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第百十九話 子供が口の周りになにかつけてると可愛くなる現象

 神崎先輩のたこ焼きを食べ終え、校庭をぐるっと一通り回った。

 あーん的なイベントを期待したのに結局関節キスだけ。しかも指摘できるような雰囲気ではなかった。


「鮫島、神崎先輩が言ってたことなんだけどさ」

「なんでしょう」

「なんで効率を捨ててまで俺と回ってんだ?」


 ふと耳に残った神崎先輩の言葉はそのまま疑問へと変わった。

 確かに俺はサボる時はサボる。だから監視が必要ってのも分かりはするけど、二人でという最悪レベルで効率の悪いこと、鮫島彩音するとは思えない。

 だとしたら、他になにか言いたいこと、やりたいことがあると考える方が自然。


「……それは」


 怒ったような、困ったような顔をしながら鮫島は口を開いた。


「ちょっと待った。その話後で聞く」


 困惑鮫島の後ろ、今にも泣き出しそうな子供がキョロキョロと辺りを見ながら親を探していた。

 文化祭入って初めての対処が迷子か。


「迷子か?」


 俺の腰辺りの身長の男の子。

 ほっぺとかぷっくりしてて可愛い。


「うぐっ。うん。ママが、居なくなっちゃったの」

「そうか。なら、てんちょーと探そうな」


 まさかここに来てこの頭の悪そうな平仮名名札が役に立つとは。

 歳は保育園の真ん中程度。言葉を話せ自分で歩けるということは大体四、五歳

 男の子は両手を広げると鮫島に抱っこをねだった。


「私ですか?」

「そりゃな。フツメン男より美少女の抱っこの方が嬉しいだろ。誰であっても」

「自身をフツメンと評価していることに驚きです」

「え、もっと低いってこと?」

「行きましょうか」


 俺の顔面については触れられないまま鮫島は男の子を抱え歩き出した。

 昇降口から二階へと上がり正面、そこが放送室で連絡事項や迷子の放送などを行う場所。


「お、迷子か!」


 暑苦しい肉塊の出現に男の子は鮫島の胸に顔を埋めた。

 放送は生徒会長である真野先輩の役割。

 男の子を真野会長へと引き継ごうとすると鮫島のブレザーを握り断固拒否。

 目に溢れんばかりの涙を溜め首を横に振った。


「うむ。嫌われてしまったか」

「怖いだけですよ。俺達ですらこの子からしたらデカいのに真野会長はもっとですから」

「逞しいの間違いだろう!」

「その逞しさは敵からすれば恐怖の象徴になりますけどね」


 戦争で戦績を上げた兵士がそうであるように。

 論理的な思考を持たない子供にその逞しさを理解しろっていう方が傲慢な気がするけど。


「俺達は特に急ぎの仕事とかないんで、見つかるまで手伝いますよ。鮫島じゃ泣かすのが精一杯でしょうし」


 さっきから二コリともしないからな。


「なら任せよう。放送が終わったら戻ってくる」

「ありがとうございます」


 真野会長と入れ替わりで放送室に入った俺達。

 迷子の母親を見つける手段は色々あるが、名前を聞くのが一番早い。


「私がやります」

「え、こういうのは俺にいつも任せてない? 子供だよ? 再起不能にしたら慰謝料ものだよ?」

「貴方は先ほど私を馬鹿にしました。それがとてつもなく許せないのです」


 なんか知らないところで導火線に火をつけてしまったみたいだ。


「それに、貴方より私の方が容姿がいいですから」

「さいで。やってみろや」


 鮫島は椅子に座った男の子の前に屈むと笑った。

 さっきまで頬の一ミリもピクリとしなかった鮫島彩音が。


「お名前は?」

「……う、宇田、恵」


 鮫島は俺に目くばせするとそのまま喋り続けた。


「今あのフツメンのお兄さんがお母さん呼んでくれるからねー」

「フツメンは余計だろ。カッコイイでいいんだよ」

「恵くんはお菓子食べる?」

「うん」


 こくんと頷いた恵に俺はクッキーを差し出した。

 迷子用に常備していた近藤手作りの激甘クッキー。

 砂でも入ってんかってくらいに融けきれてない砂糖がじゃりじゃりとする激甘具合。

「これで全員糖尿病にしたろ」とテロを画策してたのも懐かしい思い出。そのあと鮫島警察に無言の圧を加えられテロは未然に阻止されたのだった。

 俺が持っているのは試作品。今日の朝、お遊びで作られたものだが、俺は食べれたもんじゃなかった。


「もっと欲しいみたいですよ」

「小麦とかアレルギーならどうするんだよ」

「その必要はないかと。さっき、この子を抱き上げた時に口の周りにクッキーの食べカスついてましたし」

「なにその可愛い状況」


 子供口の周りになにかつけてると可愛くなる現象に名前つけて欲しいくらい。

 恵は小さな手でクッキーを掴みこれまた小さな口で食べ続けていた。


 その後、お母さんが来て恵は激甘クッキーを持ったまま笑顔で母親の元へ帰っていった。


「演技、上手くなってたじゃん」

「はい?」

「さっき子供相手に笑っただろ」

「……貴方には負けたくないので」

「模試で負けたこと根に持ってる?」

「はい」


 なんと可愛らしいハイだろうか。

 これで勝っていたら俺はこの世にいないのではないだろうか。


 文化祭の最中ずっと、鮫島はなにか言いたそうではあった。

 だが口は開けど声には出ない様子。

 従姉は来なかったし解決はもう少し後になりそう。


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[気になる点] 模試同率一位であって負けてなくね?
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