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第百九話 疲れ

九月九日。

 文化祭準備期間も一週間が過ぎ、残り三週間を切った。

 演劇の方は台本なしでセリフを言えるようになったり、カフェの方は飲み物とか他にも作るものを決めたりとしていた。


「そうだ。カフェの方向性を決めておくのを忘れてた」

「なにそれ」

「メイドカフェとか、コスプレカフェとかそういうものだ。メイドは二年生が、コスプレは三年生がやるから別の物が好ましい。なにか案は?」

「バニーとか?」


 近藤は自分が着るということを分かっているのだろうか。

 そもそもバニーなんて言った日には学校側から許可が下りないだろう。


「普通に制服で良くない? 着替えるのだるいし」

「いいのか? 折角の文化祭で制服にエプロンってかなり地味だし売上に関わるぞ?」


 といっても長谷川からすれば目的の人物に食べてもらえればいいんだろうが。

 クラス委員で出し物の管理を任されている身からすればそういうわけにもいかない。


「鷹山なんか案ないの?」

「んー私服なんてどうだ」

「なに。あんたそういうフェチあんの?」

「やらしー」

「私服でやらしーとかやらしいのはお前らじゃい」


 近藤のオーバーオールで欲情しろってのがそもそも難しい。


「池本、内田は女子の私服を見たことあるか?」

「うえっ。な、ないよ」「ねぇな」

「そうだろう。俺も近藤の私服しか見たことない。つまり珍しいわけだ」


 私服を見るなんてのは制服が導入される中学辺りからめっきり無くなる。


「そこにエプロンという普段つけない物が加わると絶大な破壊力が加わる。いわゆる彼女シチュってやつだな。彼女がいない人には刺さるだろうよ」

「鷹山じゃん!」

「だから推してんだよ」


 母親父親世代であれば甲斐甲斐しい娘のようなシチュにもなれば、俺達より少し上の年齢であれば妹になるという超錬成。

 しかも絶対クイーンの長谷川未来が嫌々ながらも料理を作ってくれるというシチュは下位カーストの人にはたまらないだろう。

 ぜひたった一日だけでもその愉悦感を味わってほしい。


「どうだ。なんの衣装かも分からない衣装着るよりはいいと思うが」

「わたし別にそれでもいいや。楽だし」

「私服ならそのまま打ち上げいけるしな」


 リア充で体育祭の時にも打ち上げをしたリア充軍の長谷川達には効くだろう。


「うん。それでいいや」


 長谷川の了承が取れたら本田と藤山も黙って頷いた。

 

 カフェの方向性を決めて交代の時間。


「カフェの方向性と装飾を俺はやった。一応私服にエプロンというスタイルだ。装飾はほぼほぼ完成してる。あとは飾るだけって状態だ」

「分かりました。こちらは全通しして終わってしまいました。殺陣や細かい表現をお願いします」

「了解……疲れてる? 疲れたなら休んでてもいいぞ」

「平気です。貴方に心配されるほど軟じゃありません」

「さいで」


 少し疲れが見えなくもないが、本人が大丈夫というなら止められない。

 土屋が言っていた、「焦っているように見えた」というのも俺には分からない。

 今こうして話していても焦っているようには見えないのだ。

 

 まあ、鮫島が指導している場を見ていないからそう言えるのかもしれないが。

 体育館前で別れそのまま中へ。


「た、鷹山さん。これ、鮫島さんからのメモです」

「ありがとう藤堂。藤堂から見て鮫島に異変はあったか?」

「と、特には……」

「そうか。俺も見とくけどなにか異変があったら伝えてくれ」

「わかりました」


 これで演劇側に鮫島の様子を見る人を作ることが出来た。

 カフェは忙しくないし異変があれば近藤でも誰でも声をかけるだろう。

 俺も、鮫島を休ませる口実をなにかしら作らなければ。


 鮫島に疲れが見えてから三日。九月十二日。

 案の定というか、やっぱり鮫島彩音はダウンした。

 体育館から教室へ行く途中、壁にもたれかかった鮫島を発見。


「鮫島!? おい、しっかりしろ!」

「へ、平気です。立ち眩みがしただけですから」


 本人はそう言うが、明らかに呼吸が乱れている。顔色も真っ青で覇気はなく、言葉も弱々しい。


「頑張りすぎなんだって」

「貴方と同じだけの仕事しかしていません」

「いいから喋るな。立てるか。保健室行くぞ」

「平気って……言ってるじゃないですか」


 立とうとするが脚に力が入らないのかすぐに座り込んでしまう。

 世話のやける女王様だ。


「暴れるなよ」


 肩と膝の後ろに腕を差し込んでそのまま持ち上げた。

 普段運動していない弊害か、重く感じる。

 なんで少女漫画のイケメンはこういう時にスッと持ち上げられるのだろうか。


「ちょ、ちょっと!」

「暴れるな。保健室に強制連行だ。叫んでも下ろさないからな」


 といっても体育館入口と保健室は目と鼻の先。今の鮫島が歩くには遠いが、俺からすればめっちゃ近い。

 足でドアを開けて保健室へ。


「どうしたの」


 保健の先生が目を大きくして聞いてきた。


「鮫島が倒れました」

「倒れてません」

「倒れる寸前でした」

「……」


 俺の勝ち。

 案内されたベットに鮫島を下ろして腕の痺れから開放された。


「そこで寝てろ。疲労状態での仕事効率の悪さくらい分かるだろ。皆のため、自分のためを思うなら尚更にな」


 不満げな鮫島を残して俺は保健室をあとにした。


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