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王都、あれこれ1

ー選抜大会に現れた少女ー


「受付はあと10分で締め切りまーす。」


地下闘技場にて行われているティエラ護衛選抜大会最終日男子武器ありの部。最終日とあって参加者は過去最高の211人になっていた。


ようやく長蛇の列を捌ききった受付が声を上げたのだ。そこにひとりの少女が現れた。白い髪の中から生える白い狐耳、白地に桜という花の模様の東方の島国がルーツの『キモノ』という珍しい着衣に身を包み、お尻にはもふもふの白い狐のしっぽ、腰にはエストック。見た目から異彩を放つ少女は締め切り寸前の受付の前にやって来た。


「あら?今日は男の子の日だったのでしょうか。困りました。なんとか出場出来ないものでしょうか?」


受付の男はいちいち美しい所作の少女に見とれてしまっていた。


「貴方様?貴方様?」


「あ、はい、すいません。オーナーに聞いて参ります。少々お待ち下さい。」


受付の男はそう言って席を立とうとした。


「お、どうした?なんだ?トラブルか?」


ちょうど受付の様子を見にきた地下闘技場オーナーのベルナルドがいつもの革の服ではないタキシード姿で現れたのだ。


「あ、オーナー。女の子が男子の部に出たいと…」


「ほう。女の子が…って、お前、ヴァレンティナか?」


ベルナルドは受付の前に立つ少女に見覚えがあったのだ。


「お久しゅう御座います、ベルナルドおじ様。」


「やっぱりヴァレンティナか。大きくなったなぁ。」


「おじ様はお老けになられましたね。」


「お前は相変わらず、言葉はやたら綺麗なのに言うことはキツいな。」


「お褒めに預かり光栄です。」


「いや、褒めてねぇから。」


ベルナルドはヴァレンティナという少女の言葉に苦笑いする。受付の男はヴァレンティナがオーナーの知り合いだったことに驚きの表情を隠せない様子だ。


ベルナルドはそんな受付の男を尻目に受付を出てヴァレンティナに近付き耳打ちをする。


「お前、耳としっぽが出たままだぞ。」


「あら、これは失念しておりました。急いでおりましたもので。あ、でも、このままの方がおばあ様の血縁とバレない…」


ベルナルドは更に声を小さくしてヴァレンティナの耳元で囁く。


「隠しとけ。白狐族は希少だ。変なトラブルに巻き込まれちまう。」


「そうですか…私たちに危害を加えられる者がおられるなら見てみたいものですけど…」


ヴァレンティナはそう言うと自分の耳としっぽに手を翳した。すると、真っ白の狐耳としっぽは視認出来なくなった。白狐族…希少な狐人族の中でも更に希少な存在で、対応は国々によってまちまちだ。要人として扱われることもあれば、取引の道具として扱われることもある。ランパーラ王国では後者だ。


「で?男子の部に出場したいんだって?」


「ええ。」


「それビビアナは知ってんのか?」


「知りませんが?」


ベルナルドの言葉にヴァレンティナは小首を傾げる。


「大丈夫なのかそれ?」


「私はもう成人致しました。問題ないかと。」


ヴァレンティナは強い意思の籠った目をベルナルドに向ける。ベルナルドはため息を吐き出す。


「しかし、お前、戦えるのか?そのエストックか?」


「いえ、ティエラ様に教えていただきましたが、私には才能がないようで…」


「じゃあ、魔法か?」


「お母様ではありませんし、魔法もあまり得意ではありません。」


「じゃあ、なんだ?大会は殺しは推奨してねぇが禁止されてるわけじゃねぇ。お前じゃ危ねぇんじゃないか?」


「ふふ。それはお楽しみということで。」


ヴァレンティナの自信たっぷりな物言いにベルナルドは渋々許可を出したのであった。


ティエラ護衛選抜大会予選。地下闘技場のすり鉢状の地下の一番底の部分、普段リングが設置されているところを今回は丸々使っている。その広さは直径約50メートル。


予選は11~12人のバトルロワイヤル形式で行われる。予選18組最終組。いよいよヴァレンティナの出番がやって来た。


ヴァレンティナは闘技場の中央に陣取り静かに佇む。その周りには10人の屈強な男たち。手には剣や槍、斧などが握られている。


「始め!」


戦闘開始の号令が闘技場に響き渡る。10人の男たちの目線は中央にいるヴァレンティナに集まる。まずは一番落としやすそうなところから。


「ふふふ。」


その状況にもヴァレンティナは静かに微笑みを浮かべるだけだ。10人の男たちが一斉にヴァレンティナに襲い掛かる。


「エストックは未熟。魔法はいまいち。しかし、私にはおばあ様やお母様より優れているところがあるのです。それは…」


一番近くにいた男の斧がヴァレンティナ目掛けて振り下ろされる。客席から様子を伺い試合を止めるべきか悩んでいたベルナルドは慌てて立ち上がった。しかし、彼の心配は杞憂に終わる。


「幻術『明鏡止水』。」


ヴァレンティナに襲い掛かろうとしていた男たちの動きが止まる。客席からは10人の男たちが急に止まったようにしか見えなかった。しかし、本人たちは、いつの間にか周りには深い霧、そして水の上に立っていた。一歩踏み出せばどこまでも沈んでいきそうな恐怖感に駆られる。


「おぉぉー。」


ひとりの男が勇気を出して一歩を踏み出す。すると体はあっという間に水の中に沈んでしまう。


「うわぁ、助け、助けてくれー!」


客席からはひとりの男が急に叫び出し、その場に倒れたようにしか見えなかった。


「なんだ?何が起こってる?これが幻術か?」


ベルナルドは昔ビビアナから聞かされた話を思い出していた。幻術…人の精神に作用する術で狐人族が得意としているらしい。しかし、10人の相手に同時に掛けられるなんて聞いていない。


「私、剣術も魔法も中途半端ですけど、幻術だけはおばあ様以上なのです。」


そんなヴァレンティナの言葉が客席にも聞こえてきた。


「幻術『百花狂乱』。」


残った9人の男たちの視界に無数の花びらが舞う。中央でヴァレンティナが優雅に舞い始めるとそれに連動するように花びらが男たちを襲う。


「うわぁ、なんだこれ!」


「助け、助けてくれー!」


男たちは逃げ惑い、そして水の中に引き摺り込まれていく。客席からは男たちが急に叫び出し、そして次々にその場に倒れていったように見えた。最後に立っていたのはヴァレンティナただひとりだ。


「し、試合終了ー!」


その声に何が起こっているか分からず静まり返っていた客席から歓声が鳴り響く。ベルナルドは安堵でため息を吐き出しながら椅子に座り込んだ。ヴァレンティナに、いや、ヴァレンティナ・プリマヴェーラに何かあったらビビアナに何を言われるか分からないからだ。


ヴァレンティナは優雅に客席に向かって礼をすると控え室に向かって歩き出したのであった。


ティエラ護衛選抜大会最終日男子武器ありの部。ヴァレンティナが圧倒的強さで優勝したのは言うまでもないことであった。



ー魔道具ギルドの雑談ー


「みんなぁ、ちょっと話を聞いて。」


魔道具ギルドギルドマスターのカロリーナ・アゴーストは、魔道具ギルドの大会議室で10人のギルドメンバーにそう声を掛けた。しかし、皆、机の上で何かしらの魔道具をいじくり回していて誰も聞いてくれない。


「ちょっとぉ、大事な話なんだってばぁ。」


「ティエラ様の話でしょ、お姉ちゃん。研究費はどうなるの?」


カロリーナがバンと机を叩きながら言うと、ひとりの少女が魔道具を弄る手を止めてカロリーナに聞いた。カロリーナの妹、カルロータだ。その言葉に皆、一斉に手を止め目線をカロリーナに向ける。


魔道具ギルドの研究費は現在、ティエラからの巨額の寄付で賄われていた。ティエラが王都を立つという噂は魔道具ギルドまで届いていた。研究費がなくなることは研究者たちにとっては死活問題だ。


「それは大丈夫。マルソー商会が月20億投資してくれるって。」


「そっか。」


その言葉に安心したのか、また全員何も言わずに魔道具をいじり出した。その様子にため息を吐き出しながらカロリーナは言葉を続けた。


「ティエラ様の行き先はベルジィなんだって。」


「ベルジィ?あそこ魔道具ギルドあったっけ?」


カロリーナの言葉に反応したのはカルロータだ。カロリーナは顔を左右に振る。


「そのことティエラ様は知ってるの?」


「知らないんじゃないかな?ティエラ様は魔道具ギルドがないようなところに住んだことないだろうし。」


「それで私たちに帯同要請がなかったわけか…教えなくて良かったの?」


「だって、だれか新天地でギルド立ち上げたい人いる?」


カロリーナがそう言うと全員がそっぽを向いた。皆、魔道具の研究がしたいのであって、ギルドの立ち上げという大仕事をやりたいと思う者はいないのだ。


「ティエラ様のことだから、向こうで魔道具ギルドを立ち上げてからお呼びが掛かると思う。そうなったら、カル、行ってね。」


「えー、嫌だよ。」


「じゃあ、ここでギルマスする?」


「それもめんどい。」


「じゃあお願いね。まあ、2、3ヵ月先だから。」


「えー。」


「ティエラ様のお膝元で研究出来るなんて素敵なことじゃない?」


「また通信の魔道具を小型軽量化しろとか言われるんだ。あんなの無理だよぉ。」


「あんたなら出来るって。天才なんでしょ?」


「天才でも無理なものは無理ー。」


こうして魔道具ギルドきっての天才研究者カルロータ・アゴーストが後発でベルジィに向かうことが決定したのであった。

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