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第百三十三話 その逆接は期待値を大幅に煽る

 放課後、仲良く四人で帰って最寄り駅で降りて自宅へと向かう道中。


「んじゃ。また明日」


 俺はいつも通り家近くの路地で鮫島と別れようとした。


「あ、あの! 待ってください」

「ん?」


 しかし鮫島に呼び止められて振り向いた。

 十月の西日が眩しく鮫島の顔が直視出来ない。


「私の体調も良くなりましたし、少しお話しませんか」


 俺の家は桃が居てゆっくり出来ないので鮫島の家へ。

 鮫島の家は相変わらず閑散としており、寂しい空気が流れている。

 その空気とは裏腹に俺の心はゲームセンター並に騒々しかった。


 なんの話なのか、状況的に悪い話である確率は限りなく低いという期待。

 寒くもないのに身体が震える。


 鮫島の部屋へと入り、差し出された座布団に座り、鮫島も机を挟んで向かいに座った。


「本題に入る前にクッションをおかせてください」

「ああ。いいぞ」


 あくまで平静を装い受け答えしていく。


「今日雨宮先生に言われた生徒会長の立候補について私は前向きです」

「うん」

「ですが、私は文化祭準備期間中に倒れました。その時に夏帆や玲奈から貴方の動きを聞きました。その時思ったんです。「私は完璧ではない」と。今まで疑いもしなかった自分の完成度。それが崩されたんです」


 悔しいような怒っているような語調で鮫島は語った。


「だけどそれが事実だった。なんの物証もありませんでしたが、事実だと分からせられました。その時の落胆は凄かったです。平静を装うのが辛いくらいに。それに追い打ちをかけるように従姉さんの登場。またも私が信じて疑わなかったことを否定されました」

「それはまあ、そういう時もあるとしか言えないな」

「貴方のように割り切れたらよかったと思います。もし割り切れるならこんなクッションは要りませんから。私は完璧ではない。では、なぜ今まで自分が完璧だと信じることが出来たのか。鷹山来夢。貴方がいたからです。貴方が私の失敗を修正しあたかも成功したかのように見せた」

「なんか悪いことしてる気分になってきた」


 良かれと思ったことが迷惑のはよくある話だ。

 だが善意をアピールするのはいかがな物かと思う。それこそ野暮というものだろう。


「いいえ、感謝しているんですよ」

「なら笑って貰ませんか」

「羞恥や怒りもあるので無理です」


 やっぱり怒ってらっしゃる。

 語調でだいたい分かってたけどさ。


「話を戻します、私が生徒会長としてやっていくには貴方の協力が必要不可欠です。私が生徒会長になった暁には副会長として私を支えてくれませんか?」


 好きな人からの協力要請。

 自分に出来る範囲であり、なんなら適任とまで言われた事。

 嬉しくないわけがない。

 だが、それと同時にがっかりもした。

 保留にされた答えじゃなかったから。


「ああ。いいぞ。副会長なら適度にサボれそうだしな」

「サボったら会長権限で縛り上げてあげますよ。麻縄なんてどうでしょう。今風に結束バンドという選択もありですよね」

「あ、物理的の話?」


 ちょっと趣味じゃないというか、縛ったり縛られたりは苦手なんだ。

 物理的にも精神的にも。


「ちゃんと任された仕事はやるよ。生徒会長」

「まだ決まったわけじゃないですよ」


 鮫島以上のカリスマを持つとすれば嘉川幸樹くらいなものだが、陸上と長谷川の更生で忙しいだろうから向かないだろうな。


「その話なら学校でも良くなかったか」


 その方がすぐに先生に報告で来ただろうに。

 しかも会長職以外は確か会長による選抜でその時に俺を指名すればいいだけなのに。


「言ったでしょう。クッションだと」

「副会長への就任依頼が本題じゃない?」


 再び高まる期待と身体の震え。


「顔、笑うなら笑ってください。気持ち悪いですよ」

「期待が顔から出た」


 おかげで口角がぴくぴくしやがる。


「本題は、この前保留にしてしまった貴方との関係です」


 その言葉を聞いた瞬間、心臓が跳ねた。

 近藤とどんな話をしたのか分からない以上、断られる可能性もある。

 しかも俺と二人キリでダメージは全て俺に来る。


「その……ですね。一年前、私は貴方のことが好きではありませんでした」

「へ?」


 急な嫌いだった発言に俺の頭は混乱した。

 どういうことなのか。どういう意図があってのことのなのか、短い言葉の裏を読もうと必死に頭を動かした。


「この前玲奈に回答を迫られそう思ったんです」

「ならなんで俺と?」

「分かりません」


 鮫島は俯いたまま首を横に振った。

 恥ずかしいのか緊張か、指をいじいじ。


「ですが、それは一年前の話です。一年前の私は自分を完璧だと思っていました」

「その逆接は期待値を大幅に煽るぞ」

「いいですよ。期待していても」

「え?」


 自分を落ち着かせるために放った言葉を鮫島はホームランで打ち返した。


「貴方がまた私を受け入れてくれるなら、また一からやりなおさせてください……私には貴方が必要です」


 一年間待ち望んだ言葉。

 ある日ふらっと従姉が現れて誤解を解いてくれないかと妄想までして一番望んだ答え。

 そのはずなのに喜びなどの感情は一切浮かばなかった。

 頭では理解出来ている。

 仲直り出来て、恋人関係まで戻すことが出来た。

 理解出来ているはずなのに。


「あ、あのなにか反応を……な、泣くほどですか?」


 人間情緒がぶっ壊れると涙が出ると今知った。


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