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第九話 それは同級生というより変質者

シャーペンが走る音とポキポキとなにかを折る音が聞こえる異様な空間。


「ねー休憩しようよー」


 ポッキーをもそもそと食べる近藤が机に頬をくっつけて言った。


「始まって二時間しか経ってないので後です」

「この問題解いたらな」

「なんだこの勉強ガチ勢。鷹山なら流せると思ったのに」


 だろうと思ったから新しい参考書買ってやってんじゃい。終わらないようにな。


「凄い集中力ですね。流石といったところでしょうか」

「凄いじゃないよー。折角友達出来て遊べると思ったのにー」

「なら最初から遊びに誘えばよかったのでは?」

「鷹山は男の子だから来るだろうけど鮫ちゃんが来ると思う? ただの遊びに」

「来ないと思います」


「だから勉強ってことにしたのー」と机にへばりついて答える近藤。

 それを可哀そうと思ったのか土屋が提案をした。


「お昼にするのはどうですか? 丁度時間もいいですし、連続しての作業は返って効率が悪いです」


 土屋の言うことはごもっともで近藤の部屋にある置時計は十二時を示していた。


「そうだな。俺は少し休憩しよう」

「わたしパン持ってくる!」


 近藤が勢いよく自室を飛び出していった。いいのか家主というか自分の部屋に友達をそのままにして。


「私は続けます。第一回目の模試が近いので」

「そうなのですか」

「五月の二三だな。一か月はある」

「その慢心でいつも私に届かないんじゃないんですか?」


 目線を参考書から離さず淡々と煽ってくる鮫島。

 実際その通りだと思うからなにも言い返せない。


「次はどうかな。その慢心してる男に寝首を掻かれないようにな」

「当然です。私は慢心はしませんし敵の前で油断することもしません」

「今度こそ俺が頂点に立ってやる」

「何度目の宣言ですか」


 呆れたとでもいうように鼻で笑う鮫島。

 このやりとりをすると中学生時代のまだ仲が良かった時を思い出す。


「お待たせ! ん? なんだこの恋愛の波動」

「誰と誰の恋愛ですか?」


 それまで参考書から目を離さなかった鮫島がにっこり笑顔で顔をあげた。

 肩をビクつかせた近藤は「さ、さぁ。誰と誰だろ~」と誤魔化しならがお盆を机に置いた。


「これ冷凍してあったのか?」

「うん。レンジでチンしてトースターで軽く焼けば焼き立てくらいにはなるよ。凍ってるから水分は適度に含んでるし」


 流石パン屋の娘。

 この短時間でそれをやってのけるとは慣れてるなー。


「てかさ、鷹山は今女の子のしかも同級生の自室に入ってるだよ? なんとも思わない?」

「なんともとは」

「もっとこうさ。『ああ、女の子の部屋だぁ。ぱ、パンツとか、ないかなぁ』とか物色するもんじゃないの?」

「それは同級生というより変質者な。俺はそんなことしないしそもそも土屋と鮫島の監視があるから出来ないだろ」

「監視がなければやるんですか?」


 鮫島の汚物を見るような目にも俺は屈しない。


「前の文をちゃんと聞け。俺はそんなことしないとちゃんと言った」

「えーでもつちやんと鮫ちゃんがいなければタンスの中とか漁ったでしょ~」

「漁りはしないがキョロキョロはしたと思う」


 だって女子の部屋だぞ? 緊張するに決まっている。 しかも高校で初めてあってまだ一週間ちょいの女子にの部屋だ。

 緊張しないイケイケ陽キャは野球の授業で大事な所にデッドボールしてしまえ。


「ま、出会って一週間で家にあげる女はいないと思うけどね」

「近藤は?」

「わたしは逃げ場として呼んだけど結局敵だったってパターンだから特殊よ特殊」


 それってもう絶望じゃない?

 敵しかいないだろその空間。


「それより食べようよ! 鮫ちゃん!」

「お構いなく。自分のタイミングで食べるので」


 そう言った瞬間、誰かのお腹が鳴き声を上げた。

 四人しかいない部屋の中で誰か特定するのに時間はかからなかった。


「私じゃないです」

「なにも言ってないけど」

「なら見ないでください。不快です」

「顔、まっか……」


 目の前にシャーペンの先が出され黙れと目線で訴えられる。

 そして俺を睨みつける目には若干涙が浮かんでいる。


「いただきまーす」

「動じないんだね」

「いつものことだし」

「それは! 貴方が! デリカシーに欠けるからです! 私だって怒りたくて怒ってるわけじゃないです!」

「まあまあ。鮫島さんもどうですか? 焼き立てと思えるくらいサクサクでふわふわしてます」


 確かに近藤が持ってきたクロワッサンは冷凍されていたとは思えなかった。

 一口噛めばサクッと外側が割れてふわふわな白い中が出てきた。ほんのりバターの香りが広がってこれを毎日食べられるなら俺は嬉しく感じる。


「時間とか色々工夫があるんだよ。口で説明するのは面倒だけど」

「味も濃すぎず薄すぎずで美味い」

「うん。ママにそう言っとくー」


 いくつか買って明日の朝ごはんにでもしよう。

 桃の分も買わないと取られるか。


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