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剣士、クビになる

「ヴィータ・ソーサリート、東部騎士団の解任及び騎士爵の剥奪を申し渡す。」


「じょ、冗談ですよね?」


「冗談ではない。」


「そんなぁ。」


東部騎士団本部の人事部に呼び出されたオレは、どうやら騎士団をクビになったようだ。


「ど、どうしてですか、人事部隊長。オレは…オレは…」


「騎士ドゥレムに対する暴行。奴は子爵の次男だぞ。もう庇いきれん。」


「それは…」


あいつが、オレの騎士学校の同期を馬鹿にしたからだ。確かに彼女は、少し人よりうるさくて派手だ。

だが、貴族の子供ばかりの騎士学校で孤児で平民で兵士学校から編入したオレは孤立していた。そんなオレに声を掛けてくれたのは彼女だけだった。剣術以外てんでダメだったオレにいろいろ教えてくれた。オレが騎士学校を卒業出来たのは彼女のお陰だ。その彼女を馬鹿にされて黙っていられるほどお人好しじゃない。


そういえば、彼女は卒業式のあと、立派な貴族になって迎えに来てって言ってたっけ?迎えに行く?会いに行けばいいのか?しかし、騎士団をクビになったら、貴族への道は遠退いてしまう…

あ、そうだ!


「ドゥレムはティエラの悪口を言いました。ドゥレムは子爵家、ティエラは辺境伯家。これは不敬罪です。」


「だからって、やりすぎだ。ドゥレムは全身骨折だぞ。」


ちっ、ちょっと小突いただけなのに貧弱なやつめ。ティエラなら軽く躱して高速の突きで反撃してくるぞ。


「それから、戦場で敵将ひとりと大立ち回りして戦線を混乱させたそうではないか。」


「それは、敵将の女が思いの外強く…しかし、打ち勝ち捕らえることが出来ました!」


オレが配属されていた東部方面軍の最前線ノルディスト砦は、我がランパーラ王国は隣国リベルタード王国との小競り合いが絶えなかった。普段はたいした兵力ではないのだが、あの時は敵将の中に恐ろしく強い女がいた。オレが相手をしたのだが、周りを気にしている余裕は一切なかったのだ。


「その捕虜の尋問を妨害し、逃がしたとも聞いたが?」


「それは…」


尋問じゃなく拷問しようとしたからだ。しかもあいつらは女の捕虜を辱しめていることを知っていた。オレが捕らえたのだから責任を持ちたかった。だから庇った。しかし、24時間守っているわけにもいかないので逃がしたのだ。リベルタード側に逃がすのは難しかったからランパーラ側に逃がしたが、あいつは上手くリベルタードへ帰れただろうか?


はぁ。まぁ、捕虜を逃がすのはアウトだよね。馬鹿のオレでも分かる。ばれないように逃がしたはずなのに、どうしてバレた?ドゥレムだな…あんにゃろう、軽く小突くだけじゃなく腕の2、3本切り飛ばしておけば良かった。


「お前が『女王蜂』のお気に入りだから、こんな罪で済んだのだ。普通なら打ち首だぞ。」


「『女王蜂』のお気に入り?」


『女王蜂』とは最近王都で名を上げてきた奴の二つ名だ。王族でもないのに『女王蜂』とは、なんと不敬な。なんでもひとりでいち軍団を壊滅させたとか、ドラゴンを打ち倒したとか…そんな、まさかな。噂だ噂。そんなこと出来るのはオレが知る限りティエラくらいだ。『女王蜂』というくらいだから女なんだろう。そんな女が二人もいて堪るか。男ならオレに剣術を教えたジジィなら出来るかも知れないが…


辺境の最前線で雑用を押し付けられていたオレなんかを中央の騎士団の二つ名持ちが気に入る理由がわからん。会ったことあるのか?中央の騎士団で知ってるのはティエラくらいだ。何かの手違いだろう。


はぁ、捕虜を逃した罪か…クビくらいで済んで良かったと思うかな。物理的にクビになっていてもおかしくなかった。


「そうですね。これくらいで済んで良かった。」


「分かってくれたか。それでこれからはどうするのだ?」


「はい。実家…と言ってもほとんどいたことはないんですけど、そこで妹が待ってるので、一度帰ろうと思います。」


オレは孤児で、幼少期は教会の孤児院で過ごした。15のときひとつ年下の妹と孤児院を出て、ボロい家を借りた。兵士学校は地元にあったので1年間はそこで暮らしたが、そのあと王都の騎士学校への特別編入が決まって地元を出た。騎士学校を卒業したあとも、すぐに東部方面軍に配属が決まったので、地元に帰る暇がなかった。


こっちに来てからも休みはあったが、地元まで馬でも1週間以上掛かる。そんな連休は取れるはずもなく…ああ、そう考えると可愛い可愛い妹に会いたくなってきたな。クビになってティエラとの約束が遠退いたのは残念だが、これは良い機会かもしれない。


「そうか、それなら」


「はい、残念ですが、謹んでお受けします。」


「うむ、では、我が伯爵家に」


「どうも2年間お世話になりました。」


「ちょ、待て。」


「失礼します。」


オレは人事部室を出た。人事部隊長が何か言おうとしていた気もするが、気にしない。今はオレの頭の中は可愛い妹のことでいっぱいなのだ。


しかし、ノルディスト砦は大丈夫なのだろうか?夜に侵入しようとしていたリベルタードの暗部を撃退していたのはオレなのだが…まぁ、騎士団をクビになり騎士爵も取り上げられたオレには関係ないか。


「待て。」


「伯爵様の話聞けっ。」


「な、消えた!?」


「うわっ!」


何かを言いながら飛び掛かってきた男二人をさらりと躱すと二人は激突した。痛そう。怪我しないといいね。そんなことを思いながら、オレは東部方面軍本部の建物を出る。はぁ、早く妹に会いたい。4年ぶりかぁ。更に綺麗になってるんだろうなぁ。


「人事部隊長の、いや、メルロー伯爵様の命により捕縛させて頂く。」


「覚悟!」


妹に会ったあとは、王都のティエラにも会いに行かなきゃなぁ。手柄を立てて出世しやすい最前線にオレを推薦してくれたのは、たぶんティエラだ。辺境伯長女のコネを使ってくれたに違いない。なのにクビになってしまった。謝らないとな。


「くっ、なんてスピード。」


「回り込め、包囲しろ。」


「ぐはっ。これを躱すか。」


なんだか騒がしい東部方面軍本部の前庭を抜け、オレは妹の待つ地元に向かったのであった。

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