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第5話 魔法のお手並み

 少女が着ていた服はハンガーにかけてクローゼットの中に仕舞ってある。

 家族に見られて妙な趣味があるとも思われたくないので、しばらくの間は奥深くに眠ってもらうことにした。


「それにしてもこの服は動きやすいね!」

「格安の服ですけど気に入ってくれたなら良かったです」

「ひと段落着いたし、ボクは二度寝といこうかな!」


 と、堂々と二度寝宣言した少女は寝る姿勢に入った。


「ダメです」


 布団と枕を取り上げ阻止する。


「なんでぇ! いいじゃん!」

「よくないです。母さんや弟にバレないようにあなたを隠す場所を考えなきゃいけないので」

「……凪識なつねは弟君がいるんだね」


 ナチュラルに名前呼びされたのが面映ゆいような気恥しいような。


「いますが、なにか?」

「ボクにも妹がいた」

「いた、ってなぜ過去形?」


 少女の表情に影が差す。


「可愛くて慕ってくれてボクも大好きな妹だったんだけど、いろいろあって引き離されちゃったんだ……。帰る方法も分からないし、このままだと一生会えないのかなって……」


 魔界から突然転移して困っているのは私だけではないことを失念していた。

 妹と引き離された事情はわからないが、少女がいなくなって心配している家族や周りの人間はいるだろう。

 魔王様自身のためにも私のためにも、魔王様を元の世界に返さなくてはならない。


「まだ諦めるべきじゃないと思いますよ」

「……うん、そうだね」

「帰る方法に心当たりはないんですか? テレパシーができるならテレポートとかもありそうですけど」


 少女はこめかみに手を当てて唸りながら考え始めた。


「あんまり覚えてないんだけど、ボクがこっちに来た時は随分大掛かりな魔法陣を発動させてたよ」

「なるほど。魔法陣さえ書ければなんとかなりませんかね」

「それは難しいかな。たしか別の世界に行くための魔法は複雑で、膨大な魔力が必要だからボク一人の力じゃ発動できないんだ。そもそも肝心の魔法陣をボクは知らないし」


 魔界のことになると饒舌に話すのは、魔王様が向こうの世界でちゃんと勉強していたからだろうか……なんて関係ないことを考えてしまう。

 魔法なんてフィクションのお話だ。

 おそらく全地球人が無縁に生きてるだろうし、私にはさっぱりわからない。


「じゃあ無理なんですね」

「うっ……、キミは諦めるなって言ったり無理って言ったりどっちなの?」

「もちろんさっさと帰ってほしいその一心ですよ」

「うぅぅ……慰めるならちゃんと最後まで貫いてよ!」


 じたばたする少女は放っておき、改めて少女を隠す方法を考える。


「魔王さんって暑いの耐えれますか? 耐えれますよねそりゃあ魔王ですもん」

「まだ答えてないんだけど!? ……まぁ、人並みには?」

「じゃあ私が学校に行ってる間はベランダで縮こまっててください」

「はぁっ!?!? それはやだ!!!」


 流石に冗談だ。

 けど、真剣に考えないと本当にベランダに出てもらうしか手がない。


 部屋の中に隠れられるような場所はないし、いくら父が不在といえど父の部屋に居させるのは無理があるだろう。

 母のパートの時間を考えるとお昼の時間はリビングに出ても問題なさそうだ。

 私の部屋は父の部屋も同様に、ときどき母が掃除に入ってくるのでリスクが高い。

 うーん、どうすれば……。


「あ、魔王さん。テレポートはできなくてもちょっとした魔法ならできるんですよね」

「中級の魔物なら一人でも倒せるよ! あとは治癒魔法とか生活魔法全般ならマスターしてる!」


 少女が胸を張って言う。

 強いのか弱いのか分からないが、強いんだろう。魔王だし、うん。


「よくわかんないですけど、透明になれたりしません?」

「透明に……? 相手に認識されにくくする魔法ならあるけど……」

「じゃあそれで」

「え? あー……うん。えっとー……、今?」


 途端に歯切れが悪くなった。


「一応やってみてください」

「あ、ボク用事思い出した。ごめん、あとでね!」

「お花摘みはさっき済ませましたよね。あっれれー? もしかしてできないとか? 万能の魔王様なのに?」


 顔を真っ赤にさせて俯く魔王様。

 できないならすぐ言えばいいのに。この魔王、妙にプライド高いとこあるな。


「ま、まだ習ってないの! やり方さえ教わればちょちょいっとできるんだよ!」

「ちょっとからかいすぎました。できないなら他の方法考えますか」


 魔王様は頬をふくらませてご立腹の様子。

 そんなことは措いといて、透明になれないならまた振り出しに戻ってしまう。


「どうしましょうか……」

「隠れればいいんだよね? じゃあさ、この中とか!」


 そう言って少女が指差したのはクローゼットだった。


「隠れるって言ったって何時間もですよ? 扉閉めたら身動きできないくらい狭くて真っ暗ですけど、大丈夫なんですか?」


 魔王様とはいえ中身は幼いし(本人は認めたくないみたいだけど)、暗いのとか狭いのは苦手だったりするんじゃないか。


「魔王は暗闇も狭いところも恐れるわけないの! 執事もお父様もみーんなそう言ってるんだぞ!」


 案の定、少女は憤った。

 子供扱いは魔王様の地雷らしい。覚えとこう。


「わかりましたよ……、でもこんなところに閉じ込めるのは私の気が引けます」

「それならね、とっておきの魔法があるんだよ!」


 少女がクローゼットの中に入って手招きした。


「なんですか……? 魔王さんの魔法がクソ雑魚なのはもうわかったんですけど」

「酷いなぁ! ボクだってできる魔法があるんだよ。見てて────」


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