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聖女、帰り道で無双する3

魔物たちが砦に取り付く数が増えてきた。ルーアの魔法では対応しきれなくなっていた。そのときだった。


「なんか来る。」


「『アンチマジックフィールド』。」


エレナの言葉にルーアがすかさず対魔法の障壁を展開する。次の瞬間、山の木々の間から赤色の閃光が放たれ砦に着弾する。


ズドンというけたたましい音を上げ、砦に取り付いた魔物たちは一掃され砦は半壊した。ルーアの障壁のお陰でエレナ、ロサ、そして助けた少年少女は無事だ。障壁がなかったら全員消滅していただろう。


「あれ…」


エレナは山の中腹を震える手で指差す。いまだ魔物との死闘を繰り広げているフピテル以外が視線を中腹に向ける。そこには黒い何かが大きな翼をはためかせながら山の木々の中から姿を表したところであった。


数キロ離れているのにはっきりとその姿を捉えることが出来た。体長100メートルはあるのではなかろうか。蜥蜴のような体に大きな翼、真っ赤な瞳に絶望を体現したような漆黒の鱗…


「『龍王オピーオーン』…」


ロサの呟きにエレナが息を飲む。龍王オピーオーン…この大陸のさらに南にある大地にいるとされている食物連鎖の頂点ドラゴンの更に頂点。


「どうしてここに…」


ロサはその場にへたれ込み、エレナは全身をガタガタと震わせる。その様子を見たルーアはキッとオピーオーンを睨む。


ルーアたちの方を見ていたオピーオーンは視線をやや下に向ける。ルーアは嫌な予感を察した。


「フピテルー!」


ルーアが叫ぶと同時にオピーオーンの口が大きく開かれ、赤い光線が発射された。その光線は前方で戦うフピテルを周りの魔物ごと焼き払う。


「フピテルー!」


立ち上る爆炎。立ち昇る砂煙。徐々にそれらが晴れていく。ごくりとルーアは唾を飲み込む。


おびただしい数の魔物は姿を消し…いた、フピテルだ。気絶しているが無事そうだ。周りには幾重にも張り巡らせた障壁。ポンちゃんとコンちゃんがやってくれたようだ。しかし、代償としてポンちゃんは消滅しコンちゃんの体も半分くらいの大きさになっている。


「よくもフピテルを。よくもポンちゃんを。」


ルーアはオピーオーンを更に睨み付ける。


「もうおしまいっす…」


「もうダメだ…」


ロサとエレナは絶望を口にし、涙を流す。しかし、ルーアの感情は逆だった。いままでの魔物の群れの方が厄介だった、と。


距離の離れた対一の魔物戦闘はルーアの真骨頂。それにルーアはオピーオーンに恐怖を感じていなかった。あれより強い者を知っている。そう、ヴィータお兄ちゃんとその師匠のおじいさんだ。


ルーアは両手で魔力を練り上げる。オピーオーンの視線がルーアを捉える。


「『断罪の光』。」


ルーアの両手から放たれたのは光の最上級攻撃魔法。衛星も連動しそれが空中で重なり合い極太の金色の光線となる。


オピーオーンも口から真っ赤な光線を放つ。金色と赤色の光線は空中でぶつかる。


二つのぶつかった光線が拮抗したのは僅かだった。金色の光が赤い光を呑み込み始めた。オピーオーンは体の高度を少し落とした。正面からぶつかっていた光線は角度を変えられ、二つの光線は空の彼方へと消えていった。


オピーオーンは表情を変えた。爬虫類ぽい顔なのでよく分からないが、「やるではないか」と言っているように感じられた。


しかし、ルーアはすでに次の魔力を練り上げていた。さっきよりさらに大きな極光を。


その姿にオピーオーンはぎょっとした表情となる。


『矮小なる者よ。』


次の瞬間ルーアの頭に直接声が響いた。何処か機械的な女性の声。ルーアはロサとエレナを見る。二人には聞こえていないようだ。これはたぶん『念話』という魔法だ。オピーオーンが話し掛けてきたようだ。


『矮小なる者よ。また会おうぞ。いや、もう出会わぬことを願う。』


オピーオーンはルーアの頭の中にそう言葉を残し、大きな翼をはためかせ、高高度に舞い上がった。ルーアは追撃しようと思ったが、魔物の群れを一掃してくれたのがオピーオーンだということを思い出した。オピーオーンが現れなければ正直危なかった。


『光の翼』はフピテルが気絶しているが皆無事である。ポンちゃんは消滅したが魔法生物なのでまた作れる。今までの記憶を継承させることも可能だ。


後ろの村も無事。そして助けた少年少女も。この二人、命を救ったが、オピーオーンが現れなければ村を危険に合わせた罪に問われ極刑も免れなかっただろう。しかし、オピーオーンが現れた。スタンピードはオピーオーンが山に飛来したせいだと説明出来る。たぶん本当のことだ。


ルーアはオピーオーンを見逃すことにした。オピーオーンはルーアを一瞥すると南の方向へ飛び去って行ったのであった。


「生き残ったっす…」


「もうダメかと思ったわ…」


緊張の糸が切れたロサとエレナがへたり込みながら言葉を発した。


「ルーアがパーティーメンバーで本当によかったよ…」


「はいっす。処女のまま死ぬのは嫌っす。カッコいい彼氏が欲しいっす。」


「あたしも。」


そんなことを言いながら二人は抱き合った。そんな二人の姿を横目に見ながらルーアは微笑む。小柄で目が大きく小動物を連想させられるロサは十分可愛いと言われる部類であるし、スラッと背が高く顔立ちがはっきりしているエレナも美人だ。二人は選り好みし過ぎているのだ。冒険者ギルドには二人に想いを寄せる男はたくさんいるというのに。


「お兄ちゃんしか見えてない私が言うことでもないか…」


ルーアはそう呟き半壊した砦を駆け降り、気絶しているフピテルの元へ。ちなみにフピテルは女性にしては大柄で髪も短髪で男装の麗人のような姿なので男性より女性に人気がある。だが、さらしを巻いていても分かる大きな胸に吸い寄せられる男性も多い。そしてルーアはエルフなので成長は遅いがまさに告白することも憚られる絶世の美少女である。


フピテルの脈を確認し胸に耳を押し当てて心臓の音を確認する。どうやら大丈夫なのようだ。


「『女神の伊吹』。」


一応回復魔法を掛けておく。コンちゃんがルーアにすり寄ってきたので空いている手で頭を撫でる。コンちゃんは気持ち良さそうに目を細める。ルーアはコンちゃんに手を翳すとポンっと言う音と共にコンちゃんは消える。


「ん、ん…ここは?あ、そうだ、魔物たちは?」


フピテルは目を覚ます。少し混乱しているようだ。無理もない。


「大丈夫。もう終わったよ。」


「そっか。さすがルーアだな。」


二人は見つめ合い微笑み合う。村の方角から喧騒が聞こえる。魔物が撃退されたことが村人たちにも分かったようだ。


「今日は宴だな。」


「ガジーナの村ではご相伴に与れなかったもんね。」


「よし、今日は飲むぞー。」


フピテルは勢い良く立ち上る。


「大丈夫?」


「大丈夫大丈夫。丈夫だけが取り柄だからな。」


「もう。飲み過ぎないでね。」


「分かってるって。」


「あー、その「分かってる」は分かってない。」


「はいはい。行こ、ルーア。」


「うん。」


砦の上ではロサとエレナが村人たちに手を振っている。意識を取り戻した少女はまだ状況を把握出来ていないのか辺りをキョロキョロ見渡している。少年は他にも命を落とした仲間がいたのか泣きじゃくっている。


ルーアとフピテルは手と手を取り合い村へと向かったのであった。

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