第百十三話 サボりではない。適度に気を抜いている。だ。
実行委員の仕事を終えて生徒会室を後にした俺は自販機で紅茶を買って保健室へ。
「失礼します。鮫島ってまだいますか」
「いるよ。看病の二人もいるはず」
「ありがとうございます」
保健室の先生にそう言われ鮫島が寝ているベットのカーテンを開いた。
女子三人が百合百合しくベットイン。全員が美少女級であり、近藤に至っては抱き着き寝ている。
そんな神々しくもある空間に俺は一瞬思考が停止した。
「……なにしてんの?」
「私に聞かないでください」
「鷹山さんも来ますか? 女の子の中に入れるチャンスですよ」
某大怪盗なら即パンイチになりベットに飛び込むだろうが、現実でそんなことすれば色々終わるし、なにより先生に怒られる。
「元気そうでよかった」
「おかげさまで」
「これ、寝てばっかで喉乾いただろ」
俺は自販機で買っておいた紅茶を差し出した。
「ありがとうございます」
「今日一日は休憩にしてあるからゆっくり休んでくれ」
「実行委員の仕事はどうするつもりですか」
「先輩たちに言って来たから」
そのついでに一つ片づけては来たけど。
「鷹山さんなら仕事を一つ終わらせて来てそうですね」
「まさか貴方!」
「おお、凄いな土屋。その通りだ」
今嘘をついても後々バレる。なんて鋭くなったのだろうか。観察眼も棘も。
「途中だったのを確認しながらだから間違いはない。勝手にやって悪かったよ」
「その声は反省していない時の声です」
「体調悪いって言ってる女子に仕事しろとは言えない」
「だからって勝手に!」
「悪かったって」
ぷんすかとしながら俺が渡した紅茶を一気にあおった。
「まったく。貴方だって人間なんですから倒れますよ」
「どっかの誰かと違って配分はしている。近藤と土屋に聞けば分かるが、俺は基本口出ししてないぞ。いるだけ」
カフェは完全意欲があるメンバーだし、演劇は藤堂が指揮を取っている。
俺の仕事はほとんどない。あるとすれば、藤堂の言葉を拡声することくらい。
デスクワークしかしてこなかったキャリア野郎に現場をかき乱されるのは誰だっていやだろう。
それと一緒。
「両方に指示してる鮫島の半分も満たないくらいの仕事量だ。そんな奴が一つの仕事やったからといって大した負担にもならないだろ」
回りくどい言い方ではあるが、こうでもしないと鮫島彩音は納得しない。
「サボってたんですね」
「失礼な、適度に気を抜いていると言え」
「物はいいようですね」
「俺まで倒れてクラス委員二人ともダウンしたんじゃ意味ないだろ。俺がサボってたおかげでこうして回ってるわけだしな」
それにしても弱った鮫島というのは可愛かったな。
意地っ張りではあったが、その意地っ張りさでも隠しきれない弱々しさがあった。
「頭のいい人が体調崩すと可愛くなるって漫画でやってたんだけどなぁ。しかも結構倫理的な側面からの話だったし」
「漫画はあくまで創作の世界です。多少の倫理を創作することだって簡単ですから」
「鷹山さんは、今の鮫島さんは嫌いなんですか?」
「いや全然? ただ弱った鮫島も可愛かったなと。怪我した子供が「平気だもん!」って言ってるみたいだったぞ」
「それを見れなかったのは惜しいですね」
「それ以上私を辱めるなら一生許しません。末代まで呪います」
そういう鮫島の顔は真っ赤っか。
これはこれで貴重だ。素直に照れるなんてこと今までの鮫島はしなかっただろう。
「ま、元気そうならいいや。俺はまた作業に戻る」
「あんまり進められると私が復帰できないんですけど」
「最初に真野会長が言ってただろ、本番が一番忙しいって。準備期間は正直俺一人でもいいくらいには仕事はないんだ」
「それでも進捗の説明はしてくださいね」
「了解」
土屋に面倒を見てもらい俺は生徒会室へと戻った。
結局話し合いという話し合いは出来なかった。
ま、病み上がりに難しい話題について話し合うこともないか。