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剣士、冒険者になる

オレとオレの奴隷になった『爆拳姫』ことマルテとの二人旅が始まった。始まったのはいいんだけど…


「金がねえ。」


本当にない。すっからかんだ。


「ひどいにゃ。師匠はあたしにご飯を食べさせてくれるはずにゃ。」


「誰のせいだよ、誰の?」


「あたしかにゃ?」


「お前だよ。」


なんでか奴隷を買うはめになってしまった。どうしてこうなった。


オレは『爆拳姫』を買った街を出て西に進んでいる。徒歩で。その間に『爆拳姫』の身の上話を聞いた。こいつの名前はマルテというらしい。


そういや、オレは猫人のおっさんにマルテを助けるように言われたのだ。もう解放してもいいよな?奴隷が欲しいわけでもないし。奴隷なんて連れてたらティエラはともかく妹には何を言われるか分からない。


てか、あの猫人のおっさん、どこ行った?早く出てきてこいつを買い取って欲しいんだが。


「マルテ、だっけ?もうその奴隷の首輪外していいぞ?」


「どうしてにゃ?」


「どうしてってお前、オレは奴隷が欲しかったわけじゃないし、お前も奴隷になりたかったわけじゃないだろ?」


「奴隷ってのが何か分からないにゃ。」


リベルタードには奴隷がいないのか?こいつの過去を聞いた限りだと知らないだけって可能性も大いにある。


「この首輪は師匠のものって意味だにゃ?」


「あー、まあ、そういうことになるかな?」


「じゃあ、このままでいいにゃ。」


「なんでだよ!」


なんかやたらベタベタしてくるんだよな、マルテの奴。まあ、かなりの美少女ではあるし、体つきもなんかね、ヒューマンやエルフでは考えられないような曲線的なプロポーションっていうか…ね。抱き付かれた左腕になんだか幸せな感触が…。


「なんか、師匠の顔、気持ち悪いにゃ。」


「は!いかんいかん。てか、気持ち悪いなら、腕から離れろよ。」


「いやにゃ。」


「なんでだよ!」


んー、分からん。


「で、どうする?野宿でもする?」


「野宿でもいいけど、出来れば街で美味しいご飯が食べたいにゃ。」


まあ、それはオレもだ。砦で2年間不味い飯を食ったせいか、オレは上手い飯に飢えている。


「金を稼ぐとなると…冒険者かな?」


「冒険者?なんにゃ、それは。」


知らないのか?まあ、知らないか。ずっと森に住んでて出たあとは王宮だもんな。


「冒険者ってのは、魔物を討伐したら金が貰えるんだ。」


「魔物を倒せば金が貰えるにゃ?簡単にゃ。」


「んじゃ、次の街で冒険者登録するか。」


「はいにゃ。」


これで方向性は決まったな。


「じゃあ、ちょっと走るぞ。昼過ぎには街に着きたい。ついて来られるか?」


「愚問にゃ。短距離では負けるけど、長距離ではあたしの方が早いにゃ。」


「ほう。オレに勝てると?」


「勝てるにゃ。猫人舐めるなにゃ。」


「じゃあ、競争な。用意、スタート!」


「はいにゃ。」


オレとマルテはそれから約1時間で次の街に到着したのだった。まあ、マルテは速かったよ。



ランパーラ王国はヒューマンの国。ほとんどがヒューマン族であるが、多種族がいないわけではない。特に猫人と犬人は相当数いる。しかし、そのほとんどが奴隷だ。だから猫人の奴隷であるマルテを連れて歩いていても全く目立たない。


それは冒険者ギルド内でも同じで、猫人や犬人はヒューマンより動体視力や身体能力に優れるので、戦闘奴隷として購入し連れてくる冒険者も多い。なので目立たない…はずだったのだが…


「ようよう。またえらくべっぴんな猫連れてんなぁ。」


「服がボロボロじゃねぇか。大事なところが見えそうだぜ?オレが服買ってやるから、オレのものになれよ。」


街で冒険者ギルドの場所を聞き、無事到着。いざ入ってみたら、あっという間に絡まれてしまった。


マルテは他の猫人と比べても圧倒的に美少女であるし、ボロボロの奴隷服を着せたままなのが原因だろう。だってお金ないんだもん、グスン。


「なんにゃ?お前ら、ぶっ飛ばされたいのかにゃ?」


そしてマルテは血の気が多い。こいつにぶっ飛ばされたら、こいつら死ぬぞ?まあ、美少女に殴られてあの世に逝けるなら本望かも知れんが…


「待て待て。お座り。ハウス。」


「なんでにゃ。鬱陶しいにゃ。」


「お前が殴ると死んじゃうだろ。殺したらオレら指名手配されてこの街で動き難くなるから。」


「ぷっ。オレ様が死ぬって?オレ様はD級の冒険者だぜ。」


「そう簡単に死ぬかよ。」


「ベッドの上で昇天させてくれるってか?」


「逆にオレが昇天させてやるぜ。ギャッハッハ。」


うるせぇよ。しかし、困ったな。囲んでくる冒険者がどんどん増えてきて受付までたどり着けない。受付のお姉さんは知らんぷりだ。なんとかしてくれよ…


オレは困り果て、マルテは冒険者相手に威嚇しているそのときであった。


バタンッ


大きな音を立てて冒険者ギルドの出入口の扉が開かれた。姿を現したのは12、3歳の農民風の格好をした男の子だった。


「だ、誰か!助けてください!村が、おいらの村が…」


男の子が大声で叫んだ。緊急事態を察して、奥から受付に座っていたお姉さんが男の子に駆け寄る。


「どうしました?」


「コカトリスです。コカトリスが村を!おいらの父ちゃんが石に…」


「コカトリス…」


コカトリス?聞いたことないな?


「おい、マルテ。知ってるか?」


「んにゃ。知らないにゃ。まあ、あたしは魔物の名前なんてわかんにゃいけど…石化かにゃ?そんな魔物はいなかったにゃ。」


マルテは知らないのか…他の冒険者は…そう思って今までオレたちを囲んでいた奴らを見ると、皆、真っ青な顔をしていた。


「誰か!お願いします!村を助けてください。」


「すみません。」


悲痛に叫ぶ男の子に受付のお姉さんは頭を下げる。


「どうして…あ、金ならここに。村からかき集めて来ました。」


「いえ、お金の問題ではないのです。」


「じゃあどうして…」


男の子の顔が絶望で歪む。冒険者たちは顔を背ける。


「コカトリスはA級相当の魔物。しかし、この街の冒険者はC級までしかいないのです。」


受付のお姉さんはそう言って男の子に頭を下げた。


んー、A級とかC級とか良くわからんな。オレはマルテの顔を見るとマルテは力強くうんと頷いた。


「あの、オレたちが行きますよ。」


オレが二人に話し掛けるとパッと少年の顔が明るくなった。しかし、受付のお姉さんのオレたちを見る目は暗い。


「あなたたちは、先ほど絡まれていた…失礼ですが、冒険者ランクは?」


「ん?オレたちはまだ冒険者じゃないけど?」


「では…」


「大丈夫だって。なぁ、マルテ。」


「はいにゃ。コカトリスがどんな魔物か知らにゃいけど、楽勝にゃ。」


オレとマルテがそういうと「あいつらコカトリスを知らないのか?」「あいつら死んだな。」という声が冒険者たちから聞こえてくる。コカトリス…そんなに強いのか?逆に楽しみだな。マルテを見るとオレと同じ思いのようだ。


「ギルド職員としましては死ぬと分かっているところに冒険者を送り出すわけには…」


んー、大丈夫だと思うんだけどなぁ。するとマルテがオレの腕に触れた。あたしに任せてって顔だ。


「この人は『黒い悪魔』、あたしが『爆拳姫』。まあ、そういうことにゃ。」


「はぁ?なんですか、それ?」


通じなかった…ガーンと分かりやすく落ち込むマルテ。その二つ名、たぶんリベルタードだけだから。それにしてもオレの二つ名、胸がえぐられるなぁ。


「どうして二人して落ち込んでいるんですか?」


これは仕方ないんだ。トラウマなんだ。それにしても、んー、どうしようか。


「そうだ、偵察。オレ最近まで騎士団で偵察とかやってたからさ。とりあえず偵察してくるから、その間に他の街の冒険者ギルドに声を掛けてくれよ。」


「き、騎士団だったんですか?それなら…」


そっちか。騎士団だけで良かったのか。受付のお姉さんは少し考え、すぐにオレたちに向き直った。


「分かりました。偵察をお願いします。ここから西の方で『光の翼』というパーティーがA級になったそうなので、私はそちらに応援を要請してみます。」


『光の翼』?なんか聞いたことあるな…ま、いっか。


「じゃあ、悪いが急いでオレたちを冒険者登録してくれ。」


「はい。こちらへ。」


受付のお姉さんはオレとマルテを受付へ案内する。あんなに鬱陶しいかった冒険者たちは今はとても静かだ。


オレとマルテはこうして冒険者になったのであった。

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