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受付嬢、自由へ羽ばたく4

マルテさんは私が泣き止むのを待って私から離れます。代わりにヴィータさんが近付いてきました。


「始めに謝っておく。今日の朝、冒険者ギルドでミカさんが軟禁されてるって聞いたとき、オレは動けなかった。デハルデさんは冒険者たちを纏めてこの屋敷に向かったっていうのにな。オレはミカさんに何をしてあげたらいいのか分からなくて…」


そう言いながらヴィータさんは私に向かって頭を下げます。私はそれを見て首を横に振ります。だって貴方は助けにきてくれたじゃないですか。


「悩んでいるところに人事部隊長が現れたんだ。そしてオレに向かって頭を下げた。ミカエラを助けてほしいって。この部屋を教えてくれたのも人事部隊長だ。」


人事部隊長?ああ、叔父ですか。なるほど。叔父が一枚噛んでいるのですね。


「オレは馬鹿だからさ、ミカさんのために何をしたらいいか分からない。だから願ってほしい。それを教えてほしい。出来る限り叶えてみせるから。」


ヴィータさんはそう言いながら右手を私に差し出しました。私はまた涙が溢れてきました。願ってほしいですか…私の願いは。


「私を閉じ込める鳥籠を壊して。私の壁を壊して。私の敵をやっつけて。私をこの街から連れ出して!」


私はそう叫びながらヴィータさんの手を握りました。


「その願い、承った。」


ヴィータさんはそう言うと私の手を力強く引っ張り、私をお姫様抱っこしました。


「鳥籠ってこの部屋か?」


「はい。」


「持って行きたい物は?」


私は床板の下に隠してあったバッグを指差しました。大事な物は全部あそこに入っています。


「マルテ。」


「にゃ。」


マルテさんがバッグを回収してくれました。


「もういいか?」


「はい。」


ヴィータさんは私のお尻を右腕に乗せました。そして窓の方を向きました。次の瞬間、バーンという音と共に部屋の壁が吹き飛びました。


「へ?」


「廊下にいる3人は敵か?」


呆けている私にヴィータさんは聞きます。廊下でメイドたちが聞き耳を立てているようです。


「敵です。」


「マルテ。」


「はいにゃ。」


マルテさんの姿が消えたと思ったらバーンとまたけたたましい音を立てて今度はドア側の壁が本棚やベッドごと吹き飛びました。


ヴィータさんは私を抱えたまま、大きな穴から廊下に出ます。そこには3人のメイドが倒れていました。3人とも息はあるようです。


「殺すか?」


「いえ、十分です。」


「そか。あとの敵は?」


「父を。」


私は迷わず答えました。私の不幸の元凶。あれを断たねば先に進めない。


「案内してくれ。」


「父はたぶん2階の自室です。」


ヴィータさんは私を抱えたままゆっくりと廊下を歩きます。マルテさんはあとに続きます。途中、他の使用人たちに会いましたが、全員すでに腰を抜かしていたので無視をしました。


「下ろしてください。」


父の部屋の前に到着しました。私はヴィータさんから下ります。まずは私が決着を着けないと。コンコンと私はドアのノックします。


「誰だ。」


父の怯えたような声が聞こえました。


「私です。」


「おお、ミカエラか。漸く来たか。入れ。」


父の言葉にドアを開けます。父は部屋の隅で膝を抱えて震えていました。その姿はさっきまでの自分のようでした。やっぱり親子なんだと悲しくなりました。


「早く入れ。そして鍵を閉めろ。そして服を脱げ。」


そしてやはりクズでした。私は部屋に入ります。ヴィータさんとマルテさんも続きます。


「な、なんだお前らは!外の奴らの仲間か!」


二人の姿を見た父は立ち上がり叫びました。私は構わずに進みます。父は私に掴み掛かろうとしました。ヴィータさんはそんな父を蹴飛ばしました。


「いだー、いだい、いだい。」


父が床で悶えています。ヴィータさんは私の手に私のナイフを置きました。


「ミカさんが手を汚す必要はないぞ。オレが殺ろうか?」


ヴィータさんの言葉に私は首を横に振ります。


「私の父ですから。自分で決着を着けます。殺すつもりはないですから。」


「そか。」


私は悶えている父に向かいます。向かう途中でナイフを鞘から抜いて鞘を投げ捨てます。悶える父の上に立ちナイフを構えます。そして一気にナイフを父の太ももに突き刺しました。


「ぎゃーーーー。」


父は叫びました。私はそんな父の顔を靴で蹴り上げました。そして父の胸ぐらを掴みます。


「もう二度と私に関わらないで。次私の前に現れたら、その時は殺すから。」


父は叫ぶのを止め私の顔を見ます。


「分かった?」


私は父を促します。父は首を縦に振りました。私は胸ぐらを掴んだ手を離し立ち上がります。


「よくやったな。」


ヴィータさんが私の頭を撫でてくれます。


「カッコ良かったにゃ。」


マルテさんは私を誉めてくれます。私はヴィータさんに向かって両手を広げます。


「最後の願い。私をこの街から連れ出して。」


「お安いご用です。姫。」


ヴィータさんは冗談ぽくそう言うとまた私を抱き上げました。私は両手をヴィータさんの首に回します。


ヴィータさんは父の部屋を出て階段を下り玄関を出ます。玄関を出た瞬間、私たちの姿を見付けた門まで詰め掛けていた冒険者たちから歓声が上がります。門にいた兵士たちは何かを察し門を開けてくれました。


門の外に出ると始めに出迎えてくれたのはデハルデさんでした。


「『姫』。無事で何よりだ。ヴィータとマルテも。」


デハルデさんはヴィータさんとマルテさんと握手を交わします。そしてヴィータさんに抱えられたままの私に向きました。


「行くのか?」


「はい。決心しました。」


「そっか。寂しくなるな。」


「ギルドマスターや他の職員たちには…」


「いいって、いいって。オレから言っておくから。」


「そうですか。ありがとうございます。」


「『姫』。」


「はい?」


「いや、幸せになれよって言おうとしたんだが、十分に幸せそうだなって思ってな。」


「はい。私、今、最高に幸せです。」


私はそう言ってヴィータさんの首に回した腕に力を入れ、ヴィータさんの顔を抱き締めました。冒険者たちからヒューヒューという指笛が鳴らされ万雷の拍手が起こりました。


ああ、私、こんなに幸せでいいのかしら。夢なら覚めないで。私はそう願ったのでした。

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