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第十話 なんでマイナス×マイナスはプラスになるの?

 昼食休憩を挟んだらすぐに勉強へと戻る。

 喋り声があった部屋もいつの間にかシャーペンが走る音のみが聞こえるだけとなった。


 それだけ静かな空間なら集中もしやすく三十分とかからずに一ページ分を解き終わった。

 まだ習っていない単元ではあるが、教科書の公式に当てはめれば解けなくはない。


「鮫島。ここの問題分かるか」

「ここの値を代入して計算しないと解けません」

「さんきゅ」


 もし解けないのならば、全国一位の頭脳に助言を頼めばやってくれる。

 それが自然か意識しての助言かは分からないが。

 

 ノートにひたすらに公式と途中式、回答を書き連ねて間違えた部分は赤で修正をいれる。

 間違えた部分は次のページに同じ内容を書く。裏や隣に書いた答えを見ずに。

 それで正解したら次の問題に行く。一週間経ったらまた同じことをする。

 これが俺の勉強法。

 

 勉強の天才でもない俺は地道に反復するしかないのだ。


「ねーねー」


 勉強する気を微塵も感じさせない近藤がノートに絵を書きながらいった。


「なんでさ、マイナスかけるマイナスはプラスになるの?」

「ああ、それなら……」


 鮫島の説明してやれという目線を受けて俺はシャーペンを置いた。


「簡単だ。嫌いな奴(マイナス)嫌な思い(マイナス)をしてたら嬉しい(プラス)だろ?」

「うわサイテー」

「私も初めて聞いた時即答されてドン引きしました」

「もっと人の心を大切にしてくださいね」

「待って。なんで俺責められてるみたいになってるの? 分かりやすかっただろ?」

「分かりやすかったけどそれを即座にイコールに出来ないよ。普通」


 こんなにも誰でも共感出来て数学の謎が解けることもそうそうないと思う。

 だが三人の目線は依然冷たいままだった。


「じゃあさ、ライクとラブの違いは?」

「ライクは受動的、ラブになると能動的。もっと簡単に言うなら、好きだなーって言ってるうちがライク。好きでラブレターとか告白とかするとラブになる」


 横から「お前が愛を語るな」という強い殺意が感じられるが俺はちゃんと誤魔化せているだろうか。

 内心ビクビクで意識しないと声が震える。


「動いたからといってしっかり相手にLoveが伝わっているかどうかは別問題ですけどね」

「なんか、鮫ちゃんがラブっていうとネイティブで……いいね」

「やめてください」


 平坦な声で言う鮫島。

 前なら極寒を超える冷たさの目をしながら冷ややかに目で訴えたのに今はそれがなかった。

 中学では友達がいなかった鮫島が近藤と土屋と仲良くやれるか心配だったが、その必要はなさそうだ。


「では鮫島さんのライクからラブに変わる境界線はどこでしょう」

「あー確かに気になるー!」


 勉強そっちのけで鮫島彩音インタビューへと早変わり。

 飛び火しないように参考書に目線だけは落としておこう。勿論耳でしっかり聞いている。


「そんなの分かりません。私だってまだ高校生になったばかり、恋愛だって一回しかしたことありません」


 鮫島彩音の色恋は同じ中学にいた俺でもまったく聞かなかった。

 つまり、今言った一回というのは俺のことを言っているのだろう。


「えっ! 鮫ちゃん恋愛したことあるの!?」

「ええ、無残にも散っていきましたけど」


 マジでごめんと声に出していいたいけど我慢だ。


「相手は!」

「言ったところで分からないと思いますよ」

「鷹山さんは知らないんですか?」

「あーチラッと噂レベルで聞いたことはあった。けど、入学式当日にあの絶対零度を放つ鮫島だぞ? 単なる噂だと思ってた」


 あくまで俺も初耳というスタンス。

 これには鮫島もにっこり。その笑顔がよくやったの笑顔であって欲しいと切に願います。


「なーんだ。え、どんな人? 頭良かったの?」

「頭はいいでしょうけど馬鹿な人だとは思います。散っていった理由は私より好きな人がいたようで」


 今ここで違うと否定しても受け入れてもらえないだろう。

 しっかりと好感度を溜めた状態で挑まないと進まないイベントだ。

 馬鹿みたいに時間を食う。だが俺は高校生になったばかりで最低でも三年はある。

 三年ギリギリかかってもいい。しっかりと説明しなければならない。


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