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剣士、奴隷を買う1

「ふぁぁ。」


オレは朝陽が登る前に目を覚ました。この2年間で染み付いた癖だ。戦場偵察に見張りに戦闘、それが終わると調理の片付けに掃除に洗濯…尋問と称した拷問以外の任務のほとんどをやらされていた。いじめられていたんじゃないかと言うレベルだ。(いじめられていた)んで、夜は勝手に暗部の撃退をしていたのだから、自分の訓練は朝陽が昇る前しかする時間がなかったのだ。


騎士団をクビになって初日、散々寝倒してやろうと思ったのに、習慣とは恐ろしいものだ。


「剣でも振るか。」


オレは壁に立て掛けてあった剣を持ち宿の裏庭に出た。


ここは東部騎士団本部がある町から2つ隣の町。あの町を出たあとから、やたら絡んでくるやつが多かったもんでそいつらを巻くつもりで、ひとつ目の町を素通りしここまでやってきた。あいつらも1日でここまで来れるとは思うまい。


いや、あいつら、本当にしつこかった。始めは妹のことで頭がいっぱいで気付かなかったのだが…次から次へと現れてオレを囲んで捕まえようとした。軍服を着ていたから、こっちから手出しすることも出来ない。手出しするとたぶん指名手配される。そんなことになったら妹に申し訳がたたない。


仕方がないのでギリギリまで引き付けて躱す。そして仲間同士でぶつからせる。これでオレが手を出したことにはならないはずだ。


しかし、あいつらなんだっただろうな?オレはまだ犯罪には手を染めていないはずだ。伯爵がどうたらとか叫んでいた気もするが、残念ながらオレに伯爵の知り合いはいないはずだ。きっと勘違いだろう。


オレは剣を鞘から抜き上段から振り下ろす。これを繰り返す。目を瞑り体の隅々までコントロール出来ているか確認する。


ん?背後に気配…オレは振り下ろした剣をそのまま横凪ぎ背後へ。あっ、ここは戦場じゃなかった。寸止めしないと。鼻先1センチってとこかな。


「ひ、ひぃぃ。」


剣の先には、腰を抜かした髭面のおっさんが腰を抜かしたように座り込んでいた。ヒューマン?ん?いや…


「猫人族か…」


「な、なぜ、分かった?」


何故か…まあ無理もない。魔道具かなんかで隠蔽しているようだし。


「なぜって言われてもなぁ…んー、なんとなく?」


「なんとなくって。ピエドラ製の最新魔道具だぞ…」


ピエドラってのは、ドワーフの国だ。背が低くてゴツい髭もじゃのおっさんがたくさんいるらしい。で、そのおっさんたちが、武器や魔道具、酒なんかを作るのが上手いんだと。ジジィに貰ったオレの剣も確かピエドラ製だ。


「あ、あんた、『黒い悪魔』だよな?」


「は?『黒い悪魔』?」


なんだそれ?二つ名か?黒い悪魔って…悪魔って黒いもんじゃねぇの?頭痛が痛いとか、冷水が冷たいみたいなもん?ププッ。変な二つ名が付いた奴がいるもんだ。かわいそ過ぎて涙が出てくるぜ。


「ち、違うのか?しかしその黒髪黒眼あの素振りの速度は…あんた、ノルディスト砦にいなかったか?」


「ん?2日前までいたぞ?」


「じゃあ、やっぱりあんたが『黒い悪魔』だ。」


オレかぁい。いやいや、ちょっと勘弁してくれ。オレも二つ名に憧れてたよ?二つ名付かないかなぁって思ってたよ?でも、違うじゃん。なんか、もっといいのあるじゃん。


「チェンジで。」


「は?」


「チェンジで!」


「ひぃぃぃ。」


オレの威圧でおっさんは目を回して倒れたのであった。




オレは宿の朝食を美味しくいただき、荷物を持ってチェックアウトし、宿を出る。今日も2つ先の街まで行くかなぁと考えていた。


「ちょ、待ってくれ。」


さっきの猫人もどきが後から追い掛けてきた。


「『黒い悪魔』さん。」


「いや、まじで、その呼び方止めて。」


「しかし、名前を存じ上げないので。」


「ヴィータだよ。ヴィータ。その二つ名まじでなんとかならない?」


なんかもっとカッコいい二つ名プリーズ。


「いや、そう言われましても。リベルタードではみんなそう呼んでおりますし…」


マジかよ…もう決定かよ…へこむわぁ。


「まあいいや。でも、今度『黒い悪魔』って呼んだら殺すから。」


「は、はい。」


オレは割りと速足で歩いているのだが、こいつは普通に付いてくる。なかなかやるな。


「で?なんか用?」


「頼みがあるのですが…」


「おお、いいぞ。」


「やはり無理ですよね。猫人だとバレてしまいましたし…」


「だから、いいぞ。」


「は?え?」


「なんだ?何すればいい?」


「えっと、わたくし、猫人だとバレてますよね?リベルタード人ですよ?」


「ああ、分かってる。」


「じゃあ、どうして…」


どうしてってこっちが聞きたいよ。頼みたいのか頼みたくないのかはっきりしろよな。


「別に。困ってるんだろ?ヒューマンとか猫人とか関係なくね?」


「はぁ。そうなんですか、ね?」


困ってるなら助けるもんじゃねぇの?しらんけど。


「で、何?」


「『爆拳姫』はご存知ですよね?」


『爆拳姫』って二つ名か?なんか馬鹿っぽい二つ名だなぁ。まあ、人のこと言えないかぁ。


「なぜ、落ち込まれるんですか?」


「いや、なんかトラウマが抉られた。」


「『爆拳姫』というのはですねーー」


オレが先日戦ったリベルタードのやたら強い女だそうだ。そして、頼みというのは、その『爆拳姫』がこの街で奴隷商に捕らえられているので助けてほしいらしい。


「あんな強いのに奴隷商に捕まるのか?」


「はい、どうやら食事に睡眠薬を混ぜられたらしく…」


ああ、あいつ食い意地汚かったもんな。牢の中でも要求してきやがって、オレの元から少ない飯が更に少なくなったもんな。


「お前が助ければいいんじゃないのか?お前、リベルタードの暗部だろ?」


歩き方ひとつでなかなかの実力の持ち主だと分かる。


「いえ、1度試みたのですが、奴隷商の護衛がやたら強くて…」


こいつが諦めるくらい強いのか?最近の奴隷商はどうなってるんだ?まあ、兵士の給料は安いからなぁ。腕の立つ平民は兵士より商人の護衛になった方がいいってところかな。


「で?その『爆拳姫』さんはどこにいるんだ?」


「それはですね…」


オレたちはこの街の中央の東西に伸びる大通りを歩いている。彼はそこから北の方を指差した


「あちらに…」


彼が指を差したまま、何か言葉を発しようとしたときであった。ずんっという地響きがしたと思ったら、指を差した方向、目の前の1階部分が店舗の3階建ての建物のはるか向こうから砂煙が上がるのが見えた。


オレと猫人のおっさんは無言で目線を合わせる。


続いてズドドドドという音が北の方角から徐々にこちらに近付いてくる。上空では連続的に砂煙が上がる。


「御免。」


おっさんはそう言うと建物の屋根に飛び上がり南の方角に姿を消した。オレも逃げたかったがオレが逃げると、この街が地図から消える…直感的にそう思ったのであった。

読んでくださりありがとうございます。次回から週2回、水日投稿になります。

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