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元受付嬢、纏める

「師匠?あれ?意識がないにゃ…」


マルテさんとルーアさんのタックルをまともに食らったヴィータさんは意識を失いました。


「おかしいにゃ。こんなくらいで師匠が…」


「お兄ちゃん!『女神の伊吹』。」


ルーアさんが聞いこともないような上位の回復魔法を唱えます。するとルーアさんの背後に本当に女神のような薄着の美しい女性が現れヴィータさんに息を吹き掛けます。私は奇跡を目の当たりにしているのでしょうか。


「あれ?意識が戻らない…」


「え?ごめんっす。やりすぎたっす。」


それでも意識が戻りません。二人をけしかけたロサさんも反省の弁を述べます。そのとき、私の脳裏にはここまで来る間にヴィータさん本人や叔父から聞いた、騎士団でのヴィータさんの扱いを思い出しました。私はヴィータさんの元に駆け寄ります。


「皆さん、たぶんヴィータさんは疲れているのだと思います。騎士団員だったころからほとんど寝てなかったようですし、ここまでも私を守ってくれていたわけですから。実家にたどり着いて安心したのかもしれません。」


「え?騎士団ってそんなに酷かったんですか?」


ルーアさんが心配そうな声を上げます。彼女は知らなかったようです。ヴィータさんと手紙のやり取りをしていたようですが…ヴィータさんの性格だとルーアさんに愚痴ることはないでしょう。


「ええ。私の知る限りでは。」


「詳しく教えてください。」


「構いませんが、私も詳しく知っているわけではありません。まずはヴィータさんを寝室に。」


「そう…ですね。」


「こっちっす。」


ロサさんが案内してくれるようです。


「じゃあ、あたしが運ぶにゃ。」


マルテさんがヴィータさんを軽々と抱き上げます。流石です。ヴィータさんの寝顔を覗き見ます。ロサさんから頂いた髪止めで普段より出た顔…ロサさんが言ったように前よりカッコ良く感じます。私はヴィータさんを見た目で好きになったわけではありませんが、良いに越したことはありませんね。


私たちは全員で、ぞろぞろと小屋に向かいます。立派なお屋敷は使わないのでしょうか?


玄関を潜った先は、リビングになっており、北側にキッチン、真ん中に大きなテーブル、壁には扉が3つ。ルーアさんがヴィータさんを抱いたマルテさんを南側の扉に案内します。扉の先はベッドはひとつだけの狭い寝室のようです。マルテさんはベッドにヴィータさんを寝かせ、ルーアさんがシーツを掛けます。息ぴったりじゃないですか。


その間に他の皆さんはテーブルに腰掛け、ロサさんがお茶を用意してくれます。私も空いている席に座ります。マルテさんが寝室から戻り私の隣に腰掛けます。んー、会話が全くありません。たぶんこれから一緒に暮らす家族なのに…ここは私がしっかりせねば。私は立ち上がり言葉を紡ぎます。


「えっと、いろいろ話す前に、まずは私の自己紹介を。マルテさんのことは想像付いてそうですが、私のことは分からないでしょうから。」


全員の視線は私に集まります。


「私はミカ・ソーサリートと申します。」


「ソーサリート?」


私が名乗ると案の定すぐにルーアさんから突っ込みが入りました。


「ええ、ソーサリートです。」


「それはどういう…」


「元々は違う名前だったのですが、いろいろあってそう名乗ることにしました。ヴィータさんの許可は得ています。」


「そんな…」


ルーアさんは絶望の表情になり小刻みに震えながらうつむきます。結婚したと勘違いなさったようです。まあ、私はするつもりですが。エレナさんがすかさずルーアさんの背中を撫でます。


「なぜそうなるに至ったか、私とヴィータさんの出会いを話させて頂きます。」


私は、生い立ち、ヴィータさんとの出会い、ヴィータさんに助け出されたことなどを話します。


「ミカさんも大変だったんだな。」


フピテルさんが感心した表情を私に向けます。


「大変…だったんだと思います。しかし私はヴィータさんに出会えました。その幸運に比べれば、それまでの不幸なんて微々たるものでしょう。」


その幸運は、今後どのような不幸が訪れようと精算されないものでしょう。


「私は、自分が生きていくためにヴィータさんから養ってくれるという言質を頂きました。それはきっとヴィータさんの優しさからくるものでしょう。しかし、私はこのチャンスを逃すつもりはありません。私は弱い人間です。戦う力も生きる術も持ち合わせておりません。ヴィータさんに捨てられれば明日には死体で見付かることでしょう。ですので、どんな手を使ってもヴィータさんから離れません。どのような立場でも構わないので、私はヴィータさんの側にいます。私の持っている全てを使ってヴィータさんに一緒にいます。」


ここにいる全員が私の宣言に目を見開きます。ここにいる全員、私よりも強い力も生きる術も持っている人たちです。私の気持ちは分からないのかもしれませんね。


「マルテさん、ルーアさん。」


「はいにゃ。」


「はい。」


「お二人はヴィータさんのことがお好きなのでしょう?」


「はいにゃ。」


「……はい。」


私の問いにマルテさんは即答、ルーアさんは少し考えてから答えました。


「しかし、ヴィータさんはマルテさんは奴隷…ではなく友人として、ルーアさんは妹としてしか見ていないように思います。」


「…にゃ。」


「はい…そうですね。」


二人はヴィータさんからの態度に思うところがあるようです。


「私も応援しますので、きちんと女として見られてください。」


「にゃ!?」


「え!?いいんですか?」


二人の顔が驚きの表情になります。


「さっき言ったじゃないですか。私はどんな立場でもいいのです。妻だろうと側室だろうと妾だろうと使用人だろうと。絶対ヴィータさんの子は生むつもりですけど、立場にはこだわりません。私はヴィータさんが苦しみ悲しむことは望んでいません。ヴィータさんは今はただの冒険者ですけど、これから凄い立場の人になるでしょう。ヴィータさんのことですから、取り巻く女の子もどんどん増えていくことでしょう。そこで私たちが争えば、ヴィータさんはきっと悲しみ苦しむでしょう。ですので、私たちは仲違いしてはいけないのです。特にヴィータさんの前では。」


「にゃ、にゃるほど…」


「その通り…ですね…」


「特にルーアさんは思うところは多々あると思います。幼少期からずっとヴィータさんを想い続けているのでしょうから。ルーアさんとヴィータさんの愛の巣に邪魔が入ったと思われているのかも知れません。しかし、ヴィータさんはマルテさんと私を手離すことはないでしょう。そこは諦めてもらうしかありません。しかし、ルーアさんにとってもこれはチャンスなのです。ヴィータさんのことですから、ルーアさんとお二人だと頑なにルーアさんを妹としてしか見なかったでしょう。しかし私たちを介することで気持ちの変化が表れるかもしれません。どうか、私たちを受け入れて下さいませんか?」


私はルーアさんの目を見ます。大空のように清みきった淡い青い瞳…私とルーアさんの視線は交錯します。ルーアさんも私の目をじっと見つめます。


「はははっ。凄いな。ミカさんでしたか?いや、感心しました。」


急に声を上げたのはフピテルさんでした。私とルーアさんはその声にびくっとなり、視線を外します。


「本当ね。感心しちゃった。」


「強い人っす。」


エレナさんとロサさんもそう言いました。


「ルーア、君の負けだね。ルーアはヴィータさんとピンク色の二人暮らしを想像してたんだろうけど、現状それは無理だ。私たちもいることだし。なら、4人で新たな関係を築くと良い。私はその関係に立ち入るつもりはない。まあ、今のところは、だが。」


「うちもっす。デートしてみたい気持ちはあるっすけど、今は一歩引かせて頂くっす。」


「あたしは…ルーアがいれば…」


フピテルさんとロサさんが賛同してくれました。エレナさんは…ルーアさんと離れたくないということでしょうか?


「そう…だね。ごめんなさい、急に喧嘩しちゃって。私もお兄ちゃんを困らせたくないです。」


「うう、ごめんにゃ。ライバル登場かと思ってつい…」


ルーアさんとマルテさんから反省の言葉が出ました。ちょっとひと安心です。


「では、皆さん、これからよろしくお願いしますね。」


私は全員に向かって頭を下げました。


「それで、これから私たちは後ろのお屋敷に住まわせて貰ってよろしいのでしょうか?」


「はい。部屋はたくさん空いていますから。家具も揃っているはずです。掃除は行き届いてませんが…」


「そうですか…あの屋敷の管理を私に任せて貰っていいですか?」


「え!?いいんですか?」


「はい。先ほども行ったように私には戦う力がありません。ですので、それくらいしか役に立てないと思います。」


「それは助かります。建てたはいいけど、もて余していたんです。」


ルーアさんが言うには、貯まったお金を使うように領主から言われ仕方なく建てたのだそうです。しかし、使っているのは、2階の3部屋と1階の浴室だけ。勿体ないですね。しかし、浴室があるのですね。私の前の家にもありませんでした。


「私個人としてはお金を持ってないのですけど、何人か人を雇っても構いませんか?さすがにあの大きさをひとりで管理は難しいと思いますので。」


掃除も自分の部屋しかしたことがないのです。人を使うのが一番良いでしょう。ルーアさんの懐次第ですが。


「それは助かるっす。お金には余裕があるっす。2、3人なら雇えるっす。今までは雇ってもその人を管理出来そうになかったから雇ってなかったっす。ミカさんがいれば安心っす。」


今まで管理していたであろうロサさんが答えてくれました。


「では、明日にでも冒険者ギルド…では使用人に不向きですね。」


「使用人なら商業ギルドか暗殺ギルドがいいっす。」


「暗殺ギルドですか?」


なんか物騒な名前が出て来ました。大丈夫なのでしょうか?ロサさんはいろいろ詳しいですね。私も勉強だけはしましたが、所詮は机上の空論です。


「ちょっとした戦闘が必要なら暗殺ギルドがいいっす。大丈夫っす。仕事と報酬が釣り合っていれば奴らは裏切らないっす。」


それは釣り合ってなければ裏切るということですよね?少し怖いです。


「まあ、初めは商業ギルドがいいっすね。」


「そうですね。」


それから私たちは今後について様々な話をしました。皆さんの簡単な自己紹介、役割分担や部屋割りなど。なんとか仲良くやっていけそうな気がします。


辺りが暗くなったころ、ロサさんが料理を作ってくれたので、皆で食べました。寝っぱなしのヴィータさんには悪いですが、とても美味しかったです。


そして、私は2階の二部屋をさっと掃除しました。少し埃を払っただけですけど、大丈夫そうです。ここが今晩の私の寝床です。ルーアさんは小屋の寝室でヴィータの隣で眠るそうです。少し嫉妬を覚えますが、今日は兄妹水入らずで。この感覚にも慣れるしかないですね。ここで上手くやっていくには。


お風呂を頂いてからベッドに潜り込みました。初めての旅で疲れていたようで、ぐっすりと眠ることが出来ました。こうして、ベルジィに到着して1日目が終わったのでした。


次の日の朝、商業ギルドへ行こうとしたら、マルソー商会という大商会の支店長が訪ねて来て、使用人を三人ただで紹介してくれました。あっさり使用人問題は解決したのでした。

ストックがなくなったので不定期更新になります。今後ともよろしくお願いします。

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