剣士、コカトリスと戦う
冒険者ギルドを出たオレとマルテと少年は街の南に向かって歩く。少年が乗ってきた馬は街の南端で兵士に預かって貰っているらしい。
少年の名前はカバリオという。この街から南にあるガジーナという村からやってきたという話だ。
ちなみに冒険者ギルドでマルテの服が貰えた。クエストに行くにはあまりにみすぼらしいという理由でギルドで余っていた服をくれたのだ。
くれたのは有難いのだが、マルテのとある部分はヒューマンと比べてあまりにも大きい。なので少々苦しそうだ。はち切れそうだ。しかも、マルテはノーブラである。その、なんというか、2つのボタンがね。
「師匠…顔が気持ち悪いにゃ…」
「いや、こればっかりはマジですまん。」
能天気なオレたちとは違い、カバリオは悲壮感で一杯だ。まあ、家族が被害に合っているのだから仕方がない。
「兄ちゃん、姉ちゃん。来てくれるのは有難いけど、本当に大丈夫か?コカトリスだぞ?」
カバリオはそうオレたちに言った。
コカトリス…巨大な鶏でしっぽが蛇なんだと。伝承では視線で石化出来ることになっているらしいが、実際は唾液に石化の毒があるらしい。唾液…避けるのは簡単そうだ。唾液が高速で飛ぶのが想像出来ない。と言ったら、マルテが口から唾液を飛ばして、ギルドの壁に穴を開けた。あれレベルを連射されたらオレも危ないかしれない。
コカトリスの石化は大元を倒しても解除されない。なので、石化解除の効果のある薬液をギルドから大量に預かってきた。その薬液が詰まったビンが納められた木箱をオレが抱えている。これがあればコカトリスが強くてもカバリオの父親や村の人たちは助けられるだろう。
「まあ、一応偵察だからな。負けそうならオレが囮になって村から引き離すから、そのうちに村人たちを直せばいいさ。」
「心配することないにゃ。あたしと師匠に勝てる魔物なんてそうそういないにゃ。」
マルテはこういうが、コカトリスがジジィレベルに強くないとは断言出来ない。油断は禁物である。
「おう坊主。この馬はもうダメだぞ。2、3日休ませないと。」
街の南端に着くとカバリオが馬を預けていた兵士が声を掛けてきた。なんだかいい人そうだ。ノルディスト砦にはひとりもいなかったタイプだ。
「そんなぁ。」
カバリオは落ち込むがオレははなから馬に頼る気はなかった。だって走った方が速いんだもん。
「じゃあ、カバリオはオレが背負うか?」
「あたしが背負うにゃ。」
「大丈夫か?かなり飛ばすぞ?」
「愚問にゃ。さっき負けた師匠が何を言っているにゃ。」
はい、負けました。ごめんなさい。
「それにあたしがその木箱を運ぶとたぶん中身が割れるにゃ。」
まあ、そうだよな。マルテの走り方は本能のまま走っている感じで上半身のブレがひどい。良くあれでオレに勝てるもんだ。
「なんの話?」
「カバリオはマルテの背中。」
「な、な、な、な。」
はてな顔のカバリオの両脇を持ってマルテの背中に乗せる。カバリオは顔を真っ赤にして言葉が出ないようだ。
「んじゃ、行くぞ。」
「はいにゃ。」
「カバリオ、案内よろしくな。」
「え?な、ぎゃーーーーーーーーーーーー!」
カバリオの悲鳴を残してオレとマルテは全速力で走り出したのであった。
南に約1時間ほどで東西の別れ道にたどり着いた。
「おい、カバリオ。どっちだ?」
……返事がないぞ?
「気絶してるにゃ。出発してからすぐにゃ。」
ああ、そうだったのか。ちょっと怖かったかな?
「カバリオ。起きろ。」
「カバリオ。起きるにゃ。」
「んー、あれ?ここは?」
おぶっているマルテが揺するとカバリオは目を覚ました。
「東西の別れ道。これどっち?」
「え?もうここ?え?あれ?おいらどれくらい気を失ってました?」
「んー、1時間くらいかな?」
「1時間…1時間でここまで着けるもんなんですか…」
「まあ、結構飛ばしたからな。で、どっち?」
「あ、西です。」
「了解。ここは村までどれくらい?」
「そうですね。あと半分くらいでしょうか。」
「そうか。じゃあ、もう少しだな。行くぞ、マルテ。」
「はいにゃ。」
「え?もう少しって。ぎゃーーーーーーーーーーーー!」
またあっという間にカバリオは気を失ったのであった。
夕暮れ前にカバリオの村、ガジーナに到着した。広大な小麦畑の間を進む。小麦畑には巨大な何かに踏み潰された後があり、それが集落の方に続いている。コカトリスだろう。思っていたよりでかいな。
50軒ほどの家が密集している集落にたどり着いた。集落の入り口は壊され、家々のところどころが壊れている。そして、そこら中に人型の石像が転がっていた。この石像はたぶんガジーナの村人だろう。地面のあちこちには鳥の巨大な足跡がある。しかし、コカトリスの姿はなかった。
カバリオはマルテの背中から飛び降りると集落の中心に走った。オレたちも追い掛ける。カバリオがたどり着いた先にはフォークのような形をした農機具を構えたまま石化している男性がいた。
「父ちゃん…」
カバリオの父親のようだ。見るからにコカトリスと戦っていたのだろう。勇敢な男だ。冒険者たちはあんなに青い顔をしていたのに。
「カバリオ!」
1軒の家から中年の女性が飛び出してきた。
「母ちゃん!」
母親のようだ。カバリオと母親は抱き合った。
「よく無事で。馬で飛び出したときはどうなるかと思ったわ。」
「うん。なんとか街にたどり着けた。馬はダメにしちゃったけど。そんなことより冒険者を連れてきたんだ。」
カバリオはそう言って母親から離れた。母親はオレとマルテを舐め回すように見たあと、はぁとため息を吐き出した。まあ、オレら強そうに見えないよな。
「カバリオの母です。来て頂いたことには感謝します。しかし…」
「大丈夫だよ、母ちゃん!」
母親の言葉を遮ったのはカバリオだった。
「おいらも初めは不安だったんだけど、たぶん大丈夫だぜ。だってこの二人、馬より速いんだ。」
「はぁ。馬より?はぁ。」
母親は分かってないみたいだ。馬より速いって言われてもよく分からないだろう。
「オレたちはこれから足跡を追います。なあに、無茶はしませんよ。東からA級冒険者も来るみたいですし。」
「はぁ。よろしくお願いします。」
母親はとりあえず納得してくれた。オレは薬液の入った木箱を地面に下ろす。
「薬液はここに置いていきますけど、治すのは討伐してからの方がいいでしょう。また来るかも知れませんし。」
「分かったよ、兄ちゃん。」
カバリオが元気に答えてくれた。
「それじゃあ、行くか。日暮れまでに終らすぞ。」
「はいにゃ。」
「足跡追えるか?」
「楽勝にゃ。」
オレは基本対人特化。オレに追跡能力はない。ここはマルテに任せた方がいいだろう。マルテはくんくんと鼻を鳴らしたあとで走り出した。オレもそのあとを追う。臭いで追うのか?こいつ猫人だよな?犬人じゃないよな?
集落を抜け、小麦畑を抜け、森を抜け草原に出た。
「いたにゃ。」
マルテが指差す方向に巨大な鶏がいた。マジで鶏だ。ここからではしっぽが見えないから、それしか感想が出てこない。
「美味そうだにゃ。」
「あ、オレもそう思う。」
「でも、美味しく食べるには血抜きしないとだにゃ。」
「えっと、鶏は首を跳ねても動くんだっけか?」
見たことはないが、ティエラがそんなことを言っていた気がする。
「確かそうにゃ。」
「じゃあ、オレが首を跳ねるから、胴体を頼む。」
「了解にゃ。唾液に気を付けるにゃ。」
「ま、なんとかなるっしょ。」
マルテは走るのを止め立ち止まる。あのスピードから一気に停止出来るのが凄い。たぶん、筋肉がしなやかなんだろう。
オレはそのままコカトリスに突っ込む。コカトリスもオレに気が付いている。要はコカトリスの唾液の射程に入らなければいいんだろ?まあ、マルテみたいに飛ばしてきたらアウトだが。
オレは抜剣して斬撃を飛ばす。斬撃はコカトリスの首に命中したが首の中程で止まった。ほう、これで切れないとは。
「コケー!」
コカトリスが一鳴きして唾液を飛ばしてきた。うん、遅い。良かった。マルテレベルじゃなかった。それにしても「コケー」ってまんま鶏じゃねぇか。
オレは踊るように唾液を躱し、剣を振り抜く。そのまま通り過ぎる。コカトリスの頭が宙に舞うのが見えた。よし、オレの仕事終了っと。
コカトリスの胴体は予想通り頭を失った状態で走り出した。今オレがいる方向とは逆方向に。その前にマルテが立ち塞がる。
マルテは両手を広げ、腰を落とした。おいおい、あの巨体を受け止める気か?
マルテとコカトリスの胴体が激突する。激突の衝撃で辺りに突風が吹き荒れる。あれ無茶じゃね?オレなら吹き飛ぶ。
しかし、コカトリスの動きが止まった。ここからでは見えないがマルテが受け止めたようだ。そしてコカトリスの巨体が持ち上がる。
「おいおい、マジかよ。」
どんなパワーしてるんだ、あいつ。パワー勝負なら最強なんじゃね?
ズドーーーン
持ち上がったコカトリスはそのまま地面に叩き付けられた。そしてまた持ち上がる。
ズドーーーン
こわっ。もうマルテには逆らいません。
持ち上げては叩き付けるを10回ほど繰り返すとコカトリスの胴体は動かなくなった。
「お疲れ。ひっ。」
オレはマルテに駆け寄るとそこには血塗れのマルテが。
「ああ、これかにゃ。これはコカトリスの血にゃ。あたしのじゃないにゃ。」
ああ、そうだよな。切れ目から血が吹き出してたもんな。まあ、なんだ、思った通り楽勝だったな。
そのあと、森までコカトリスの胴体を引き摺って行き、木を利用して血抜きをした。どうやったかって?マルテがコカトリスの足を持ったまま木に登り、足を太い枝にくくりつけたんだ。マルテはパワーだけじゃなくてバランス感覚もどうかしてる。
こうしてオレとマルテはコカトリスの死骸を持ってガジーナに凱旋したのであった。




