第十三話 解決方法は、情報で殴る
「近藤。頭は落としたしグロイ部分はないからやれ」
「鬼畜~」
近藤にバトンタッチをして手を洗ってから仲裁へ。
「なに? 鮫島の味方?」
「いんや中立。まず事情を聞いてからだ」
敵視してくれたおかげでスムーズに入れた。
二人の話をまとめると、長谷川がつけている香水が臭いという鮫島と普通だという長谷川。
両者の意見は対立し押し問答。
「確かにキツイ。密室だから余計そう感じるのかもしれない」
「やっぱ鮫島の味方じゃん」
長谷川がより一層俺への敵対を強めた。
「違う違う。あくまで俺個人の感想。長谷川はなんで香水を?」
「だから普通なんだって、従姉は同い年でこれくらいつけてるって話!」
「ちなみに従姉の出身は?」
「日本じゃない」
「だからだよ」
やっぱりというかなんというか。
とにかく理由はとても簡単。
「海外の人の香水が強いのは体臭を消すためだ。毎日風呂に入るのは日本人くらいだからな」
「はぁ? 従姉は生まれは海外だけど日本住みでむしろ英語は話せないくらいだけど?」
「本人はそうだろう。だがその親は? 兄妹は? 十数年は日本だろうが他十年以上は海外住み。習慣というのは簡単に変えられるものじゃないからな」
結論、日本人に強い香水は必要ない。
むしろ最近はシャンプーやリンスなんかの効果で香水なしでも十分良い匂いがする。
桃が入ったあとの風呂はめっちゃ女性用の匂いがするからな。
「さてもう一度聞こう。長谷川は強い香水つけてるってことは毎日風呂に入ってないってことだが、それであってる?」
俺が笑顔で聞けば、鋭い睨みが突き刺さる。鮫島とは違う睨みで悪意より殺意に近い。
いつの間にか鮫島はもとの机へと戻り睨みは俺だけに突き刺さっていた。
「未来。鷹山のいうことも一理ある。今日新しいの買いに行こう?」
長谷川の後ろから呼びかけたのはその圧倒的顔面偏差値と爽やかさから我がクラスのキングとなった嘉川幸樹だった。
「でもこれお気にだしぃ」
彼氏に甘える彼女が如く愛想を振り撒く長谷川。
「実はオレはこの臭いあんまり好きじゃないんだ。もっと軽いのがいいかな」
「そうなん? ならどんな匂いが好きなのか教えて?」
さっきの睨みが嘘のようにキュルンとキングに甘えるクイーン。
最後に俺へと殺意を向けて嘉川のあとをついていった。
「近藤出来たかー」
「勿論! 完璧よ」
「ボロボロじゃねぇか」
「初めてなんだよ!」
それにしたってひどすぎる。
目、瞑ってやったなこれ。
「それとさ、大丈夫?」
「なにが?」
「無理してない?」
俺の顔を覗き込むように琥珀色の瞳をパチパチとさせる近藤。
「無理ってなにをだよ。俺だって、鮫島彩音の腰巾着とは思われたくないからな」
出来る限り何事もない様に。
俺だって報復は怖い。特に女子からの報復は拳じゃないぶん質が悪い。
ただここで弱音を見せるのは早すぎると俺は思う。
「だと思ったのでそうそうに退場させて貰いました。そして相変わらず情報で殴る戦法なんですね」
「一番手っ取り早くて強いからな」
時にはブラフや真実とごちゃまぜにして使ったり戦い方は変幻自在の無限大。
強くないわけがない。
捌くところまで終わったら恋活女子の出番。
「料理なら任せな! 乙女にとって料理は基本だし!」
近藤の自信も納得の腕前。
小さな頃から店を手伝っていたのだろう。
授業も終盤に差し掛かると家庭科室は良い匂いで充満した。
「おいしかったぁ」
「魚が捌ければ自分で作れるだろ」
「無理。内臓とかまじむり」
「慣れれば平気になりますよ」
「それは慣れてはいけない一線だと思う」
光を失った目でやりたくないと全力で拒否をしてくる近藤。
「鷹山もどうよ。付き合った彼女がいきなり魚捌きだしたら」
「カッコイイと思う」
「んなわけにゃいだろうが! 普通に引くわ!」
「マグロの解体し始めたら引くかもしれない」
近藤が「料理作ってあげるー」とかいいながらクーラーボックスから魚丸々取り出したら引くというより笑うと思う。
だって絶対面白いもんその状況。