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第十二話 「殺しますよ?」

日曜をたっぷり勉強に費やして月曜日。

 ブルーマンデーとはよく言ったもので、例え朝起きた瞬間は普通でも嫌なことが起こると途端にブルーになる。


 満員になりつつある電車で発車を待っているとまたもや見覚えのあるピンク髪が。

 俺と目があるといつも通り冷ややかな目を向けられる。

 春から夏に行こうとして気温は十六℃と温かいのに今だけは超極寒。


「おはようございます」

「おはよう」


 軽く挨拶をして鮫島はイヤホンして自分の世界へ。

 相手が会話する気がないのなら俺もイヤホンをして音楽を聞きながらお気に入りのネット小説を読む。

 通学時間は唯一の読書時間なのだ。


 やはり、一言も交わさずに学校最寄りの駅へと到着してしまった。

 そしてまた、俺は駅前の本屋に寄って時間を潰した。




「皆さん。おはようございま~す」


 間延びした幼い声で雨宮先生が教室に入ってくると俺にボードを手渡した。


「クラス委員にはホームルームの進行をしてもらいます」

「初耳なんですが」

「大丈夫です。鷹山くんと鮫島さんなら出来ます!」


 その謎の自信はどこから。

 キラキラと目を輝かせる幼女からボードを受け取ってそのまま鮫島へ。


「なぜ私に?」

「俺のぼそぼそした声よりキリッと綺麗な声で言われた方が頭に入るだろ。あと、朝に聞くなら野郎の声より美少女の声だ」

「全くの意味不明です。顔に面倒くさいと書いてありますが?」

「バレたか」


 俺にジト目を向けた後、綺麗な声で読み上げた。


「体育祭の準備に伴い、時間割が不規則になります」

「まだなにか書いてあるぞ」

「読まなくてもいい内容です」

「ぶーぶー。最後までしっかり読んでください!」


 幼女からの厚い抗議により鮫島は続きを読み上げた。


「た、体育祭で、か、勝てるようにがんばろー……おー……」


 恐らく雨宮先生がお手製で書き加えた一文。

 雨宮先生なら言いそうなこと。それを鮫島が言うとここまで冷めた空気になるのか。

 鮫島本人も恥ずかしさで顔が真っ赤。無理して作った笑顔が引きつっている。


「ぶっ」


 笑ってはいけないと思いつつも俺は耐えられなかった。


「なぜ笑うんです? なにか面白いことでもありました?」

「別に」

「殺しますよ?」


 殺すが軽すぎる。

 こんなことで殺されるなら俺は今頃地獄に落ちている。


「勘弁。相変わらず不器用な。お前がやってみろでやらなくて済んだのに」

「それを早くっ! ……もういいです。あとお願いします。私はうぐいす嬢ではないので」


 鮫島からボードを押し付けられボードに貼り付けられた紙を淡々と読み上げていった。

 勿論、途中にはお手製の言葉もあったがちゃんと声に出した。

 反応はないし白けるがそれでいい。

 入学して二週間足らず。反応がある方がおかしい。


「はい。二人ともありがとうございます」


 仕事を終えて席に戻ると後ろから肩を指で突かれた。


「ん?」

「仲良しですね」

「そう見えるだけだ」


 実際はギッスギスでいつか噛みつかれてそのまま骨ごと噛み砕かれないかヒヤヒヤしながらやってるやりとりだ。

 ただ中学からの付き合いで鮫島のキャパシティを少しだけ知っているだけ。

 そのキャパシティを超えると絶対零度で凍り付いてしまうという危ない綱渡り。



 体育祭が始まると言ってもまだ四月で変則授業になるのはもう少し先。

 そして今日は家庭科の実習授業。

 メンバーは席順で縦。だが佐藤は休みで欠席。


「どうどう。わたしのエプロン。新妻っぽい?」 

「どちらかといえば中学生」

「はぁあ? 高校生ですけど!?」


 一か月前は中学生だったんだから正解なんじゃないですかね。

 しかし近藤からしてみれば違うようで金髪を振り乱し全力嫌々アピール。


「土屋はエプロンつけると母親感が増すな」

「はい? それは歳を取っているように見えるという遠回しの悪口ですか?」

「違う。母性があるなって話」

「わたしは!?」

「中学生」


 近藤と土屋が並べばまるで親子。

 誰かこの金髪中学生どうにかして。首が絞まる。


「鮫ちゃんと藤堂ちゃんには。どうなん?」

「なんで全員にエプロンの感想を言わなきゃならんのじゃい」

「わ、わたしはいいですから……その恥ずかしいので」

「そうですね。好意のない人からエプロン姿を褒められても吐き気がするだけです」

「人を選ばないと言葉のナイフでボロ雑巾になるぞ」

「お望みとあらばいくらでも刺してあげますよ?」

「やだ」


 鮫島の申し出に俺は笑顔で断った。

 俺だってそこまで鋼メンタルというわけではないのだ。言葉のナイフを投げられたら確実にボロボロになる。


 授業が始まって先生が一通り説明すると女子達のテンションは明らかに下がっていた。


「魚捌いたことない。ある人!」


 近藤が呼びかけても手は上がらない。

 今回はアジの三枚おろしでかば焼きにする予定である。


「鷹山。頼んだ。無理。グロイの無理! マジ無理ほんと無理!」

「乙女かよ。もう死んでるから痛いとか言わないから」

「乙女だよ! 列記とした女子高生! 人生の中でたった三年しかない! 違うよそうじゃなくてさ、目とかさ急にギョロってこっち向きそうで怖いんだって!」

「確かにそれはホラーだ」


 ホラーならそこから食われるところまでセット。そして一人目の犠牲者となるわけだ。

 ホラー見ないから知らんけど。


「土屋と藤堂は上手いな。慣れてるって感じ」

「い、一応お料理研究部に入ろうかなって思ってるから」

「もう部活決めたのか」

「うん。ま、まだ仮入部だけど」


 俺は中学の時と同じ帰宅部確定だ。

 なぜなら、スポーツと勉強の両立が俺には出来ないから。


 俺と藤堂が話している間に土屋は綺麗に三枚に下ろしてしまった。

 職人技と見間違うほどに身と骨がしっかりと分かれていた。


「昔から母に教わってきましたから。出来るのはほんのこれくらい。洋食は全然です」


 謙遜のつもりなのだろうが出来栄えが出来栄えだけに説得力がない。

 案外洋食も作らせたら出来てしまいそうではある。


 三枚下ろしの手順としてまずアジの頭を落とす。そして腹を少し切って内臓を出す。

 反対の机では嘉川達陽キャ男子が内臓をみじん切りにして遊んでいる。

 あ、先生に怒られた。

 続けよう。

 

「ここからが問題なんだよな。完全初見。感覚との勝負だ」

「簡単ですよ? 最初の刃を骨に食いこませるように入れて骨を削るように包丁を入れれば簡単に身をそぎ落とせます」

「なるほど」


 言われた通りに包丁を入れたが骨には結構身が残ってしまった。

 裏側が残っているにしろ、土屋のような綺麗な切り方ではない。


「だからなに? あんたに関係ないじゃん」

「あります。食品のある部屋でキツイ香水の臭いはただの悪臭でしかありません。前にも忠告したはずですが? 香水はやめるようにと」


 声が聞こえて目線をあげればカーストのクイーン的存在、長谷川未来と鮫島彩音が火花を散らせていた。


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