爆拳姫、師匠の奴隷になる
師匠にマーキングしているところを強引に引き離され、両手首両足首の鎖は外されたにゃ。師匠は向こうで小太りのおじさんと話しているにゃ。あたしは状況の変化に着いていけず地面にペタっと座ったままされるがままにゃ。
ひとりの男が進み出てあたしの首に何かを着けようとしたにゃ。
「何を着けるにゃ?」
「奴隷の首輪ですぜ。」
「ドレイノクビワってなんにゃ?」
「……ご主人の物になった証ですぜ、嬢ちゃん。」
そう言って男は師匠に視線を向けたにゃ。どうやらあたしは師匠の物になったらしいにゃ。
「嬉しいにゃ。早く着けるにゃ。」
「はい、失礼しますぜ。」
男はあたしの首に革製の装飾具を着けたにゃ。あたしはその首輪をツンツンと触ってみるにゃ。自分の顔が綻んでいるのが分かるにゃ。
「あの、嬢ちゃん。その、悪かったな。」
首輪を着けてくれた男があたしに向かって頭を下げたにゃ。あたしはその光景をきょとんと見ていたにゃ。
「何を謝っているのかにゃ?」
「いや、その、睡眠薬を使って奴隷にしたことを。」
ご飯に変な薬を入れたことを謝っているのかにゃ?でも、あたしは過ぎたことは気にしないにゃ。
「別にいいにゃ。ご飯が美味しかったことは確かにゃ。それに師匠に再会出来たのはお前たちのお陰だと思うにゃ。ありがとにゃ。」
あたしは馬鹿だから自分ひとりで探してたらきっと全く違うところに行っていた気がするにゃ。
「ありがとうごぜえます、嬢ちゃん。」
男はそう言って目頭を押さえたにゃ。泣いているのかにゃ?周りを見ると男の後ろで控えていた別の男たちも泣いていたにゃ。
「な、な、なんにゃ?泣くにゃ。泣くにゃ。」
あたしはあたふたとしたのにゃった。
「いくぞ。」
師匠はあたしにそう言って歩き出したにゃ。あたしは男たちに一礼すると師匠を追い掛けたにゃ。
「嬢ちゃん。お幸せに。」
「おうにゃ。任せるにゃ。」
あたしは男の言葉に力強く返したのにゃ。
あたしは前を歩く師匠を見るにゃ。黒い髪に黒い服、黒いズボンに黒い靴。やっぱり『黒い悪魔』にゃ。半袖の服から伸びる腕、猫人の男に比べれば細いが見るからにしっかり筋肉がついているのが分かるにゃ。この筋肉は猫人もびっくりなしなやかな筋肉にゃ。
「な、おま、何を。」
師匠がこっちを向いたにゃ。何を驚いているのかにゃ?あれ?思ってたより距離が近いにゃ。自分の状況を確認するといつの間にかあたしは師匠の左腕に自分の腕を絡ませていたにゃ。
「いや、かにゃ?」
「嫌じゃねぇよ。ああ、嫌じゃない。」
「そうかにゃ。ならいいにゃ。」
あたしは師匠の左腕を胸に抱いたにゃ。師匠の顔が赤くなるのが分かったにゃ。師匠かわいいにゃ。
師匠の腕に絡まりながら歩いていると今まで感じたことがない気持ちになるにゃ。これがリベルタードの城であたしの世話をしてくれていたメイドが言っていた『幸せ』ってやつかも知れないにゃ。
あたしの今までの人生は殺伐としたものだったにゃ。こんな幸せを感じられる日が来るなんて夢にも思わなかったにゃ。
「師匠。」
「ん?そういえば師匠ってなんだ?オレはお前の師匠になった覚えはないぞ。」
「お前じゃなくてマルテにゃ。」
「お、おう。マルテ。オレはヴィータな。」
「にゃ。師匠に剣…はあたしには無理にゃけど、脚さばきや体さばきを教えて貰いたいにゃ。」
「そういうことか。おう、いいぞ。」
師匠はあたしより身体能力は低いにゃ。でもあたしより強いにゃ。その原因は脚さばきや体さばき、つまり技術にあるとふんだにゃ。あたしって賢いにゃ。
「師匠、聞いてほしい。話があるにゃ。」
「まだ師匠なのか…まあいいか。おう、なんだ?話してみろ。」
あたしは自分の過去を師匠に話し始めたにゃ。
「あたしは物心ついたとき、深い森の中にいたにゃ。ひとりで。魔物を殺し食らっていたにゃ。そのときは知らなかったけど、それは『獣の森』だったにゃ。猫人族は子供をたくさん生むにゃ。そして育てきれない子供を森に捨てるにゃ。」
「マジか…まあ、オレも孤児院に捨てられたわけだけど、森って…猫人族は皆そうなのか?」
師匠はそう言って悲しそうな顔をしたにゃ。
「よく知らないけど、それが猫人族の常識らしいにゃ。」
「そうなのか…それにしてはお前…じゃなかったマルテは明るい顔しているな。」
「あたしは生きているからにゃ。」
「ああ、そうだな。」
そう言って師匠はあたしの頭を撫でてくれたにゃ。気持ちいいにゃ。
「普通は皆、魔物に食べられて死んじゃうらしいにゃ。でも、何故だかあたしは生き残ったにゃ。魔物を殺して食らう。そんな生活を繰り返していたにゃ。10年くらい立ったかにゃ?あたしはいつの間にか『獣の森』で最強になっていたにゃ。最強になって困ったことが出来たにゃ。魔物があたしの気配を感じると一目散に逃げるようになったにゃ。あたしも生きるために必死に気配の消し方を習得したにゃ。でも魔物の野生の感の方が上をいっていたにゃ。あたしは遂に食うに困るようになったにゃ。あたしは空腹に任せて森を出たにゃ。出た先の道でひとりのじいさんが歩いていたにゃ。あたしはそのじいさんを食うつもりで襲い掛かったにゃ。じいさんはあたしの攻撃を躱し、拳が眼前に迫るのがスローモーションで見えたにゃ。あたしはたぶんその一撃で意識を刈り取られたにゃ。」
「『獣の森』最強の少女を一撃で倒すじいさんって…世の中には強いジジィが何人もいるもんなんだな…」
「師匠も強いじいさんを知っているのかにゃ?」
「ああ、オレが剣を習ったジジィな。恐ろしく強かったぜ。いまだに勝てる気がしねぇ。」
「へぇ。世の中には上には上がいるもんにゃな。」
「だな。精進しないとな。」
師匠はそう言って遠い目をした。師匠より強い師匠の師匠。会ってみたいにゃ。
「で、どうなった?今マルテが生きてるってことはなんかあったんだろう?」
「にゃ。あたしは気付いたらじいさんが着ていたコートを羽織らされて、じいさんの背中に背負われていたにゃ。無防備な背中だったにゃ。でも、あたしは攻撃する気にはなれなかったにゃ。じいさんの背負い方が優しかったからかにゃ?そこから短いあたしとじいさんの旅が始まったにゃ。じいさんはあたしにいろいろ話し掛けてくれたにゃ。でもあたしはその時言葉というものを知らなかったので小首を傾げるだけだったにゃ。大きな街にたどり着いたにゃ。リベルタードの王都にゃ。街の中心にある城に連れ行かれたにゃ。それで、あれよあれよという間に王様と謁見することになったにゃ。」
「ちょっと待て。じいさんは猫人族の要人か何かか?」
「違うにゃ。確かヒューマンにゃ。」
「旅のヒューマン族が猫人族の王、リベルタード王に謁見出来るものなのか?何者なんだ、そのじいさん。」
「さあ、あたしには分からないにゃ。じいさんはあたしを王様に預けると何処かに行ってしまったにゃ。じいさんがいなくなって初めは寂しかったにゃ。でも、すぐに忘れることが出来たにゃ。城のご飯は美味しかったにゃ。この街で食べたご飯の方が美味しかったけどにゃ。」
「ああ、オレもよく知らないけど、飯に関してはこのランパーラ王国が一番上手いらしいぜ。」
「そうにゃのか。それは楽しみだにゃ。」
「うう、今は金がなくて食わせてやれない…」
師匠は最後小声で何か言ったけど、聞こえなかったにゃ。きっと師匠は美味しいご飯を食べさせてくれるにゃ。
「それからあたしは王宮で言葉を勉強したにゃ。」
「そういえば、マルテは語尾「にゃ」って付けるけど猫人は皆そうなのか?」
「違うにゃ。「お前は強すぎるから嫁の貰い手がない。せめてにゃを付けて可愛く見せろ」って言っていたにゃ。王様が。」
「リベルタードの王様って…」
「悪い人じゃなかったにゃ。」
「まあ、そんな感じだな。」
美味しいご飯をたくさん食べさせてくれたしにゃ。
「言葉を覚えたあたしは王様の命令で戦地を転々としたにゃ。まあ、魔物が人に変わっただけにゃ。たいしたことなかったにゃ。師匠に出会うまでは。」
「で、『爆拳姫』が誕生したわけだ。」
「にゃ。」
「まあ、その、なんだ。捕まえて悪かったな。」
師匠はそう言いながら顔を背ける。やっぱり師匠はかわいいにゃ。
「別にいいにゃ。それで今があるわけにゃし。ただ、牢屋の前で守ってくれたの、あれ正直邪魔だったにゃ。師匠がいなかったら簡単に脱獄出来たにゃ。」
「な。まあ、そうだよな…オレは守らないとって必死であんまり考えてなかった。」
「いいにゃ。そういう師匠が大好きにゃ。」
あたしは師匠の腕を抱いたままの手に力を込めるにゃ。師匠はまた顔を背けて赤くするにゃ。胸の中にキュンという痛みを感じるにゃ。痛いのに嫌じゃない痛みにゃ。
「にゃ!」
不意に師匠はあたしを振りほどき、早足で歩いたあとに振り返ったにゃ。
「まあ、その、なんだ。これから楽しいこといっぱいしような。オレもマルテと一緒なら楽しく生きれそうな気がする。」
あたしはその言葉を聞いた瞬間、嬉しさでいっぱいになったにゃ。知らず知らずのうちに涙が溢れていたにゃ。泣いたのは生まれて初めてかも知れないにゃ。
「師匠ー!」
「わ、こら、止めろ。」
あたしは師匠の背中に抱き付いたにゃ。師匠はわたわたしていたけど、嫌そうじゃないにゃ。ああ、幸せだにゃ。あたしは改めて思ったのにゃった。




