第1話 ポンコツな魔王さん(不法侵入)
深夜三時。
家族が寝静まったのを見届けて、私は静かに活動を開始する。やることは専らネットサーフィンである。ときどき終わってない学校の課題を少々。
少しの物音も許されない、そんな気持ちでトイレに向かう。
用を足したら泥棒のごとく静かに自室に戻って、再びネットの海に潜る。
去年、お下がりで貰ったノートパソコンをいじる。タイピングはまだまだ遅いが、自分の手でぱちぱちとキーボードを叩く音は何故か癖になる。
今日は何をしようか。
お気に入りのASMR配信を聞いて、癒されながら二次創作でも漁ろうかな……。
ふと時計を見ると、そろそろ三時を回りそうだ。
また今日も時間を無駄にしてしまったかもしれない。けどまぁいいや。
…………いいのだろうか。
ぱっとしない学校生活。私のような地味な人間の立ち位置は微妙なものだ。
小さい頃から追いかけてきた小説家という夢も、中途半端なままだ。夢に届くための努力は、すっかり怠ってしまっている。
これでいいのだろうか。
よく考えれば、無駄に時間を浪費したあとはいつもこんなことを考えている。それなのに私は何もしないままだ。
所詮は自己満に浸っているだけなんだ。
……はぁ。
私のやっていることは、夢なんてものを必死に追っている気になって、現実から目を背けているだけにすぎない。
確かに、ちゃんと休まず学校には行くし、そこそこの成績をとっている。家族ともちょうどいい距離感を保っているし、クラスカーストから脱落しないように人間関係もどうにか頑張っている。
でも、だからなんだというのか。
将来を見据えてコツコツ努力するわけでもなく、自分を制限するものに対して派手に抵抗するわけでもない。根性がないから、夜中にコソコソするしかない。夢だって、ばっさり諦める方がよっぽどかっこいいだろう。
いつか日の目を見る? 盛大に稼ぐ? 有名になる?
その『いつか』はきっと来ない。
心のどこかではわかってた。変わろうじゃないか、今度こそ。
「その心意気だよ。ぐだぐだ言ってるけど結局変わるしかないんだよね」
そうそう。まずは早寝早起きとかから始めようかな………………え?
「早寝早起き……なんかしょぼいけどいいんじゃない? 継続は力なり、だもんね。ボクもしようかな」
一人で思考を巡らすあまり、私はイマジナリーフレンドを生み出してしまったらしい。
「いまじなりーじゃないよ? ボクはちゃんと存在してるよ!」
疲れてるみたいだ。いい加減寝よう。
「ちょちょちょ、本気で寝ようとしないでよ!」
肩を掴まれた。実体があるなんて想像の産物のくせに生意気な。
「生意気だなんて失礼だね。しょうがないから種明かしすると、ボクはキミの心が読めるんだよね」
イマジナリーじゃないらしい誰かは、自慢げに胸を張っている。
心が読めるとか厨二病設定、自分を見ているようで認めたくないがどうやら実在するようだ。
「…………あなた誰ですか。不法侵入ですよ」
ベットの横でドヤっているその人(人かどうかも怪しい)は、今どき日本じゃ見ないようなドレスを着ている。
ゴシックロリータとでも言うのだろうか、たくさんのレースとリボン、薔薇らしきモチーフをあしらったひらひらの服と、頭上には似たデザインのヘッドドレス。これ以上ないくらい部屋とミスマッチだ。
色素の薄い白銀髪と透き通るように白い肌が、尚更黒いドレスを際立たせている。
そして、ゴスロリを着こなせるほど顔がいい。女の私が言うんだからそうに違いない。幼さが残る顔立ちだが、成長したら更に綺麗になるんだろうな。ちなみに胸は皆無。
「ボクっ娘ロリとか……。誰が考えたんですか、その設定」
「言葉の意味はわからないけどすごく失礼なこと言われた気がする」
あながち間違いではない。
「とりあえず、出ていってください」
「な、なんで!?」
「いや、家族とかにバレたらどう説明したらいいんですか。急に湧いてきた幼女? ははは、私もあなたも病院に連れてかれますよ」
「確かに……それは困るね」
ついでに今すぐ出てったら心を読んだことも咎めませんよ。
「物分りが良くてよかったです。ってことで出ていってください」
「そ、それは無理!」
「何故ですか」
「…………どうしても、無理だから」
「は? 転生装置が壊れたとかベタなこと言わないでくださいね。そもそもあなたどこの誰なんですか、明らかに日本人じゃないですよね」
少女は俯いて何も言わない。この様子では何も聞き出せそうにない。
「はぁ……。名前だけでも教えてください」
顔を上げた少女は嬉しそうな顔をしていた。
「ボクは、魔王!」
「…………は?」
どうやら私はめんどくさい問題を抱えてしまったようだ。
お読みいただきありがとうございます!
初投稿なので至らない所だらけだと思いますが、宜しければ評価お願いいたします!