第百二十七話 「よって俺には生徒会長は向かない」
文化祭が終わり、学校は静かとなった。
「生徒会選挙?」
だがイベントが終わることはなさそう。
俺と鮫島は昼休みに職員室を訪れていた。
「はい! お二人のどちらかに生徒会長に立候補してみないかと!」
文化祭後で生徒は疲れているというのに雨宮先生の笑顔からはその疲れは見えない。
「勿論、二人とも立候補というのもありです。どうですか?」
生徒会選挙。
真野会長が三年生で今年度で卒業だから後継者が必要なのは分かる。
だが、なぜ俺達にその話が回ってくるのかは分からない。
生徒会の役員の中にも有能な人はいるし、順番通りに行けば次は神崎先輩達のはずだ。
「三年生の真野くん直々の指名……とまではいきませんがお墨付きなんです。鷹山くんと鮫島さんの連携は。体育祭が上手くいったのも、文化祭が上手くいったのも連携あってこそです。どちらが頑張ったとかはありません」
文化祭時に鮫島が倒れたことは担任の雨宮先生も知っている。
女児のような見た目でもしっかり生徒の性格を把握して配慮出来る。
教師の鑑のような人だ。
「適当な人を生徒会長にして困るのは生徒ですし、中途半端な人にはやらせられないのですよ」
「例えば?」
「いじわるするのは悪いことです」
バレたか。
ま、誰でもいいわけじゃないってのは分かる。
生徒の代表となる奴が伊波のような年中お花畑の冬でも短パン小僧みたいな奴じゃ生徒も先生も不安だろうしな。
「私より彼の方が適任ではないでしょうか。今回のことで私は自分の事で手一杯でしたし。彼なら周りを見て指示を出せるでしょう」
「俺は人の上に立てるような人間じゃないって。やっぱトップは女王様じゃないと。一般兵は上に立てない」
お互いの長所を知っている俺達はお互いに推薦し合う結果に。
ま、当然である。
俺達はほぼ真逆の人間。こうして関りを持てているのが不思議なくらいに合わない。
「生徒会役員は生徒会長の選抜がほとんどなので、どちらかが会長をやり信頼出来る相棒としてどちらかが副会長にするというのも可能ですよ?」
「「……」」
信頼出来る相棒という単語にお互いに目を合わせてすぐに逸らすというよくわからないことをしてしまった。
それを見て雨宮先生は口角を上げた。
「今すぐ決めることはないですよ。一週間後、また聞きますから。それまで考えてもらえればと!」
教室に戻るまでの短い道中、鮫島は俺の返事に疑問を抱いたようだ。
「なぜ即答したなかったんですか?」
「生徒会長って絶対忙しいじゃん。正直俺は自分のことで手一杯なんだよ」
心当たりがあるのか鮫島は黙り込んでしまった。
いくら俺が人に配慮出来るからといって人の上に立つ余裕があるかと聞かれればそれはノーだ。
鮫島という自分の意見を信じる人が思わず心を動かされてしまうくらいの勉強量あってこそ。
「夏帆の時はよく動けましたね。体育祭と模試と夏帆の件で三足の草鞋状態だったんですよ?」
「体育祭で座学がなくなって学校での復習が必要なかったからな。あと土屋の件はどこっか行って作業ってのがなかったから楽だったんだ」
その時に目的を理解出来れば事足りたから。
「よって俺には生徒会長は向かない」
俺が生徒会長になれば鮫島との対決はなくなるだろう。
「そこまで……私との時間が惜しいんですか?」
「ああ。めっちゃ惜しい」
模試というのは男女関係なく対等に戦えるものであり、傾向こそ分かれどどこの範囲からどの程度出るか受験者は未知である。
そんな男女で対決する上で最高と言ってもいい戦いの場を捨てるなんて勿体なさすぎる。
「ふ、ふーん」
「嬉しかった? 俺が学校運営より鮫島を取って」
「はい」
「お、おう」
まさか踏み込んで来るとは思わず言葉に詰まった。
とてもやりづらい。
今までだったら「は? 何言ってるんですか?」と冷風だったのに今じゃ恥ずかしそうに俺の顔をチラチラ。
バレてないとでも思っているのだろうか。
ギクシャクしたまま教室へと着いてしまった。
深呼吸を一回して扉をあける。いつもの顔。いつもの雨宮先生からの呼び出し。用件は生徒会選挙のこと。一年クラス委員代表の俺達に話が来てもおかしくはない。
「あ、なんの呼び出……鮫ちゃん、顔赤いよ? 体調悪い?」
俺が平気なら鮫島も平気だと思ったがそんなことなかった。
クラス中がどうしたのかと鮫島をチラ見。
「いいえ。そんなことないですけど」
「なんの呼び出しだったんですか?」
「生徒会選挙に出ないかっていう話」
そこまで言えば、鮫島の顔が赤い理由が俺にあることは明白で、土屋の目が少しだけ細くなった。