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第百十七話 俺が大得意の嘘でも正当化は難しい。

「鷹山! お湯がもうないよ!」


 文化祭開始から僅か二時間でこの繁盛具合。

 暇だからとシフトに入って貰った土屋の影響か。これに鮫島がいたらさぞ捌ききれなかっただろう。


「確か弓道部が温かい飲み物配ってたからそこから分けてもらってくれ。熱湯だから気を付けろよ」

「クッキーまだ?」

「今内田と池本が家庭科室で大量に焼いてる途中」

「鷹山さん、列が長すぎだと指摘されました」

「整理券あるから、先頭から順番に配ってくれ」

「鷹山くん! なんで先生まで私服なんですか!?」

「小学生……いや、一周回って大人っぽくていいと思います」

「むかぁああ!」


 今は猫の手も借りたい状況なんで許してください。

 ただ雨宮先生は彼女というより、「妹」「娘」といった方がしっくりくる。


 列の人には整理券を渡し、お盆いっぱいにクッキーを並べた内田と池本も戻ってきた。

 お湯はまだ戻ってきてないが、戻ってくるまでの間なら今沸かしているケトルでなんとかなる。

 てんちょーの名札をつけた俺も接客をしながら大波はなんとか乗り切った感。


「少し落ち着いたし、実行委員の仕事してくる。三十分おきに戻ってくる」

「なら私も一緒していいですか?」

「ああ、そろそろ演劇か。いいぞ」

「ひゅーひゅーデートだ!」

「よそ見してると落ちるぞ」

「にゃあああ!」


 ほら見ろ。

 順位上げに必死になる近藤をよそに俺は私服姿の土屋と教室をあとにした。


「鷹山さんはどこがなにやっているのか把握してるんですか?」

「流石に全部は無理だ。運動部だけで五十近くの出店があるからな。さっきの弓道部は販売じゃなくて配布だったから覚えてただけ」


 今日は太陽下にいれば温かいが、屋内などの日陰に入れば寒い。


「どこから行くか」

「付き合ってくださるんですか?」

「どの道ある程度のところは行かなきゃだからな。最悪この腕章つけて歩くだけでいいって神崎先輩も言ってたし」


 そのあと福部先輩が訂正したが正直覚えていない。

 サボれる方向に流されて行こう。


「なら茶道部に行ってお茶を飲みたいです」

「行くところが渋い」


 そこは三年生のスイーツショップとか、砂校庭のお祭り通りじゃないのか。

 茶道部に向けて歩いていると土屋がふとこんなことを言ってきた。


「私達、どう見えているんでしょうね」

「どうとは? 普通に同級生だと思うが」

「そうでしょうか」


 土屋は悪戯っ子ぽく笑った。


「鷹山さんは制服に黒いジャケット、おまけにてんちょーの名札までつけています。当然鮫島高校の生徒です。ですが私は私服で、名札を外せば一般のお客様と同じです」


 文化祭で、制服と私服の男女ペアなら確実にカップルだろう。


「今だけは私のこの名札、外しますね?」


 土屋のような美少女に暗に「恋人として見られてもいい」と言われるとやはりドキッとするものがある。

 ネット小説のように異世界で好感度マックスハーレムが出来るならきっと土屋とは早々にくっついただろう。

 俺の諦めが悪いばかりに申し訳ないな。

 ただこればかりは、鮫島にも土屋にもいい顔するのは不貞行為だ。友達関係とは違うのだ。

 俺が大得意の嘘でも正当化は難しい。


「鷹山さんは鮫島さんのどこを好きになったんですか?」

「カッコイイところ」

「カッコイイですか。可愛いとか美しいではなく?」

「それもある。だけど、やっぱカッコイイだよ。勉強一本をあそこまで極めてさ、暇だからってやった料理も人に出せるくらいには出来て、おまけにスポーツだって経験者と互角レベルで動ける。地で天才を行くっていうのが凄くカッコイイと思う」


 俺では届かない領域だからこそ尊敬できるしカッコイイと思える。

 だが届きそうで届かないもどかしさがとても楽しく思える。


「そりゃ厳しい時は厳しいし、頑固っていうか一度言ったことは相当なことがない限り撤回もしないけど裏を返せば自分自身への信頼であって悪いことじゃないと思う」

「今の状況でもですか?」

「ああ。俺の状況はたまたま鮫島が間違っているだけで、それを証明できる術がある。それに、人生全問正解の人とか怖すぎて近寄れない」


 それはもう学生なんてやってないで預言者にでもなって国に所属した方がいい。

 新たな公務員の誕生である。

 職業預言者とか頭おかしい奴だと思われそう。


「なるほど、私が勝てないのも納得です」

「あーいや別にそうじゃなきゃいけないってことはなくてだな」


 余計なプレッシャーを与えたのかと俺が訂正しようとすると土屋は小さく首を振った。


「いえ、もし仮に鷹山さんの好みが「カッコイイ女性」ではなく「美しい女性」であれば勝てたなーというお話です」 

「そう……いう世界線もあったかもな」

「正直、鷹山さんのいう従姉が永遠に姿を現わさなければ、従姉の存在自体が嘘であればと常々思いますよ」

「心が痛い」

「そうであったならば、永遠に鷹山さんの無実が証明されることなく私のところに来るのも時間の問題でしたのに」

「本当にありそうな怖い話」

「事実にしません?」

「いやです」


 せっかく従姉の所在が掴め、近々帰ってくるはずなのだ。

 折角買ったケーキを道端のゴミ箱に捨てるような勿体ないことはしたくない。


 横を歩く土屋の頬はぷっくりと膨らんでいた。


どーも先日「スランプだー」と嘆いていたチョコです。

はい。抜け出しました。やっぱ異世界ものという違う土俵だったのが原因でしたね。


気晴らしに現代恋愛もの書き始めたらいつもみたく手が動きましたからね。私自身びっくり。単純すぎるだろうと。

ま、私が先生と呼んでいる人から「異世界ものはアイデアが固まってない」と言われたのもあり異世界ものは一旦ぶん投げました。(先生は書籍化とコミカライズを果たしています)


ということで、次回作はまたラブコメします。女の子が三、四人出てくるので甲乙つけがたいようなつよつよな女の子を書きたい所存。


といっても書き始めたばかりなのでまだ二話ほどですが。

投稿はおそらく来年になるかと思われます。正確な日時は最終話で。

それでは。ノシ

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