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剣士、実家にたどり着く

オレとマルテ、ミカさんとの三人旅は順調に進み、人事部隊長と別れてから3日でベルジィにたどり着いた。


街から街への移動はオレがミカさんを背負った。背中が幸せだったと言っておく。ミカさんも最初は怖がっていたが、途中からは楽しそうだった。揺れの激しいマルテにも乗りたがっていたが、オレの背中の幸せのために断固反対させてもらった。


ミカさんは優秀だった。ガネイから出たことはなかったみたいだが、外の地図は頭の中に入っていた。しっかり移動計画を立て毎晩必ず町の宿屋に泊まることが出来た。


宿屋の部屋はツインの部屋をひとつ借りた。本当は男と女で分けようと思ったが、それだとミカさんの命が危ない。マルテに絞められたら死んでしまう。


二つのベッドは二人に寝かせ、オレは床で寝た。オレがベッドで寝たらどうせマルテに絞め落とされるだけだし、ミカさんのベッドに侵入したら、即座に救出するためだ。


幸いマルテは朝まで自分のベッドから動かなかった。どうやらベッドが恋しかっただけのようだ。


ベルジィの街は街壁に囲まれている。周辺にダンジョンが多く、たまにそこから魔物が溢れ出すためだ。周辺の村にも戦える人員が配置されて…いるはずだったんだが、『光の翼』の活躍のお陰か、周辺の村はどこも平和そうであった。


「なんにゃ、あの山。」


マルテが遠くの山を指差した。その山の山頂付近はCの字に抉れている。


「ああ、あれな。オレが子供のときに急に抉れたんだ。大型魔物の襲来かと思って警戒したけど、問題なかった。あれはなんだったんだろうな。」


あのときはオレも驚いたもんだ。いつも見えている山が急に形を変えるなんて想像もしなかった。


オレたちは東門で通行料金を払ってベルジィに入る。ミカさんの分だ。オレとマルテは冒険者登録されているので無料タダで入れた。便利だな、冒険者は。


大通りを進み、路地に入りスラム街を目指す。スラム街を目指しているがオレたちの家はスラム街じゃない。スラム街のすぐ外側にあるのだ。あの頃はお金がなくてそんなところしか借りれなかった。スラムの連中は散々脅しておいたから妹は無事なはずだ。


道を曲がり真っ直ぐ行けばオレの家というところまで来た。もうすぐ妹に会える。4年ぶりか…大きくなっただろうか。まあ、可愛さは相変わらずだろうけど。


オレは道を曲がる。視界の先に飛び込んできたのは大きな壁であった。


「あっれー?」


オレは足早に壁に近付く。おかしい、ここは真っ直ぐな道だったはずだ。そしてその道沿いにオレの家があった…はずだ。


「なんにゃ?どうかしたかにゃ?」


「いや、なんでもねぇ。なんでもねぇよ。」


そう答えてみたもののいやな汗が全身から吹き出しているのが分かる。


「なんか、壁の中に大きな家が見えますね。」


ミカさんの言葉に壁の向こう側を見る。壁で頭がいっぱいで見えなかったが、大きな屋敷の屋根が見える。こんなところにお屋敷なんてあっただろうか?いや、ない。だってここはオレたちの小さな家があったはずだ。


オレは壁伝いの道を西に向かって進む。


「あ、ヴィータさん、速いです。」


「師匠ー。どうしたにゃ?」


後ろからマルテとミカさんの声が聞こえるが今は気にしていられない。道は南北に伸びる大通りにぶつかった。壁は今度は南側に伸びている。なんて大きさだ。


オレはまた壁伝いに大通りを歩く。やがて門らしきところを通りすぎる。


「ヴィータさん、この表札…」


ミカさんの声が聞こえるがそれどころではない。オレはやがてスラム街…だったところにたどり着いた。「だったところ」だ。おかしい、明らかにおかしい、なんなんだ、あの大きな工場は。なんなんだ、この綺麗な町並みは。


オレは来た道を引き返す。自分がいらいらしているのが分かる。たった4年でここまで変わるものなのか?


マルテとミカさんは門の前で止まっていた。オレはその前を素通りする。マルテとミカさんは可哀想な子供を見るような目でオレを追っている。ああ、可哀想だよ。だって家がなくなっているのだから。


オレは壁が途切れたあとも大通りを歩き続けた。


「もしかして、ヴィータくんじゃないかい?」


パン屋の前を通り掛かったとき、ちょうど外に出てきたおばさんに話し掛けられた。ベルジィに住んでいたころよく通っていたパン屋だ。覚えてくれていたらしい。オレはなんだか涙が出た。


「おばさん、お久しぶり。」


「やっぱりヴィータくんだね。大きくなったねぇ。」


「ええ、お陰様で。ところでおばさん。オレの家知りません?」


「ヴィータくんの家?てことはルーアちゃんの家だよね?」


「ええ。」


「そんならそこにあるじゃない。」


おばさんはこともあろうか、大きな壁の屋敷を指差したのであった。



門の前に戻るとマルテとミカさんが待っていた。


「やっと理解しました?」


「師匠はあほにゃ。」


そんなこと言われてもなぁ…


「お前たちはどうして分かったんだ?」


「表札ですよ、表札。ていうか、ヴィータさんはご結婚されているのですね。」


「は?」


オレは門に掲げられている表札を見る。その表札はヴィータという名前とルーアという名前が上下に書かれていて、二人の名前の中央の横にソーサリートというファミリーネームが刻まれていた。


「は?」


これはおかしい。この書き方は夫婦のものだ。兄妹などの家族は名前の横に全部ファミリーネームが書かれるのが一般的だ。


「私もこの下に名前を書いてもらえるのでしょうか?」


「あたしもお願いするにゃ。ミカさんの下でいいにゃ。」


「いやいやいやいや、おかしいから。オレとルーアは兄妹だから。」


「でも、血は繋がってないんですよね?」


「気付いてたの?ミカさん。」


「ええ、まあ。」


ん?なんで分かったんだ?オレ、妹としか言ってないよな?


「まあ、入ってみるか。」


オレはそう言って鉄の門を押した。鍵は掛かっていないようで、門は内側に開いた。無用心すぎない?


オレはマルテとミカさんを伴い中に入った。そこは庭?なのか?


「庭っていうより訓練場にゃ。」


マルテのいうように殺風景な庭だ。壁際に数本の木が立っているだけで何もない。周りの壁の大きさからも想像出来ていたが、ちょっとした軍の訓練場のような広さがある。そして、その奥にオレとルーアが住んでいた小屋のような家。そしてその後ろにどでかい3階建ての屋敷が立っている。


「あったよ、オレの家…」


「そちらより後ろの屋敷を喜んだほうがいいのではないですか?」


ミカさんはそう言うけど、知らないもん、あんな屋敷。


「それにしてもおかしいですね。こんなに広いのに門番もいない。」


「にゃ。屋敷内にも気配がないにゃ。あるのは小屋にひとりにゃ。」


小屋って言うな。まあ、後ろの屋敷と比べたら小屋だけども。しかし二人が言うようにおかしい。気配は小屋にひとり。ルーアのものじゃない。使用人でも雇ったんだろうか?いや、あの屋敷からしたら雇うだろうけども。治療院ってそんなに儲かるのか?


オレたちは真っ直ぐ小屋を目指す。小屋って呼ぶのは不服だが、今はどう見ても小屋だ。庭の真ん中くらいまで来たときであった。


「お兄ちゃん?」


背後からそんな声が聞こえたので振り返る。門のところにびっくりするくらいの美少女が立っていた。え?ルーア?確かに面影はある。真っ白な髪も尖った耳も溢れ落ちそうなくらい大きな目もそのままだ。しかし、可愛すぎる。兄馬鹿とかそういう次元を越えている。もうなんか、光って見える。見続けると目が潰れそうだ。


「ルーアか?」


オレはなんとか声を絞り出した。


「やっぱりお兄ちゃんだ。」


ルーアはちょこちょことオレに向かって駆け寄ってくる。うん、走り方も昔のままだ。


そのとき、ボスッと横から衝撃が。マルテがオレの腕に抱き付いてきた。なぜ、このタイミング?オレはマルテの顔を見る。マルテの目線はしっかりとルーアを捕らえていた。なんか挑発的な表情だ。そして自分の胸を見てからルーアの胸も方を見て、ふんと鼻で笑ったのだ。ルーアの胸だけは残念ながら成長していないようだ。ルーアの顔を見ると額に青筋が浮かんでいた。


「お兄ちゃんから離れろー!『レイ』!」


「え!?」


走り寄ってくるルーアの手から光線が発射され、それがマルテの顔面に直撃、マルテは錐揉みながら吹き飛んでいった。


「へ?」


ルーアは今魔法を使ったのだろうか?しかもかなりの威力だった。マルテじゃなかったら死んでいたのではないだろうか。でも、マルテなら大丈夫だろう。


マルテが飛んでいった方をみると案の定マルテは立ち上がった。鼻血は出ているが平気そうだ。てか、表情が戦闘モードになってない?


「やるにゃ。」


「そっちこそ。」


ルーアとマルテは距離を空けて対峙している。


「ちょっと、やめろって二人とも。」


オレはそう声を掛けるが…


「コンちゃん、ポンちゃん。『衛星サテライト』。」


ルーアは魔方陣から何かきらきら光る生き物を呼び出した。更に黒い球体がルーアの周りをくるくると回り出す。え?これも魔法?


マルテの顔付きも更に狂暴になる。おいおい、大丈夫か?


「『レイ』。」


ルーアの手と黒い球体から光線が発射される。しかし、今度はマルテは躱したようだ。てか、ダメじゃん。壁壊れるじゃん。オレは光線を目で追うと壁の手前で不可視の壁に当たってかき消えた。え?魔法障壁?マジで軍事施設みたいじゃん。


戦闘はさらに激しさを増す。ルーアが光線を放ち、マルテがそれを全部避けている。


「ヴィータさん、止めないと。」


「分かってるんだけど、二人とも止まらないのよ。」


オレとミカさんはそれをあわあわしながら見守っていた。


「何々?なんの騒ぎっすか?あれ?誰?もしかしてお兄ちゃん様?」


小屋から茶髪にくりくりお目目の知らない女の子が飛び出してきた。そして門の方からも長身の綺麗な女性と気の強そうな女の子がこちらへ向かってくる。そして、長身の女性がオレの前まで来てオレの前で片膝を着いた。


「お兄ちゃん様…いえ、ヴィータさんですよね?」


「ええ、はい、そうですけど。」


「私はルーアのパーティーメンバーのフピテルと言います。」


「は?パーティーメンバー?」


「あれ?聞いていませんか?私たちは『光の翼』で…」


「は?え?今なんて?」


「『光の翼』ですけど。」


「え?『光の翼』?誰が?」


「私たちです。」


「私たち?ルーアも?」


「ええ。ルーアがリーダーですよ。」


「は?え?ルーアがリーダー?ん?じゃあ、『白光の聖女』ってもしかして…」


「ええ、ルーアです。」


え?何それ?あれ?オレはミカさんの顔を見る。ミカさんは「私知ってましたよ」みたいな顔でニコニコしている。え?マジか…ルーアが『白光の聖女』なのか…


「で、フピテルさんはどうして片膝を着いてるの?」


「はい。コカトリスの首を切ったあとを見ました。ぜひ私に剣術の指南を。」


「あ、いいよ。教えるよ。」


「本当ですか。ありがとうございます。」


「そんなことより二人を止めないと。」


オレはルーアとマルテを見る。二人の距離がずいぶん近付いたように見える。


「大丈夫じゃないっすか?ルーアのコンちゃんとポンちゃんが物理障壁展開してるっすよ。」


今度は小屋から出てきたくりくりお目目の女の子が近付いてきた。


「あ、あたしロサっす。」


「うちはエレナ。」


ロサに続き、気の強そうな女の子エレナが自己紹介をしてくれた。


「ロサちゃんにエレナちゃんね。それが大丈夫じゃないんだよ。マルテは馬鹿力だからたぶん障壁関係ない。」


「えー、マジすか。まあでもルーアの魔法をあそこまで避けられる人見たことないっすもんね。」


「だね。」


オレの言葉を二人は信用してくれたようだ。ロサが思案顔をする。


「あ、二人を止める方法思い付いたっす。」


「お、マジか。」


「後ろのお姉さん。」


「ミカです。」


「ミカさんは少し離れて見守ってほしいっす。」


「分かりました。」


ミカさんはちょこちょこと安全そうな家の方へ離れる。


「じゃあ、いくっすよ。」


「ああ、頼む。」


オレがそう言うとロサはオレの髪を触り出した。え?なに?気持ちいいんだけど。てか、顔が近い。んで、めっちゃいい匂い。


「お兄さん、前髪上げた方がカッコ良くないっすか?」


「え?そう?」


「私の髪止め上げるっす。」


ロサはそう言うと自分の髪から髪止めを外しオレの前髪に付けた。そんなことより二人を止めないと。ルーアとマルテの方を見ると二人の動きは止まっていた。そしてこちらの様子を伺っているようだ。


「ね。上手くいったっしょ。もうひと押しっす。」


ロサはオレの耳元に口を近付けてそう囁いた。


「お兄さん。明日ひまっすか?」


「え?ああ、まあ、暇なんじゃないかな。」


「じゃあ、あたしとデートしないっすか?ふ、た、り、で。」


「で、デート!?う、うむ。まあ」


オレがそこまで言ったときであった。


「ダメー!」


「ダメにゃー!」


ルーアとマルテは二人仲良くオレの腰にタックルを咬ましたのであった。ルーアはともかくマルテのタックルでオレが気を失ったのは言うまでもないことだ。

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