第百二話 文化祭に向けて
夏休みが終わり、九月。
始業式のあとに折りたたみ脚立へと登った雨宮先生が小さな手を広げて言った。
「待ちに待った文化祭ですよ! 高校の華とも言えるこの文化祭。十月の頭にあるので、今からなにをするか決めます!」
雨宮先生とバッチリ目があって進行を任された。
最初と同じく、書き手は鮫島、聞き手は俺。
「よし、なにがしたい」
漠然とした質問を投げかけても答えは沈黙。返ってこない。
「なにもしないという案を書いてくれ。初めての文化祭をクラスで、なんの思い出も作らず思い思いに過ごす。その方が楽だろう」
俺はあまり感じないスクールカースト。
それがある以上、苦手意識がある人もいるだろう。それを無理やり動かしてクラス一丸とは言えない。
ま、マクドナルド理論でどうにかなればいいけど。
「えーそれならカフェやろう。カフェ。文化祭といえばでしょ」
声をあげたのは我らが恋愛番長、近藤玲奈。大変助かる。
「カフェは準備段階では人がいるのに対し、当日は料理人と配膳係、受付、会計……宣伝係、万が一の補給係を含めても十五人いらないからな」
「半分は暇になりますね」
「そういうこと。ま、部活動での出店とかあるだろうから全員使えないとしても暇すぎるというのもどうかと思う」
「鷹山くんからはなにかないんですか?」
小さな悪魔が突っついてきた。
だから正論で叩き潰す。
「ありますよ。でも当日俺は文化祭実行委員なんで参加は出来ないんですよ。先輩達に協力を要請すれば平気かもですけど、初めてで勝手が分からないんで、黙ってただけです」
「案がないなら言えばいいんじゃないですか?」
「俺の案は演劇、これも準備ではカフェ以上に人手がいるのに本番はそうでもない」
背景作り、衣装、小道具、化粧などをするならメイク係など準備に人手が足りるか心配なレベル。
ま、そこはどんな演劇にするかによる所があるけど。
「いいじゃん演劇! 幸樹主役にして稼ぐべ!」
「爆薬しかけてド派手にいこうぜ!」
「血のりぶちまけてスプラッターとか面白そうじゃね!?」
体育館に恨みでもあんのかお前ら。
「簡単に、カフェと演劇の二つでも良いよって人は挙手を頼む」
クラスのことにあまりやる気がないのかすぐに多数の手が上がった。
「次に人手の配分。まずカフェやりたい人」
「はい! はいはいはいはいはいはい!」
「わかったから座れ」
近藤玲奈の名前がカフェの横に書かれた。
魂胆は分かるが、必死すぎて笑えてくる。
「他には、メイド喫茶じゃないから男でもいいんだぞ。あとカフェの知識があると助かる」
「鷹山さんはないんですか? コーヒーとか好きそうですけど」
「生憎コーヒーは苦くて飲めない。あの砂糖とかミルクとか大量に入った限りなくココアに近い奴ならなんとか」
「おこちゃまー」
「オレ系しか飲めない近藤に言われたくない」
その後、料理番と配膳係は埋まった。
高校一年生になったばかりで帰り道の買い食いとかもし始めた頃だろうし、カフェの情報は取れなかった。
知っていたら俺でも鮫島でも教えてもらうことに。
意外だったのが、長谷川がカフェの料理係を申し出たことだ。
夏休み中の献身さを見ると更生したのだろうか。
ただカフェを選んだ他面子からは少し疎まれていると外野の俺が感じた。
イジメていた奴が逆にイジメられるなんて珍しくもないし因果応報だとは思う。
ただそれを見て見ぬふりをするのは違うと思う。
ま、まだそうと決まったわけじゃないから動けないんだが。
「次に演劇のキャスト決めだ」