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剣士、失敗する

コカトリスを倒した翌日の昼過ぎ、オレとマルテはコカトリス討伐…じゃなかった偵察のクエストを受注した街の冒険者ギルドに帰ってきた。


ガジーナの村を早朝に出発したオレたち。街道を通って2時間の距離になぜこんなに時間が掛かったのかというと、マルテが街道走るのが詰まらないから、一直線に帰るとか言い出したからだ。


森を抜け川を飛び越え、草原を走っていると出会ってしまったのだ、美味しそうな巨大猪に。


案の定、マルテはお腹空いたと言い出した。まあ、オレもギルドを出発する前、マルテが着替えている間に眺めていた掲示板に『ブルボア』という猪型の魔物討伐の依頼を見付けていた。


討伐報酬の足しになるかと思ってサクッと首を切り落とし、マルテに血抜きをして貰って焼いて食った。昨夜のコカトリスはオレの斬撃が首の中ほどで止まったときから薄々気付いていたが、物凄く固かった。村の香辛料を分段に使わせてもらったので味は美味しかったが。


対してブルボアの肉は程よい固さだった。しかし、調理法は焼いただけ。まあなんだ、お肉の味だったよ。


冒険者ギルドに入るとオレたちに視線が集まる。その色は驚きと安堵だろうか。二人の男が近付いてきた。昨日絡んできた奴らだ。クエスト行けよ。仕事しろ仕事。


「おう、ルーキー。無事だったか、心配したぜ。」


「えらく早いお帰りだな、ルーキー。まあ気持ちは分かるぜ、ルーキー。」


なんだ、心配してくてたのか。案外いい奴なのかもな。


「姫がおよびだぜ、ルーキー。」


男は親指で受付を示す。昨日のお姉さんが受付の中から手招きしている。オレとマルテは受付に進んだ。


「ヴィータさん、マルテさん、早かったですね。『光の翼』さんたちには会えたのですか?」


ん?あれ?そういう話だっけ?


「いや、会ってないけど?」


「……」


「……」


「偵察に行ったんですよね?コカトリスの情報を『光の翼』さんたちに渡すのがあなたたちの仕事でしょう?」


あー、なんかそんな話だったなぁ。


「コカトリスはどうなったんですか?ガジーナの村は?」


「あー、コカトリスは倒したよ。ガジーナは無事だ。」


オレがそう言うと、ギルド全体がしーんと静まりかえる。そして、どっと笑いに包まれた。


「がっはっは。嘘はいけねぇぜ、嘘は。」


「ルーキーにコカトリスが倒せるかよ。」


「前回襲来したときは何人死んだか分かってんのか?」


「逃げてきたんだろ。正直に言えよ。」


「嘘じゃないにゃ。ガルルルル。」


あー、うざい。やっぱりうざい。マルテはまた冒険者たちに威嚇を始める。お前は犬人族だったか?


「では、討伐証明部位の提出を。」


「は?」


受付のお姉さんが何か言ってる。


「討伐を証明する部位ですよ。説明したでしょ?」


「聞いたっけか?マルテ?」


「にゃ?聞いた気もするし、聞いてない気もするにゃ。」


ダメだこりゃ。オレがしっかりせねば。


「はあ。では、薬液受け渡しの証明書にサインを貰ってくるように言いましたよね?あれは?」


「……」


オレはマルテを見るとマルテは明後日の方向を見て吹けもしない口笛を吹き始めた。あれ?そういや貰ったな…どうしたっけか?


「あー、忘れないように木箱の中にしまって…」


「そして忘れたにゃ。にゃは。」


受付のお姉さんの目がどんどんジト目になっていく。


「あなたたち、本当にガジーナの村に行ったんですか?」


「え?行ったよ。行ったさ。なあ、マルテ。」


「にゃ。」


「で、それを証明するものは?」


「何もないです。」


「すいませんにゃ。」


「そう言えばマルテさんの服が変わってますね。それは?」


「あー、そうだった、そうだった。服が汚れたからカバリオのお母さんに貰ったんだよ。」


「血でベッタリだったにゃ。」


ガジーナの村で宴が始まる前に、コカトリス討伐のお礼と疑ったお詫びと言ってくれたのだ。カバリオのお母さんはヒューマンにしては胸が大きかったからマルテによく合っている。下着も貰ったので二つのボタンが見えなくなったのは残念だ。復活したカバリオの父も世界の損失だと言っていた。そしてお母さんに殴られていた。


「血でぇ?まさか、あなたたち、ガジーナの村で強盗を働いたんじゃないでしょうね?」


「は?」


「にゃ?」


なんでそうなる?んー、ガジーナの村で火事場泥棒し、抵抗した村を殺して返り血を浴びた服を着替える…ってこと?辻褄合って…るのか?


「いや、ちげぇし。そんなことしてねぇし。」


「ひどいにゃ。心外にゃ。」


「では、証明出来る物を。」


「……」


えー、何これ。凱旋したと思ってたのに。冒険者って難しいのな。


「はあ、まあ、あなたたちはそんな悪人には見えませんし。でも、証明出来る物がないと報酬は渡せません。」


「そんなぁ。」


「あんまりにゃ。」


「あ、そうだ。帰り道でブルボアって魔物を倒したんだけど…」


「証明出来る物を。」


「……」


えー、報酬なしかよ。困るよ。文無しなんだよぉ。


「ブルボアの毛皮はどうしたのですか?あれは買い取り所で50万ジェニーですよ。」


「50万!?どうしたっけか?」


「お肉と一緒に焼いたにゃ。見てなかったのかにゃ?」


ですよねぇ。見てましたよ。50万ジェニーを焼いたのか…どうやらオレたちは失敗したらしい。らしいじゃないな。確実に失敗した。グスン。


「はぁ。2、3日したら『光の翼』さんから報告があるでしょうから、もう一度このギルドにお越しください。あなた方の言うことが本当なら報酬をお渡しします。もし、嘘なら…分かっていますね?」


「はい。」


2、3日…それまでどうすんだ?あ、そういえば『光の翼』ってなんか聞いたことあると思ってたんだけど、思い出したのだ。妹の手紙に書いてあった。なんでもオレの故郷ベルジィで今活躍中の冒険者パーティーだそうな。女の子4人パーティーなんだけど、どう思うって書いてあったから、どうも思わないって返事で書いたんだった。


「お姉さん。ひとつ聞いていいですか?」


「なんでしょう?」


「『光の翼』ってベルジィが拠点なんですよね?」


「ええ。」


「どんなパーティーなんですか?」


「若い女の子4人のパーティーだと聞いています。クエスト成功率はなんと100%。リーダーはエルフらしいのですが『白光の聖女』と呼ばれ慕われているようです。光魔法の使い手で休日は治療院で低料金で貧しい人たちの治療を行っているとか。凄いですよね。まさに聖女です。」


「へぇ。」


「あたしというものがありながら、興味があるのかにゃ?」


「ちげぇし。そんなんじゃねぇし。」


マルテはじとっした視線を送ってくる。本当にそんなんじゃないんだよな。ただ、妹も治療院で働いていると聞いている。他にもそんなエルフがいたんだなって思った。ベルジィに妹以外のエルフがいたことも驚きだ。


「そんなことより今日の宿、どうしよ…」


「そうにゃ。宿より飯にゃ。」


「まだ昼過ぎなので、クエスト受けますか?あなた方はF級なのでたいしたクエストは紹介出来ませんが…」


「お願いします。」


「なんでもしますにゃ。」


オレとマルテが頭を下げるとお姉さんはまたため息を吐き出して手元の書類から1枚を抜き出しこちらに示した。


「これなんてどうでしょう。薬草の採取。」


「マルテ。お前、薬草って分かるか?」


「分かるわけないにゃ。草は全部食べれるにゃ。毒草に当たったらお腹を壊すだけにゃ。」


ですよねぇ。オレも分からん。


「では、これはどうでしょう。E級のクエストですけど。ホーンラビットの討伐。討伐報酬1万、買い取りは角、毛皮が5千、お肉が1千です。」


「ほほう。」


「解体は出来ますよね?」


「出来るか?」


「出来るわけないにゃ。」


ですよねぇ。オレも出来ない。


「はぁ。じゃあ、そのまま持って帰ってきてください。解体費用は掛かりますが、討伐報酬と合わせて15000ジェニーにはなるでしょう。」


1匹…ウサギだから1羽か?1羽15000か。2、3羽捕まえれば今日の宿代と飯代くらいにはなるか。


「それでお願いします。」


「はい。クエスト受注しました。ではお気をつけて。」


オレとマルテは振り返りギルドを出ようとする。


「へい、ルーキー。今度は兎狩りか?」


「ホーンラビットはめちゃくちゃ速いんだぞ?大丈夫か?」


「ダメだったときは、その猫をオレたちが買ってやるよ。ギャッハッハ。」


オレはそんなことを言ってくる冒険者たちの肩をポンと叩く。


「ありがとな、心配してくれて。でも大丈夫だ。行ってくる。」


「へ?」


呆ける冒険者たちをあとにギルドを出る。それからオレたちは10羽のホーンラビットを持ち帰り、やっと凱旋することが出来た。まあ、せっかくの15万ジェニーもほとんどマルテの食費で消えたが。


2部屋取った宿も、マルテがオレのベッドに潜り込んできたから1部屋無駄になってしまった。オレとマルテは失敗を乗り越え、冒険者として歩み始めたのであった。

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