて女子面に視線を送れば丁度鮫島がシュートを決めるところだった。

 可愛らしい桃色の髪とは裏腹にその顔はイケメンにすら見える。

 中学の時から運動能力は高かったが、今見た感じ更に磨きがかかっているように見える。


「鮫ちゃん。すごいよねー。経験者でようやく互角だよ」

「勉学のみならず運動まで出来るなんて、完全無欠ですよね」


 そう聞くと追いつこうとしている俺が馬鹿バカしく思える。

 なんせ相手は、全国中学模試一位の頭脳を持ち、各部活動経験者でようやく互角の運動神経を持ついわば超人である。

 かくいう俺は、頭脳はなんとかすぐ後ろまではこれたが、運動神経については中の中がいいところ。物によっては下の中まで下がる。


「中学で人気なかったの?」

「今も昔も人気だけはある」


 今も俺だけじゃなく男子の一部は鮫島のプレーに見入っている。

 ま、見入っているのはプレーか揺れる胸かは分からんが。


「でもあの性格だからな。告白した奴は相当数いるだろうけど全員撃沈しただろうよ」


 その相当数に俺も入るわけだが。


「鷹山!」


 先生からの集合がかかって近藤と土屋と分かれた。

 キャッチボールから実際の試合形式へと変わった。

 そして肝心のチーム分けが生徒主導で行われた。

 結果、


「十点差つけてやろうぜ幸樹!」

「楽勝だべ!」


 嘉川幸樹率いるイケイケ集団と、個々がバラバラなイケてない集団に分かれる。

 当然、運動神経は言わずもがな嘉川集団の方が高い。

 生徒主導でチーム分けすればこうなるのは目に見えていた。

 誰もが不満に思っているだろうが誰も口にしない。

 なぜなら、声に出しても届かないからである。


「鷹山チームは一人多いからこっちから攻撃な!」


 天真爛漫という言葉が当てはまるか、取り巻きの伊波が強引に攻守を決め試合開始。

 こうも最初から勝敗が見えているとこっちの士気はだだ下がり。

 所詮は授業。適当に投げてホームラン打たせて終わらせよう。


 向こうの打者はいきなり嘉川。

 姿を現しただけで敵の士気を下げ、女子達の士気をあげる。


「こうきー! ホームラン!」


 長谷川が「私の男」と主張するように声を張り上げる。

 出来ればここで三振させたい。そうした場合の好感度上昇具合を見たい。

 だが現実は非情で、俺が投げたボールは空高くへと打ち上げられた。


「やっべ、強すぎた」


 その一言と共に一塁に走る。

 そんな姿も爽やかで素敵ですねと、女子達の歓声があがる。

 ボールの位置を確認して嘉川に視線を戻せば、既に一塁にいた。


 続いての打者は取り巻きAこと伊波。


「っしゃ! 幸樹をホームに帰してやるぜ!」


 まるで隣で話しているかのような大声量。

 うるせぇ。

 大声で張り切るわりには明らかにボールでも全力で振ってくる。

 結果三振。


「わりぃ幸樹!」


 そこで俺への悪意がない辺り、本当に天真爛漫なだけなんだろう。

 自然と陰キャ排除が出来ててなにより。

 続いての打者にはツーベースヒットを打たれ、嘉川がホームへと帰って来た。

 野球部でもない俺の肩は既に限界。


「鷹山。サボってるなら単位やらんぞー」


 全力投球で肩が痛いというのになにをいうかこの教師。

 声の方を向けば体育の先生と鮫島の姿が。


「これでも全力なんです」

「中学じゃもっと投げてたってよ」


 いや本当にそんなことないから。

 中学の三年間帰宅部で動いてたのは学校の体育だけの男です。どーも。

 抗議の意味を込めて鮫島を睨めば優し気な笑顔を向けられた。

 俺知ってる。あの笑顔は心底楽しんでる時の笑顔だ。


「人の身体だからって好き勝手言いやがって」


 しかし俺の愚痴は届かない。

 ここは三振取って攻守交替した方がいい。俺の肩のためにも。


 鮫島への怒りも込めて投げたボールは俺の頭上を高速で通り過ぎていった。


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