第百七話 冤罪の可能性が微レ存 ※彩音視点
「鷹山君。これ、各担任の先生から預かってきました!」
「ありがとうございます」
放課後。
彼が雨宮先生から各学年の出し物が書かれた紙を受け取った。
「他のクラスなにやんの?」
「なんか、テーマパークとか書いてあるな。遊びいっぱいとも」
「かなり出店の数が多いですね」
「文化部なども店を出しますからね。総数はかなり多いです」
「俺生徒会長にこれ出してくるわ。鮫島は先に帰ってもいいぞ」
「そうですか。ならお言葉に甘えて」
彼が見えなくなって帰ろうと立ち上がると小さな手が私の手首を掴んだ。
「ちょっと待った! つちやんが話あるって」
夏帆の顔を見ると申し訳なさげというか話があると言っていた。
「なんでしょう」
夏帆の口から聞こえてきたのは意外な言葉だった。
「前に言った恋人候補の件、白紙にしました」
あれほど私を焚きつけたくせに引くときはあっさりと引いた。
焚きつけるための嘘だったのか、それともなにか他の考えあってなのか。
「夏休みに私は鷹山さんと鮫島さんの過去について聞きました。そして鷹山さんの反応から本気だと知り手を引くことにしました。もし私がこのまま恋人候補になり続けても明るい未来はちょっと想像出来なかったです」
そういうこと。
「ああ、だからあの日怒ったの? ほら、夏休みの課題が終わらないって模試終わりに鷹山呼びだしたじゃん?」
「そうですよ。折角人が諦めようとしているのに焚きつけるようなことを言うからです」
「だ、だって! 仕方ないじゃん! そんな会話してるとは思わなかったんだもん! ただ恋愛の、いい感じに甘い空気を感じただけなんだもん!」
こういう時に玲奈は元気で羨ましい。
私からすれば圧力でしかない。
「それに、鷹山さんは優しいですから。きっと私の存在は邪魔になると思ったので」
「それが裏目にでないといいですね」
「どういう意味?」
「彼は嘘の天才です。私でも敵わないです。そんな人が正直に言うでしょうか。私はまだ彼を疑っていますよ」
「えーでもあんな必死な鷹山初めて見たよ。ガチギレは見たことあるけど」
「どんな風に怒っていましたか?」
「情報で殴る的な。多分二人きりだったら胸倉掴んで逃がさないと思う」
「そ、そうですか」
「夏帆。顔が惚けていますよ。……とにかく、私は物証がないと信じません。その従姉という人が現れるまでは彼を疑ったままです」
私だって彼のあんな必死な表情は初めて見た。
けれどそれだけで信じることは私には出来ない。
それだけ彼は嘘をついてきているし実績を作りすぎた。
「ですが、その従姉が現れた場合鮫島さんは意味もなく一年間鷹山さんを疑い続けたというわけですよね?」
「鷹山健気すぎない? 私ならすぐつちやんに乗り換えるけどね」
「そうかもしれませんが、そもそも浮気と見られるような物理的距離感で歩いているのが悪いのです。彼女がいるにもかかわらず他の女性に腕組みまで許して……」
無理矢理剥がすでもなくそのままにしていたのだから有罪としていいのではなかろうか。
「まあまあ。でも弁明とかされなかったの?」
「覚えていません。当時はショックが大きくて混乱していたので」
「鷹山への冤罪って可能性は……?」
「……な、ないと思います。彼は晴らせる冤罪を放置したりしません。放置それすなわちその人との繋がりを切るということですから」
「晴らせる冤罪は晴らす」と彼は言っていた。
ならば私に疑いをかけられた時点で走って追いかけてでも弁明をすべき。
それがなかったということはやはり彼は有罪。私の判断は間違いでない。
「まあ、それは鷹山さんと鮫島さんの問題なので私たちからはなにも言いませんよ?」
「そだね。でも! 困ったことがあったらこの近藤玲奈に相談を! 待ってるよ!」
「ただ気になるだけでは?」
「そうだけど?」
人大好きな彼がため息をつくのも理解できる。