Mischief of the God of Dreams
第2章
Mischief of the God of Dreams
夢。それは人間が寝ている時に見るもの。
その中に明晰夢というものがあるの。睡眠中に見ている夢の中で、自らがそれを夢と認識してみている夢のこと。
私がいじれば人間は明晰夢を見ることが可能になるの。
さぁ今回はどんなお話が見ることができるか。楽しみね♪
13
4月30日 月曜日
いつものうるさいアラームが聞こえる。
あぁ、私、やっぱり生きてるんだ。
金曜日の夕方、私は学校で倒れた。そのまま夢で、謎の女の声に用意してもらったお部屋で、私は“解放”される予定だった。しかし、クラスメイトの長瀬くんが助けにきてくれた。私が彼に「助けて」と言ったから、彼は来たそうだ。彼は私のことを知った。そして孤独から救い出す、友達になってくれると言ってくれた。本当か嘘かわからない。夢にいた長瀬くんが、現実の長瀬くんと同じとは限らないから。もし嘘だったらまたあそこに行くことになるのかな・・・ けどシロと生きるために、私は生きていかなきゃって思えた。記憶。忘れないことが大切。ゆっくりだけど私なりに頑張っていこう。
「うぅーーー」
私はノビをして、気だるい体を起こし、ベッドから起き上がり、リビングに向かった。
「おはよー、パパ、ママ」
「やぁ美咲、おはよう」
「おはよう、美咲。朝ごはん食べちゃいなさい」
「うん、ありがとう〜」
「美咲、体調はどうだい?」
「うん、もう大丈夫。土日って夢も見ないでほとんど寝ちゃってたし」
美咲は笑いながら父親に答えた。
「金曜日倒れてから、日曜日の朝起きてくるまでこっちは心配だったわよ」
母親・優希は朝ご飯をテーブルに置きながら、私を軽く睨んだ。
「土曜日も起きてたんだけどね。立ち上がる元気もなくて、ずっと寝ちゃってたんだって。昨日話したじゃ〜ん」
「もう。あんまり心配させないでよ」
「いや、心配かけていい。遠慮しないで素直にパパやママに話してくれ。家族なんだから。気を遣わないでいいんだよ、美咲」
「あなた・・・」
「パパ・・・ ありがとうね」
私は今週からは気が晴れた気分で生きていける気がした。
「おはよ〜、長瀬くん」
「優一、はよ〜」
「お〜、おはよ」
今日が来て欲しいような欲しくないような、ずっとそんな思いだった。先週の金曜日、天海が倒れた日。そして謎の夢を見た日。夢を見てもだいたいどんな感じの夢だったというような、抽象的な記憶であることがほとんどだった。だが今回は全く違う。自分が何を言ったか、天海の夢を覗き、環境も知り、なんとか助けることができたということを全て具体的に覚えている。あれは俺の夢に過ぎなくて、天海は何も関係ないんじゃないか。それとも2人の夢は繋がっているのか。土曜日曜と気がなんとなく重かった。もう少しで天海と会う。俺はどう接したらいいんだろうか。夢のこと有る無しに友達になりたいとは思っている。あの夢が共有されているのかさえ知れれば。そんなこんなを考えている間に俺は隣の席に気配を感じた。
「あっ・・・」
目があった女の子。天海美咲。
「・・・」
たった数秒の出来事だった。声を掛ける。先週もやっていたこと。それでも俺には長い時間に思えた。
「お、おはよう、天海」
「う、うん、おはよう」
会話が続くのではなく、私は席に着いた。挨拶だけしかできなかった。でもいつもの長瀬くんとは違って少し違和感を感じた。彼も夢のことを覚えているからなのか。わからない。どうにか確かめたい。けどまだ私から話しかける勇気なんてなかった。
天海と挨拶だけで会話を膨らませられなかった。夢の確認なんてどう切り出すんだ? 夢ぶりだねって話しかけるのか? 流石にそれは変人じゃないだろうか。まず共通した夢を見るなんて普通あり得ない。けどこんなにリアルに覚えている。とりあえず今日中に確認しよう。そう思って授業に集中しよう。そうしよう・・・ あーでも今日のいつ確認するんだ? あいつ先週すぐ帰ってたし。あー、むしゃくしゃする・・・ 俺は紙にメモを残し、さりげなく天海の机に置いてトイレに向かった。
「優一、おはよう」
「よう、尾木、小便中に話かけんな」
「なんでだよ、話しながらおしっこくらいできるぜ? お前みたいに話かけられるとおしっこ止まるとかわからんわ」
「そういう体質なんだよ、ったく」
俺はトイレした後は必ず手を洗って、紳士の持ち物であるハンカチで拭いている。駅のトイレや学校でもそうだが、トイレした後に手を洗わずに外に出る人間が多すぎる。俺はとてつもなく汚いと思うが本人はそれでいいのだろうか。そう思っている間に、尾木が手を洗わずに出ようとした。
「いやいや、手洗えよ、尾木」
「ん? あーおうおう」
そう言って手を洗い出した。
「汚いとか思わないのか?」
「あー、だってめんどくせーじゃん。手濡れても拭くのないし」
「ハンカチくらい持ち歩け・・・」
と、なんだかんだで今日も1日が始まった。今週はGWがあるため、創立記念日とかいろいろ休みを合わせて、明日から日曜日まで休みとなる。そして来週の水曜日から金曜日までが中間テスト。月曜にテストが返ってきて、土曜日に体育祭。予定がてんこ盛りな時期であった。
昼休みになった。俺は基本昼休みは校内委員会室か、教室かの二択なのだが。
「優一! 飯食おうぜ。そしてそのまま勉強教えてくれ」
颯爽と佐藤が絡んできた。
「悪いな、今日は会室でやることあるんだよ、明日から使えないしな」
そう言って俺は会室に向かった。しかし今日はいつもと違う。会室の近くまで来て、俺は人が来るのを待った。すると案外早くその待ち人は現れた。
「あ〜、よかった、来てくれて。来なかったらどうしようかと思った」
俺は笑いながら待ち人・天海美咲に話かけた。
「だ、だって、メモ渡されたから・・・」
そう言ってメモをこちらに見せた。
“話したいことがあるので、今日お昼一緒に食べませんか? 校内委員会室で待ってます。 長瀬”
「なんかこれ自分で見ると恥ずかしいな」
そう言って俺はそのメモを受け取り、丸めて廊下にあるゴミ箱に捨てた。
「あ、あの、話って、夢のことですか?」
主題をいきなり向こうから言ってきた。俺は困惑したが確信も得た。
「やっぱりアレって夢だけど、夢じゃなかったんだ」
「長瀬くんが私を助けてくれた。ありがとうございます」
「ま、まぁ、お昼食べながら話そう、ここ会室だから」
そう言って俺は会室の鍵を開けようとした。だが
「あれ。鍵開いてるじゃんこれ。俺、金曜日閉めたよなぁ」
そう言って会室の扉を開けた瞬間、謎が解けた。
「来るのが遅いわよ〜、優一〜」
先客がいたのであった。黒髪ロングの超美人な学生。校内人気No. 1の先輩。
「先輩こそなんでいるんですか」
「いいじゃない〜、ここが落ち着くんだから〜 優一にも会えるしね♪ 先週とか会議全部入ってるから、入れなくて寂しかったわよ〜」
「まぁ行事があれば、放課後はもちろん、たまに昼休みもここは稼動になりますからね」
「そう。だから我慢した分、今日は優一いじりを堪能しようと思ってって。あれ、お客さん?」
「あ、クラスメイトの天海」
「ふーん。私がいながら、クラスの女を狙って、ご飯時にこの聖域に呼んだっていうことね!」
「いや、なんでそうなるんですか!」
「まぁいいわ。天海さん? こっち座って〜」
天海は懐疑的な目で俺を見た。
「悪い人ではない。宝条鳳羽先輩。3年生。去年の学級委員会委員長で校内委員会委員長。つまり俺の前任者」
「早くこっちきなさいよ〜」
鳳羽先輩はコーヒーを3人分用意していた。
「なんかごめん。まさかいるとは思わなくて。まぁとりあえず座ろうか」
そう言って俺は天海を席に誘導した。
「天海なにちゃん?」
「み、美咲です」
天海は鳳羽先輩の対応におどおどしていた。
「じゃあ、美咲。単刀直入に聞くわ。あなた、優一を狙ってるの?」
「先輩、なんでそんな話になるんですか!?」
「だって優一がここに他人を連れてくるなんてこと考えられないわ。美咲。さっきも言った通り、ここは私たちの聖域なの。そこに優一がクラスメイトを連れてくるなら何か事情がある。しかも女性。でも本人は私に首ったけのはずだから、そう考えると美咲が優一をって考えになるのが道理でしょ」
「なりません。確かにここは俺たちの聖域ですよ。けど俺は落ち着いた場所で天海と話すことがあった。だからここが適当だと思ったんです。まさか先輩が来てるなんて思いもしませんでしたが」
「どんな話をするのよ。私には聞かせられないの?」
「そ、それは・・・」
天海の夢の話。それは俺の話ではなく、天海自身のことなのだ。
「話せます」
天海がきっぱりと答えた。
「今のやりとりで宝条先輩と長瀬くんの仲が良いんだなってなんとなくわかりました。長瀬くん。長瀬くんは私の友達なんだよね?」
彼女の目は本気だった。
「あぁ、俺はお前の友達だ」
「なら私は先輩とも友達になりたいです! 私もその輪に入りたいです! お願いします」
天海はそう叫んだ。手は震えていた。そうか。やり方は突拍子もないけど、こうやってくることしか天海は友達の作り方を知らないんだ。俺が友達だから俺の友達を天海の友達にしたい。自分の事を話してでも。すごく勇気がいる発言だったろう。友達を作るということのために天海は賭けているんだ。
「天海。わかった。鳳羽先輩、真剣に聞いてくれますか?」
「なんか展開が怒涛すぎてびっくりしているけど、いいわよ?」
そして俺と天海は自分たちが金曜日に見た夢を共有した。天海の今までのこと。天海が部屋に閉じこもろうとしたこと。それを俺が助けたこと。友達となってこれからの学校生活が楽しくさせて見せると約束したこと。そして謎の女の声のこと。
「やっぱり俺たちは同じ夢を見ていたんだな」
食い終わった弁当を片付けながら俺は呟いた。
「うん。本当、助けてくれてありがとう」
「いやいや、さっきまではやっぱ自信なかったんだ。俺だけが見た夢だったんじゃないかって。でも確認した今、俺にもう迷いはない。俺が絶対楽しくさせてみせるから」
「うん、ありがとう」
そう言って天海は笑った。笑顔初めて見たな。とても可愛い笑顔だった。
「なるほどねぇ。世の中には面白いことがあるのね〜」
鳳羽先輩は気楽な声で行った。
「先輩、あんまり驚いてませんね」
「ん〜、驚いてはいるけど、謎の女の声がすごい気になるのよね〜」
「確かに。あいつ、何だったんだろう」
「私も全く気にしてなかった」
「あんたたちは夢でそれどころじゃなかったってことでしょ。まぁいいわ。もう昼休みの時間もないしね。詳しい話は明日しましょ♪」
「明日? 学校ないっすよ」
「今日の放課後なんてどうせ会議でしょ? だったら明日話すしかないじゃない。ウチに来て、2人とも」
「俺はいいけど、天海は?」
「私も平気ですけど、先輩の家わからないです・・・」
「美咲の家がどこかわからないけど、学校出て、駅に向かう道でちょちょいと曲がったりしていくと、宝山ってカフェがあるの。そこが私の家よ」
「宝山! この前行きました!」
「あ、そうなの? あ、おばあちゃんがこの前言ってたのって美咲のことかしら。まぁいいわ。11時に集合ってことで」
「了解です」
「わかりました」
「あ、そうだ、美咲。私もあんたの友達よ。優一がやることに協力するわ♪」
「え!? まじで?」
俺は先輩の発言に驚き、大声を出してしまった。
「当たり前じゃない。優一のやることに協力するのはいつものことだし、それに話を聞いててね。この子を開花させてあげたいなって思ったのよ」
「開花?」
天海は分からず尋ねていた。
「美咲はまだ蕾の状態なの。今までの環境で開花することができなかった。その開花の手伝いをね、したくなったのよ♪」
「あ、あ、あ、ありがとうございます! よろしくお願いします!」
天海の目には涙が溜まっていた。
「なんか俺以外で生き生きしてる先輩、久々に見ました」
「優一いじり以外の久々の趣味よ。ほら時間よ。また明日ね。優一、美咲」
そう言って各自教室に戻っていった。鳳羽先輩がいたことはイレギュラーだったけど、夢の話ができたし、満点。いや先輩も加わってくれたから120点かな。
「長瀬くん」
「ん? どうした」
「本当ありがとうね」
「まだまだ、これからでしょ」
俺はそう言って天海を見た。
「うん♪」
こっちを向いて微笑んだ顔は、夢で見た悲しい顔とは正反対で、とても眩しいものだった。
夜。部屋で私は1日を振り返っていた。長瀬くんとの夢はやはり共有されていた。そして記憶もあった。長瀬くんは私の友達でこれから楽しくなるって約束してくれた。それだけでとっても嬉しかった。だけど少し不安がある。そう、宝条先輩。長瀬くんとすごく仲良しなんだなぁって思って、頑張って勇気出して友達になってくださいって言っちゃった。初対面の人に私のことを知られてしまった。迷惑じゃなかっただろうか。でも先輩は長瀬くんと一緒に助けてくれるって言ってくれたし、私を咲かせてくれると言ってくれた。これからどうなっていくんだろう。楽しみと不安が入り混じった気持ちがグルグルしてる。
14
5月1日 火曜日
「あら。学校行くの? こんな休日に」
優一の母・幸恵は休日なのに制服を着ている息子を見て、疑問に思っていた。
「委員会のことでね。それに来週はテストだし、自習室で勉強してくるよ」
「そう。あなたも偉いわね。今回も1位取っちゃいなさいね! お母さん鼻が高いから オッホッホ」
「1位なんて当たり前だろ。じゃあ行ってきます」
前にも説明したかも知れないが、俺の父親は官僚、母親は教師をしている。幼馴染かなんかで結婚したらしい。2人ともプライドが高く、1位や優秀な学校に行くのは当たり前だというのが大前提にある。というか100点を取らないと怒られる小学生だった。俺も姉貴もそんな環境の中で暮らして行きてきた。姉貴は帝都大学という国立最難関の大学に無事に入学。東京で一人暮らしを始めた。長瀬の呪縛から解放された姉貴を羨ましく思う反面、自由になれた姉貴に心から安堵している。まぁ世間でいうシスコンってやつで、俺は姉貴好きだし、姉貴の幸せを心から願っているんだ。だからもう親にいちいち言われない姉貴を羨ましいが、ずっとそっち側にいてほしいと思う。と思っていたら、待ち合わせの場所、カフェ宝山に着いた。
「いらっしゃいませって、優一ちゃんじゃない」
店の扉を開いて早々に店主が近寄ってきた。
「ミツばあちゃん、ご無沙汰してます」
「1ヶ月も顔見せないで、死んだかと思ったわ。ほほほほ」
「死にませんよ。最近ちょっと忙しくて」
ミツばあちゃんの冗談に付き合いつつ、俺は店内を見回した。
「あれ。俺、鳳羽先輩と約束あってきたんですけど、先輩どこです?」
「ん? 鳳羽ならさっき高校の子と出かけたわい。これ、優一ちゃんに渡してって」
俺はミツばあちゃんからメモを受け取った。
“優一へ ちょっと美咲と行くところがあるから、待っててね♡”
「おいおい、まじかよ」
呼び出しておいて2人でどっか行くって、まぁあの人ならやりそうだけど、さすがに面食らいましたわ。
「優一ちゃんは去年から、ずっと鳳羽に振り回されてるの〜」
笑いながら水とおしぼりを持ってきてくれた。
「あの調子じゃ長くかかるから、いつもの席に行っておき」
「ん、わかった」
俺は水とおしぼりを受け取って一番奥の個室部屋に向かった。このお店はカウンターやテーブルはもちろん、個室も1部屋だけある。まぁ周りから見えるから個室って感じはないんだけど。他にもソファーの席もあったり、ミツばあちゃんと死んだ旦那さんの趣味全開の喫茶店がここ“カフェ 宝山”だ。去年姉貴に連れてこられて初めて来た。それから姉貴と鳳羽先輩、俺の3人でこの個室で勉強したり、雑談したり、委員会作業したり。もはや常連の枠を超えて、忙しい時は店のお手伝いをしたり、ミツばあちゃんにも鳳羽先輩の彼氏と、からかわれたりする始末。まあその結果、何頼んでも無料にしてもらえているのはありがたい。ウチの学校はバイト禁止ではないが、授業スピードも速い進学校のため、バイトする時間はないに等しい。
「ご注文は?」
いきなり知らない声が聞こえてびっくりした。髪はミディアムくらいで、少し目つきの悪い、見たことない女の子が宝山のエプロンをしてメニューを聞いている。
「ほ、宝山コーヒーをブラックで」
「少々お待ちください」
そう言って下がっていった。ミツばあちゃん、バイト雇ったのか。前に来た時はいなかったからさすがにビビった。まぁいいや。先輩達が帰ってくるまで勉強してよ。
「祝日なのにどっか行くの?」
「うん、ママ。友達と遊んでくるの」
「と、友達!? あ、あなた友達できたの?!」
「お母さんや、それはさすがに美咲がかわいそうだよ」
「だってあなた・・・」
「美咲、気をつけて行ってらっしゃい」
「うん。パパ、ママ、行ってきまーす」
美咲は元気そうに飛び出して行った。
「あなた、先週のシロみたいに友達がいるなんて思い込んでいたら・・・」
「大丈夫だよ。それに今日の美咲はいい顔していたよ」
母・優希は心配する一方、父・隆之は晴れやかな顔をしていた。
友達と遊ぶって何年ぶりだろう。こうやって待ち合わせをしてなんて本当に久しぶり。こんなに足取りが軽いのも初めてかも。するともう宝山についてしまった。まだ10時30分。早すぎるかな。お店の中で待ってたら失礼かな。長瀬くんが来るまでこの辺で待ってればいいか。いやこの辺で待ってるのも逆に失礼かな?
「全く〜、そんなところで何してるのよ、美咲」
お店から宝条先輩がいきなり出てきた。
「あ、あの、その、お、おはようございます!」
「おはよ。なに慌ててんのよ」
先輩は私を見ながら笑っていた。
「あたしの部屋、その2階のところなんだけどね、窓を偶然見たら美咲が見えて。そのまま来るかな〜って見てたら、5分以上立ち止まってるんだもん。だからお出迎えに来てあげたわ♪」
「あ、ありがとうございます。あの、どうしていいかわからなくて・・・」
「まぁ徐々に慣れるわ。友達なんてそんなもんよ。さ、じゃあ早速だけど、ちょっと一緒に来てもらうわよ」
そう言うと先輩はカフェに入らず、歩いて行ってしまった。
「え、宝条先輩、宝山で話すんじゃないんですか? 長瀬くんもまだ来てないし」
「ウチで話す前にちょっとやることがあんのよ。それに優一は待たせておいて大丈夫だから。ほら、行くわよ」
良いのかなぁと思いつつ、私は先輩に付いて行った。
「はい、着きました〜」
10分くらい歩いた先にあったのは
“Barber Okumura”
「なんで美容院なんですか?」
「いいからいいから♪」
そう言うと先輩は、私を押し込むようにして美容院に入った。
「あら、鳳羽。いらっしゃい」
美容院に入ると、金髪でロングヘアーの綺麗なお姉さんが出迎えてくれた。
「彩さん、おはようございます♪」
「おはよう。“今回は”予約時間守ったわね♪ その子が昨日言ってた子?」
そう言うと美容師さんは私をじっくり見回すように見てきた。
「そう、あたしの新しい友達。美咲よ」
「ど、どうも、はじめまして・・・ あの、先輩、予約って?」
「昨日お昼に話してからさ、美咲をプロデュースしようかなって思って。まず初めに、外見からいくべしって思ったから、昨日予約したのよ」
「鳳羽の頼みなら聞いてあげたいし、特別に今日のこの時間は貸切状態にしちゃった♪」
「彩さん、さっすが〜♪」
「え、でも、私、ど、どうしたら?」
「彩さん、やっぱりこの子可愛いと思うでしょ?」
「うん、聞いてた通りね。さすが鳳羽、優香並のセンスよ」
「優香先輩には負けますよ〜 はい、じゃあ美咲はココに座る」
そう言って、私は椅子に案内され、座らされてしまった。
「何か髪でこだわったりしていることある?」
「い、いえ、ないです!」
「じゃあ私に任せて。可愛くしちゃうから♪」
「お、お願いします?」
私、どうなっちゃうんだろう・・・ そう思いながら時間は過ぎて行った。
「はい、完成♪」
「おー! 美咲、いいじゃない! 超可愛いわよ!」
「っ・・・」
鏡に映っている自分自身が自分に思えない。
「今までの髪型だと暗い雰囲気を出しちゃってたからね。そして可愛いお顔を見せるためにバッサリショートに転換♪」
「美咲〜、似合ってるわよ♪ 新しい自分よ。どう?」
「な、なんか自分じゃないみたいでなんというか、恥ずかしいです。け、けど」
「けど?」
「う、嬉しいです!」
これが自分なんて思えない。恥ずかしいけど、嬉しい気持ちでいっぱいになった。
「ふふふ。よかったわね、美咲♪」
「私も頑張った甲斐があったわ〜」
「あ、あの、こんな素敵な髪型にしてくださってありがとうございます!」
「彩よ。伸びてきたらいつでも連絡してらっしゃい」
「さ、彩さん、ありがとうございます!」
「美咲お礼言ってばっかりね〜 もっと鏡見て見惚れてると思ったけど。はい、彩さん、お金」
「はい、ちょうど。いただくわね」
「え、わ、私が払います! なんで宝条先輩が」
「今回は特別よ。じゃあ彩さん、またそのうち」
「鳳羽、美咲ちゃん、またね♪」
「え、あ、ありがとうございました〜」
私は入る時と同様、先輩に押されるようにして美容院を後にした。
「じゃあ宝山に帰るわよ。そろそろ優一もキレてるかもだし」
そう言って笑いながら先輩は来る時と違って、ゆっくり歩いていた。
「あ、あの、宝条先輩」
「ん〜? なぁに?」
「ど、どうしてここまでしてくれるんですか?」
私は謎に思っていた。いきなり友達になってくださいと言われてびっくりしただろうし、私がどんな人物であるかも知り、咲かせたい、プロデュースしたくなったというのも私の中では嬉しいけど、よくわからなかった。
「ん〜 1つは優一絡みだからよ」
「な、長瀬くんと付き合っているんですか?」
「付き合ってはいないわよ。けど優一は私にとって特別なの。その人がやる事を助けたい。それが1つ目の理由」
「1つ目・・・?」
「2つ目の理由はほっておけなかったからよ。昔のあたしを見てるようでさ」
「昔の宝条先輩ですか?」
「そ。まぁ美咲のこと詳しく知っちゃってるお詫びっていうか、まぁ話すけど、私も過去に色々あったのよ」
「あ、そんな無理に話さなくても」
「いいのいいの。優一もこの件については、少ししか知らないんだけどね。自分で言うのもアレだけど、あたしってスタイルも良いし、美人だし、モテちゃうのよ」
確かに先輩はスタイル抜群で美人である。学校に来て1ヶ月だけど、噂とかは、よく聞いていた。
「昔からあたしのところに来れば男子にモテるとか、あたしと友達でいることが一種のスキルだとか言われててさ。もちろん妬まれもして随分と酷い噂を流されたりしたのよ。だから心から言える友達なんていなかった。あなたと同じ、孤独ってやつね」
「先輩にそんなことが・・・」
「想像つかない? 女のいじめが怖いのは美咲も知ってるでしょ。だからね、もう関わらないことにした。孤独を受け入れることにしたの」
「孤独を受け入れる?!」
「そう。美咲にはわからないかもだけどさ。孤独である事を受け入れたの。だから高校でも友人は話しかけられたら答える程度。遊びにとか行かない。そのために学級委員になって校内委員の補助に入ったの。そうすれば遊びを正式な理由で断れるからね。だけど、そこであたしの人生を変えてくれた人に出会っちゃった。誰だと思う?」
「え、えっと長瀬くんですか?」
「違うわよ。それに今のはあたしが高1の時よ? 優一は中学生よ」
彼女はそう笑いながら空を見上げた。
「でも半分正解。あたしがそこで出会ったのは長瀬優香先輩だったの」
「長瀬優香?」
「当時2年生で学級委員長兼校内委員会委員長。長瀬優一の姉よ」
「長瀬くんのお姉ちゃん!」
「あの人のおかげで今のあたしがいるの。まぁ最初は姉ちゃん可愛いねとか言ってくるナンパ師みたいな人でさ。だからこの人も今までの人たちと一緒だと思ったの。遊びに誘ってくるし、距離感近いしで、本当に嫌だった。そんなある日ね、急に仕事あるから保健室まで来いって言われたの。それで向かうでしょ? でもそこには仕事なんてなくて、タバコ吸っている宮城先生と、同じくタバコを吸っていた優香先輩がいただけなの」
「え、優香先輩もタバコ吸っていたんですか?」
「宮城先生特製のニコチンとか0の体に無害に改造されたタバコね。今じゃ、あたしも優一も吸ってるわよ」
「良いんですか、そんなの・・・」
「まぁそんな事どうでも良いのよ。肝心なのはその保健室で何があったかよ。話していい?」
「あ、はい! 聞かせてください」
「こんなところで今日はなんの仕事ですか、先輩。それにタバコなんて吸っていいんですか」
「コレは私が改造した体に無害のタバコだからなんの問題もないゾ」
保健の宮城先生がタバコ吸いながらそう言った。
「今日の仕事はココで私と鳳羽の2者面談。お前をもっと知りたいからなぁ」
そう言って長瀬先輩は手を前に突き出した。この人は本当に一体なんなんだろうか。
「委員会の仕事じゃないなら帰ります」
私は帰ろうとドアを開けようとした。しかし、
「あれ、開かない」
「ココは私の聖域だからな。タバコを吸えるように換気扇も改造すれば、部屋の鍵もオートロックに変更してあるんだ」
「残念だったね、鳳羽♪」
この人たちは一体なんなんだ。
「はぁ。もうわかりました。で、2者面談って何するんですか」
私はもうヤケになっていた。
「鳳羽さ、わざとそうやって生きてるでしょ? しんどくない?」
「な、何を言っているんですか?」
私は訳がわからなかった。長瀬先輩が私を見透かしている?
「初めて見てから今日までずっと思ってたんだよ。人との間に壁を作って、自分の世界を狭めているんじゃないかな〜って。壁を作った理由は多分その美貌に寄ってくる友人たちで嫌な思いをしているからとかその辺り?」
「あ、あんたに何がわかんのよ!」
見透かされているからか、口調が荒くなってしまった。でも構わない。
「何にもわからないよ〜? 私は鳳羽じゃないから。でもその生き方じゃ、いつか壊れるよ? それに絶対つまらない。あんたにそんな生き方を私はして欲しくないの」
「私の人生は私のものです。先輩にとやかく言われる筋合いはないです」
「それでもあたしは、あんたにもっと自然に笑顔でいて欲しい。もっともっと自由に生きて欲しいのよ。まぁ私みたいに」
そう言って彼女はピースをしていた。この人は一体なんなんだ。
「自由な生き方は長瀬先輩の生き方です。私は私でコレでいいんです。」
「もう辛い思いをしたくないからか〜」
今まで黙っていた宮城先生が口を開いた。
「優香と宝条はまるで正反対だな。宝条は自分が辛い思いをしないために自分と他人に壁を作ってる。優香は自分が嫌な思いをしたくないから自由に生きてる。理由は一緒なのに行動が正反対になってるんだ。わかる?」
「長瀬先輩が嫌な思い?」
委員会で知り合ってから、この人は自由でやりたい事をやってて、嫌な思いとかそういうものとは縁がないと思っていた。
「こいつは長瀬優香だろ? 父親は有名官僚の長瀬さん、奥さんは先生をしている。つまりエリート一家。テストは満点じゃなきゃ怒られ、体罰も受けて生きてきたんだ。そんである日、高架下でリスカしようとしてた時にな、私が偶然会って、止めたんだ」
「あはは、懐かしいですね〜 中3だったっけ。そこで私は宮城先生に出会って、先生の話を聞いたの。学校で隠れて実験したり、ルールを守りつつ自由に生きることとか。当時の私からしたらもう感激だったのよ。私は初めて、自由に生きるって選択肢を知った。更に深く考えたいから、先生がいる山衛高校に来たの」
「・・・」
何にも言えなかった。あの長瀬先輩にそんなことがあったなんて。
「ルールを守りつつ、自由に生きる・・・」
「まぁ最初はよくわかんないと思うけど、私について来て、自由に生きてみようよ。絶対後悔させないから」
「優香や宝条みたいなタイプはな、自由に生きた方がいい。自分で選んで、自分で責任を持って生きるんだ。いちいち言い訳したり振り回されたりするくらいなら自分で責任持って自由にやれ。私が言えるのはそんなことだ」
「全然教師っぽくないでしょ? コレもそういうことなの。先生が言う事を信じて生きても、責任は私。それが自由に生きるって事。わかった?」
「・・・なんとなく」
「そ。じゃあ今日はもういいわ。帰りましょ。先生また明日〜」
「気をつけて帰れよ〜」
「そこで私は自由って事を知った。それからずっと優香先輩といたらこんな性格になってた。あたしが委員長になったら優一が来て。優香先輩も手伝いに来てくれたから3人でよく仕事やってたわ〜 基本スタンスの人との壁を作るのは今も変わってないわよ。けど心から信用できる友人が出来て、その人たちと自由に生きることができるようになった。まぁとにかく、優香先輩のおかげで今の私がいるの。優香先輩が私を助けてくれた。それが優一と美咲に重なったのよ」
「宝条先輩にも色々あったんですね・・・ あ、だから長瀬くんは特別って言ってたんですね」
「そう言うこと♪ 美咲もあたしたちといれば色々考えが増えるわよ〜」
先輩がここまでしてくれる理由がわかった。先輩にも辛いことはもちろんあったんだ。だけど今はあんなに綺麗で楽しそう。いつか私もそうなれるかな・・・
「美咲、どこまで歩いてるのよ。もうウチすぎてるわよ〜」
その声を聞いて振り向いた。先輩は笑ってこっちを見ている。考え事をしていたせいか、宝山を過ぎていたのだ。
「あ、あ、すいません!」
「さ、じゃあ怒られる覚悟をしましょう。いい?」
「え? どういう」
私はまた押されるように宝山に入った。
「おばーちゃん、ただいま〜」
「鳳羽〜、優一ちゃんもう待ちくたって、まぁまぁ、この間の」
この前と同じ、おばあちゃん店主が迎えてくれた。この人が先輩のおばあちゃんだったんだ。
「せ、先日はどうも」
「鳳羽の友達だったのねぇ〜 髪も切って更に可愛くなって〜 ってことは優一ちゃんともお友達じゃろ。奥の個室にいるから早く行ってあげな〜 ほら鳳羽、お水とおしぼり持って」
宝条先輩のおばあちゃんは宝条先輩に水2つとおしぼり2つ持たせて、席に向かわせた。席に着くとこっちを睨んでる長瀬くんと目があった。
「天海?」
「どう、すごい可愛くなったでしょ?」
「う、うん。一瞬誰かわからなかった」
「ほら〜、可愛いって、美咲。よかったわね」
「は、恥ずかしいです」
私は椅子に座ってメニュー表で顔を隠した。
「約1時間半の遅刻の理由はコレですか」
「そうよ。悪いとは思ってるわよ、少しは」
「最初から教えてくれればいいじゃないですか」
「そしたらサプライズ感がないじゃな〜い」
「別にサプライズにしなくたっていいじゃないですか」
「あの、ご注文は」
「うわぁぁ」
いきなり2人以外の声が聞こえてびっくりしてしまった。
「あたしは宝山コーヒーブラック〜」
「わ、私はカフェオレで」
「俺はお代わりで」
「かしこまりました」
そのまま従業員の女の子は下がっていった。
「まぁ天海のことで遅れたのはわかりました。俺じゃそういうところまで気が回らないので助かります」
「わかればいいのよ、わかれば。ほら、ほら、美咲可愛いでしょ〜」
そう言って先輩は私の頭を撫でてきた。
「そういやあの子、いつミツばあちゃん雇ったんです?」
「ん〜、4月からだったと思うわよ。名前は奥村紗理奈だったかしら。ほら、あたしたちの美容院の。美咲もさっき行ったでしょ。彩さんの娘さんよ」
「えーーーーーー」
私は大きな声を出してしまった。あんな美しい女性がもう母親だったとは思いもしなかった。
「そんなに驚くか? まぁ確かに彩さん、親ってイメージないくらい美人だけど」
「勝手に個人情報話さないで下さい」
そう言って奥村さんが怒りながらコーヒーを持ってきた。
「それを決めるのは私の勝手だわ♪」
「チッ」
聞こえるくらい大きな舌打ちをして戻っていった。
「先輩、あの子と仲悪いでしょ」
「からかい甲斐があって楽しいわよ♪」
それからは2人から学校のこと、先生の噂やクラスメイトの紹介、行事の説明を聞いていた。何気ない言葉で笑って、楽しいって思える久しぶりな感じだった。
「じゃあ俺はそろそろ帰るわ」
「じゃあ私も」
「2人共、明日も来なさいよ」
「え、どうして」
「美咲と遊ぶためよ。他に理由はないわ」
「まぁそれもそうっすね」
「え、長瀬くん、無理しないでいいよ」
「いや、俺は家に居たくないからさ。今日と一緒でいい?」
「いいわよ。さ、送るわ」
私と長瀬くんは荷物をまとめてレジに向かった。
「お代はいいわよ。えっとなにちゃん?」
「み、美咲です! でもお金は」
「鳳羽と遊んでもらってるお礼じゃよ。またおいでね」
「また明日きます。ミツばあちゃん、じゃあ」
「ご、ごちそうさまでした」
「またね〜、優一、美咲」
宝条先輩の言葉を背に受け、私たちは宝山を出た。
「ミツばあちゃんさ、鳳羽先輩が連れてきた客からはお金取らないんだよ」
帰りながら長瀬くんはそう言葉を続けた。
「先輩も昔色々あってさ。遊ぶ友達がいなかったんだ。だから嬉しんだと思う。俺たちが先輩と遊ぶのが。それにさ、先輩、親がいないんだ」
「え、親がいない?!」
「あ、いや、いるんだけどさ。離婚したんだよ。お父さんの行方は知れず。母親は自分のことで手一杯だからって、先輩をミツばあちゃんに預けたんだ」
「そう・・・だったんだ。あの、そんなこと宝条先輩の許可を取らずに喋っちゃってよかったの?」
「あの人と俺の関係だから大丈夫だろ。それに今日の1時間半遅れは許さん。天海には怒ってないぞ。髪、本当似合ってるし、可愛いよ」
「は、恥ずかしいからやめて」
「あ、わ、悪い。あのさ、明日試験勉強しようぜ。色々教えるから」
「え、うん! それはすごい助かる!」
「おけ。じゃあ俺はこっちだから。また明日」
「うん、バイバイ」
そう言って私は長瀬くんと別れ、家に帰った。
「ただいま〜」
「美咲おかえり・・ってまぁまぁ。あなた! あなた!」
「なんだい、お母さんや。って美咲?! 美咲なのか!」
「え、う、うん。似合わないかな?」
「似合うわよ!!」
「すごく可愛いぞ美咲!!」
「あ、ありがとう」
褒めてくれる両親に照れつつも、私はショートにしてよかったと思えた。それから夕食の時に長瀬くんと友達になって、宝条先輩とも友人になって、助けてくれてることを話した。
「じゃあ、おやすみ、パパ、ママ」
「おやすみ、美咲」
「よかったね、母さんや」
「良い友人に恵まれたのね、あの子。本当よかった」
今日を振り返るとすごく長かった気がする。宝条先輩に美容院に連れて行かれ、ショートヘアーになり、宝条先輩の過去にも触れ、学校のことも長瀬くんから教えてもらった。明日は試験勉強もできるし、なんか本当にこれから楽しくなりそう。そう思いながら私は眠った。
15
凄く懐かしい匂いがする。いや、つい最近も感じた気がする。なんだろう。これは・・・ シロ?
「えっ」
目を開いたらあのお茶会の部屋に私はいた。この前と違って明かりがともっていて、たくさんのご飯やデザートが食卓に並んでいた。
「どういうこと・・・ なんでまたここに・・・」
怖くなってきた。また私は怖い夢を見るのか。何か嫌なことが起きそうで怖かった。
「うおおおおおおおあああ!? 痛え」
いきなり叫び声が聞こえてきて、天井から長瀬くんが降ってきた。
「痛えなぁ。なんで毎回毎回このソファーに落ちるんだよ、俺は。あれ、天海?」
「長瀬くん!」
私は友達を見つけて安心した。走ってソファーに駆け寄った。
「長瀬くんがいてくれてよかったよ〜 私また何か怖い目に合うのかって不安だった」
「俺も寝たら、あの日みたいにいきなり体が落下して、ここにきて、よく意味がわかってないんだ。でもここは相変わらず美味そうな飯があるな」
「え、私がここに来た時、ご飯とか明かりとか何もなかったよ?」
「そうなのか? ここの仕組みもよくわからないなぁ。またあの女の声のやつが何かするつもりなのか・・・」
私たちは考えてもわからず、ただソファーに座っていることしかできなかった。それから少し経った時だった。ガチャンと大きな音が鳴り、扉が開こうとした。
「何?!」
私は怖く、長瀬くんの腕を掴んでいた。
「なんか来るのか?!」
長瀬くんも声が震えていた。
「なんだ、これ引くんじゃなくて、押すのね〜 よいしょっと あら、お茶会かしら? ご飯がいっぱいね〜 ってあら、優一に美咲じゃない。って美咲! 私の優一になに触れてるの!」
「あ、ご、ごめんなさい」
私は急いで長瀬くんから離れた。と、同時に宝条先輩が来たことに少し安心した。
「鳳羽先輩、なんでここにいるんですか? もうめちゃくちゃ怖かったんですけど」
「知らないわよ〜 寝て、気がついたらベッドに寝てて、知らない部屋だったから、扉を開けたのよ。そして今に至るわ」
「わ、私のせいですかね?」
私が助けてと願ったから長瀬くんがきた。宝条先輩と友達になったから先輩まで・・・
「美咲ちゃん、それは違うわよ♪」
女の声がお茶室に鳴り響き、3人は肩が上がりびっくりしていた。
「お久しぶりね、天海美咲ちゃん、長瀬優一くん。そして初めまして、宝条鳳羽さん♪」
「お前! 一体どういうつもりだ?! 先輩までここに呼んで。また何かする気か?!」
「ちゃんと1から説明するからあわてないで。うふふふ♪」
女の声は前と同じだった。悪魔的な魅力を感じる。すごく怖い。
「優一、美咲。これが話してた謎の声の人?」
「そうです。天海を殺そうとしたやつです」
「それは違うわ。死のうとしたのは彼女自身じゃない。まぁ無事に生き延びて、友人もできたようでよかったわね、美咲♪」
「え、あ、はい。ありがとうございます」
「あいつにお礼してどうするんだよ?!」
「優一、熱くなり過ぎ。説明とやらを聞きましょう。ここは彼女のテリトリー。怒鳴っていたってしょうがないわ」
「チッ すいません」
「あっははははは 面白いわね貴方達は。まぁいいわ。私はこの館の持ち主。夢をある程度いじる事ができる。天海美咲という面白そうな人間を見つけて、私の力を試していたの。ところがそれを人間に邪魔されちゃったわ。人間は私にとっておもちゃでしかなかったのに、興味を持ったの。だから定期的にゲストを呼んで楽しい楽しいことをしようと考えたの♪」
「俺たちはお前のおもちゃだと?!」
「そうよ。だから私にとって興味のある人間をここに呼んでゲームをするの。わかったかしら?」
「わからねーよ。それにお前の言うことを聞く筋合いはない」
「優一くん。貴方に拒否権はないのよ? 鳳羽ちゃんも言ってた通り、ここは私のテリトリー。強制参加よ♪」
「も、もともと興味あったのは私でしょ! 私だけにして、長瀬くんと先輩は帰して!」
私は吠えた。私のことで友達に迷惑かけたくない。
「いえ、参加するわ。私たち3人。私たちの力で貴方を負かしてあげるわ」
「先輩?」
私は宝条先輩を見た。先輩は真剣な顔持ちだった。
「美咲。私たちは友達よ。友達を1人置いてくことなんてできないわ」
「はぁ。もうここまできたらやってやるよ」
「うぅぅぅ」
私は嬉しくて泣きそうになってしまった。
「うふふ。じゃあゲームのルールを説明するわね。私が作った夢に貴方達を案内するわ。5日間でゴールである目的地を目指せばいい。ただそれだけよ♪」
「5日間? タイムリミットを配慮してってことか」
「さすが優一くん。経験者ね。貴方達は起きる時間があるわ。その時点でセーブしておくから、翌日寝たらそこから再スタートできるわ」
「ルールはわかったけど、ご褒美ないならモチベが上がらないわ〜」
「あら、鳳羽ちゃん。何かお望み?」
「あんたの姿を直接見て、お話ししたいわね」
「それは確かに」
「私も貴方と会ってみたいです」
「うふふふ。しょうがないわね。いいわ。今回のゲームをクリアしたら、私も正体を現す。これでいいかしら?」
私たちは顔を見合わせて、頷いた。
「よし、やってやるよ」
長瀬くんがそう言うと、私の前に鍵が現れ、浮かんでいた。
「その鍵で扉を開けたら会場に行き、スタートになるわ。楽しませてちょうだいね♪」
私はその鍵を掴んで、扉を開けた。すると宝条先輩が手を握ってくれた。
「こうやって3人手繋いで行くわよ♪」
そう言って宝条先輩のもう片方の手には長瀬くんと手が繋いであった。
「はい!」
私はこの友人とならなんとかなる。心からそう思った。
「行くわよ。せーのっ」
3人はジャンプして手をしっかりと握ったまま。“落下”していった。
「あっははははははははは さぁさぁ今回はどんな面白い夢が見えるかしら♪ 楽しみね♪」
ずっと落下していたが急にスピードが落ち、暗闇に私たちは着地した。すると暗闇が一気に晴れた。
「おおおお」
長瀬くんが感嘆な声を出したのも頷ける。大きい山の下で、とても風景の良い場所だった。
「この山を登れってことみたいね。アイツは言ってなかったけど、他の条件もあるみたいよ」
宝条先輩は山のマップが描いてある石碑を読んでいた。
「他の条件? 登るだけじゃダメなんですか?」
「山頂の岩石に鍵を捧げし時、光の輪が汝を返すだろうって書いてあるわ」
「イマイチよく分からないですね」
「でもとにかく、これを5日間で、タイムリミットも有りだから、急がないとなかなか難しいな」
「山頂に美咲が持ってる鍵を挿すのはわかるけど、光の輪はよくわからないしね〜 まぁ時間もないし、行きますか」
「はい! とにかく鍵無くさないよう持ってます!」
「にしてもなんでここの夢に来ると制服なんだろうな? ローファーで登山は厳しいぜ」
「スカートで登山もね〜 まぁ行くしかないわよ」
そして私たち3人は登山を開始した。道も整備されていて、結構歩きやすい道のりだった。
「ねぇ、ただ歩いてたってつまらないし、歌おうよ〜」
ある程度歩いてから宝条先輩が言った。
「このメンバーで何歌うんすか」
「確かに。美咲ってどんな曲歌うのよ?」
「カラオケとか行かないから、歌うって特に・・・」
「じゃあ普段どんな歌聴くのよ?」
「シャ、シャニーズとか」
「まぁ女子はシャニーズ聴くよな」
「いいじゃない、歌ってみなさいよ、美咲」
人前で歌ったこともない。緊張したけど、私は頑張って歌ってみた。長瀬くんも宝条先輩も聴きながら歩いてた。
「上手いじゃない、美咲!」
「とても心地よかった。もっと歌声聴きたいわ」
「え〜これ以上は・・・」
「じゃあ次は優一」
「俺は下手だからパス。先輩歌えばいいじゃん」
「パス。優一が歌わない限り歌わなーい」
「私は長瀬くんと宝条先輩の歌声聴きたいです!」
「・・・ しゃーない」
道が洞窟に入って、長瀬くんは流行りのバンドの歌を唄いだした。私でも知ってる有名な曲。長瀬くんも上手いじゃん。そう思いながら、聞いていたら、彼は歌うのをやめた。
「なぁ、気付いたの、俺だけ?」
「あたしも気付いてるわ、優一」
「え、え、何かあるんです?」
「先輩。どうします。戻ります?」
「たぶんそれしか無いわね、これ」
「え、え?」
私だけ状態を理解できていなかった。
「走れ!」
優一くんの怒号と同時に、私は宝条先輩に手を取られ、来た道をダッシュで駆け戻った。
「キシャアアアアアアア」
謎の奇声に後ろを振り向くと、コウモリのような動物が集団で追いかけてきていた。
「美咲、後ろなんて向かないで走って!」
「は、はいいいいい」
「こっちだ!」
長瀬くんが洞窟を出た道の大きい石の上にいた。
「ここの下に隠れて!」
私と先輩はそこにめがけて急いで走った。
「早く!」
しかしコウモリらしき動物はもう近くまで迫ってきていた。
もうダメかも。そう思って走っていた時だった。
「優一?!」
先輩の大きな声が聞こえた瞬間、長瀬くんが私たちの目の前に来て、私たちの背中を押してくれた。私たちは洞窟を抜けて石の陰に隠れた。
「キィシャアアアア」
「いったああああああああ。ああああちくしょう。うおおおおおお」
コウモリらしき生物達に長瀬くんは噛まれていた。それでも長瀬くんは体を洞窟から出した。するとコウモリらしき生物は洞窟の中に戻っていった。
「優一!」「長瀬くん!」
私たちは同時に叫んで、長瀬くんに駆け寄った。
「優一大丈夫? 優一?」
長瀬くんは制服も破け、顔からも流血していた。
「長瀬くん! 長瀬くん!」
「んな、大きい声出さなくても聞こえてるよ」
そう言って彼は目を開けて体を起こした。
「まったく、無茶するじゃない」
宝条先輩が本気で心配していた。
「体が動いただけですよ。先輩も天海も怪我はないか?」
「大丈夫よ」
「私も、長瀬くんのおかげで」
「なら、良かった。ったく、でもどうしたもんかな」
「え?」
「あいつらどうにかしないと先に進めないだろ? どうにか考えないと」
「でも長瀬くん、その体じゃ・・・」
「確かに優一の言う通りね。あいつらどうにかしないと怪我人が増えるだけ。時間もないしね」
先輩がそう言うと、先輩の手が消えかかっていた。長瀬くんを見ると腕が。私は足が消えかかっていた。
「多分これがタイムリミットってやつね。とりあえず、ウチで作戦会議よ」
「は、はい! すぐ行きますね」
「りょ、了解」
すると私達はこの山から姿が消えた。
「うふふふふ やっぱりここで止まったわね。明日はどんな動きでここを突破するのか。それとも失敗か。楽しみね♪」
16
5月2日 水曜日
「あら。いらっしゃい。優一ちゃんも鳳羽も昨日の席にいるわい」
宝山に着くと先輩のおばあちゃんが迎えてくれた。
「ありがとうございます!」
私は昨日の個室に急いだ。
「おはよ〜 美咲」「おはよ、天海」
挨拶を返したが、2人とも眠そうにぐったりしていた。
「長瀬くん、体大丈夫?」
「あぁ、朝起きて確認したけど、噛まれた痕も血も出てなかったわ。ただただ眠いだけかな」
「本当よ。あんた達の言ってたことはわかったけど、これじゃ寝た気がしないわね」
「私も眠いです・・・」
みんなやはり同じ夢を見ていたようだ。本当長瀬くんの体に何もなくて良かった。
「カフェオレです」
いきなり奥村さんがカフェオレを持ってきてびっくりした。
「え、私まだ頼んでないですよね?」
「どうせコレだと思いまして。変えましょうか?」
「い、いえ、いただきます・・・」
そう言って奥村さんは下がっていった。
「本当、良い性格してるでしょ?」
「先輩と合わなそうだなって思ってますよ」
確かに。私も宝条先輩と彼女とは合わない気がした。
「あ、あの、聞いてもいいですか?」
「ん? どうしたの美咲」
「長瀬くんも、宝条先輩も、昨日なんで変な動物みたいなやつがいるってわかったんですか?」
「あ〜。俺が歌ってたらさ、洞窟の上の方が光った気がしたんだよ。何ヶ所も。それでやめたらその光も消えて。先輩も見えたんですよね?」
「まぁね。何か襲ってくる感じがしたから逃げたけど、やっぱり襲ってきたわね」
「私、全然気が付きませんでした・・・」
「そう凹まないのよ、美咲。私達はチームだから、助け合っていくのよ」
そう言って宝条先輩は私を抱きしめて頭を撫でてくれた。
「とりあえず、アレを突破したとしても、山頂までアレみたいなトラップがあると見るべきですね」
「そうね。さっさとそっち考えて試験勉強もしないとね〜」
「嫌なタイミングだよ、まったく。天海、勉強道具は?」
「一応持ってきたよ!」
「よし、じゃあとっととくだらないゲームの攻略法考えるか」
「・・・ って言っても何から考えたらいいんですかね?」
「わかんなーい。あたしは昨日が初めてだったんだもん。経験者さん何か考えついて〜」
「考えますけど。先輩も考えてくださいね。天海、あの道の他に行けそうな道あったか?」
「なかったと思う。長瀬くんが立ってた石の上から洞窟の上を通ってって考えてみたけど、厳しそう」
「そっか。俺、あの石に立ってた記憶はあるけど、そこからの記憶が何故か曖昧なんだよな・・・」
「今夜現地着いてから、道を探す?」
「それは最終手段かな。土曜日の夢までにゴールで、タイムリミットもある」
「うーん。ごめん。考えても何も浮かばない・・・」
「うーん。じゃあ、とりあえず勉強しながら、考えるか」
そう言って長瀬くんは勉強を始め、宝条先輩も勉強を始めた。
それからどのくらいの時間が過ぎただろうか。私もテスト範囲の勉強をしつつ、何か方法がないかを考えていた。
「あ。美咲、あの時、後ろ振り返ってたわよね?」
いきなり宝条先輩が大きな声を出した。
「え、はい、先輩に手引っ張ってもらってる時に後ろ向きました」
「優一は噛まれた謎の生物なんだったか覚えてる?」
「わからない。多分見ればわかるんだけど、頭に靄がかかってる感じで思い出せないです」
「私も優一が襲われている姿は見ていたの。だけど何に襲われたのか。思い出そうとすると、優一と同じように記憶に靄がかかって思い出せないの。おそらく、あの声が何か細工したわね。さぁ美咲。あなたは?」
「え、あの、私は覚えてます。先輩に手を引っ張ってもらって後ろを見た時、長瀬くんが襲われてた時。コウモリみたいな生物でした!」
「コウモリ!? 俺コウモリに噛まれてたのか・・・ これからしばらくコウモリ怖いわ」
「そう簡単にコウモリと会わないし、襲われないから安心しなさい。それに対策が考えついたわ」
宝条先輩が勉強時にかけているメガネをクイッとあげて、自信満々の笑みを浮かべた。
「対策ですか?」
「あー、なるほど」
「え、長瀬くんわかったの?」
「 “光”ですね」
「そういうことよ。正確に言えば光の反射。鳥類はだいたいこれに弱いわ」
「じゃあそれを用意すれば、あそこを突破できる!」
「ただ次の問題は、どうやってそれを用意するかよ」
「そ、それは・・・」
「一難去ってまた一難・・・」
私達はまた黙り込んでしまった。しかし私はふと前の夢のことを思い出した。
「多分用意できます!」
「できるの? どうやって?」
「あの、私が前の夢でシロと遊んでた時、ポケットからボールとかご飯とか用意できたんです! だから夢で、欲しいと思ったら用意できると思うんです!」
「さっすが美咲! これでもう決定ね♪」
「それに多分用意するのはライトだけでいいと思う」
長瀬くんがこめかみを人差し指で押しながら答えた。
「コウモリでもライトだけじゃダメなのよ? わかってるでしょ、優一」
「俺、確かに噛まれたんです。けどそうじゃない。血を吸われた気がするんです。その感覚がした。それに何故かあいつらは洞窟から出ることができない・・・」
「優一の言葉を信じるなら、確かに普通のコウモリではなさそうね」
「ドラキュラのコウモリってことですか?」
「なんで洞窟から出れないかはわからないけど、光には弱いことは間違いないと思うんだ」
「それを信じましょう。美咲の夢での道具の呼び方も信じてるし、今夜はこれで勝負するしかないわね」
「はい! みんなで頑張りましょう!」
そう言って私は、机の中央に手を出した。すると2人は笑って頷き、手を重ねてくれた。
「おう!」
私はどんどん感じ始めていた。団結力というか、仲間、友達の絆というものを。孤独じゃないということを。
17
寝て気がつくと洞窟の前に私はいた。程なくして長瀬くんと先輩も現れた。
「本当にセーブされてるのね〜」
宝条先輩は気楽な声だった。私はまだ恐怖心があるのに。この先輩はやっぱりすごい。
「まぁここからできるならちょうど良いじゃん。天海、どうやって呼び出すのか教えてくれ」
「え、うん」
私はそういうとライトが3つ欲しいと願って制服の右ポケットに手を入れた。すると確かに感覚があり、ポケットから3つのライトを私は取り出して見せた。
「おー〜! マジじゃん!」
「本当に出てくるのね」
2人は驚きながらもライトを点けたり消したりしていた。
「ありがとう、天海。これで進めるよ」
「チームワークができてきたわね♪」
「はい!」
私は嬉しかった。役に立てたこと、この3人でいる心地良さ。私は孤独じゃない。
「とりあえず上の方にライト当てて、それでもコウモリが近づいてきたら、そいつにライト当てる。それでも効かなかったらダッシュでここまで戻る。オッケー?」
「オッケーよ」「了解です」
「よし、行くぞ」
そう言って長瀬くんが前、左後ろに宝条先輩、右後ろに私の体制でライトを当てながら洞窟に侵入した。
「やっぱりライト当ててると襲ってこないな」
「簡単に昨日の場所超えられちゃいましたね」
「後ろから来るかもだから、あたしは後ろ照らすわ」
「了解です」
私たちの足音と声が響くこの洞窟。気味が悪いコウモリ。あの声はなんでこんな夢を・・・ そう考えていた時だった。
「光だな」
長瀬くんの言う通り、進行方向に光が見えた。
「あそこに行けばこの洞窟抜けられるね!」
「どれどれ。あら、本当ね。あと少しね」
宝条先輩がこっちを向いてそう言った。その瞬間だった。
「キッシャアアアア」
宝条先輩が後ろ向いてライトを当てていたが、こっちを向いたため、ライトが当たっていなかった。そのためコウモリたちが襲ってきたのである。
「先輩がこっち向くから! とにかく走れ!」
「そう言われたってしょうがないじゃない!」
「とにかく光の方に行きましょう!」
私がそう言った後、長瀬くんは止まった。
「優一!?」
「俺がなんとかするから天海と先に洞窟抜けてください!」
「長瀬くん、私も!」
「いいから、美咲はこっち。優一任せたわよ!」
私は先輩に引かれて出口を目指した。途中コウモリが数匹襲ってきたがライトを当てるだけでそのコウモリは消滅し、私達は洞窟を無事に抜けた。
「はぁはぁ。なんとか抜けられたわね・・・」
「はい。な、長瀬くんは大丈夫でしょうか」
「優一ならきっと大丈夫よ。あいつならすぐ来るわ」
宝条先輩はそう言って石の上に座った。
「さーて。カッコつけちゃった手前お前ら相手にするが。昨日やられた借りは返すぞ。長瀬の名にかけてな」
「キシャアアアアアア」
襲ってくるコウモリに対して俺はライトを当てた。するとコウモリは消滅した。
「止まってる間は、抑止で、攻撃中に食らうと消えるわけか」
「クシャアアアアア」
それでもたくさんのコウモリに対してこの手持ちライトじゃ倒せる気がしない。走って出口に向かうか。いやそれじゃ逃げた昨日と同じだ。あの声に笑われるような馬鹿な真似はできない。長瀬は完璧を持って良しとする。だから!
「こいつでもくらえよ!」
俺は右ポケットから全方向にライトがついている箱を取り出した。それをこっちに向かってくるコウモリに対して投げつけた。その瞬間俺は出口に向かってダッシュした。ライトに照らされたコウモリは消滅したが、ライトに当たらないコウモリはまだ残っていた。その箱が地面に着いた瞬間だった。
「ドガアアアアアアアアン」
爆音が洞窟内に響いた。後ろから来る爆風に背中を押され、俺は洞窟から脱出した。
先輩と2人で長瀬くんを待っていたその時だった。凄まじい爆発音が洞窟内から響き、爆風に乗って長瀬くんが洞窟から出てきた。
「優一!?」「長瀬くん!」
私達は長瀬くんの元へ駆けつけた。
「長瀬くん大丈夫?」
「おう、転けただけで、大丈夫だよ」
「まったく。何してきたのよ。普通に任せて大丈夫と思ってたのに」
「ははは。昨日やられたのを、やり返したかっただけですよ」
「それでなんでこんな爆音がしたのよ?」
「天海から聞いた通りやってみたんですよ。全方向にライトがついていて、投げて地面に着いたら爆発する爆弾を出せって願ったら、それが右ポケットから出てきた。いやぁ、驚いたね」
「本当無事でよかったよぉ〜」
私は長瀬くんの腕を掴んだ。
「まぁ優一が珍しく漢を見せたってところね。よしよし、頑張った」
宝条先輩は長瀬くんの頭を撫で、彼の顔は少し赤らんでいた。
「まぁそれより早く進みましょ。時間もないし」
そう言って長瀬くんが立ち上がり、私達は再び整備されている道を歩き出した。それからいつも通り3人で会話をしながら山を登っていった。私は人と話すってこんなに楽しいんだなって感じ始めていた。すると8合目と書いてある看板と小屋が見えてきた。
「ここはもう8合目なのね」
「なんか小屋もありますし、少し覗いてみますか?」
「そうね」
宝条先輩はそう言うと小屋のドアを開けた。そこは使われていない山小屋のようだった。
「蜘蛛の巣張ったりしてるな」
「なんか怖いし、ここから出ませんか?」
「いや、ここの扉だけ鉄なの気にならない?」
「気にはなりますけど、ゴールはてっぺんまで行くことなんですから」
「ここの中がショートカットになるかもしれないじゃない」
「あ、でも、その、またコウモリとかいるかも・・・」
「そうなりゃ倒せばいいのよ♪」
「天海。鳳羽先輩はこう言う性格だから・・・」
長瀬くんは私の肩に手を置くと首を横に振った。
「ほら行くわよ」
宝条先輩は臆することなく鉄の扉を開けた。すると奥に通路と部屋が続いてるようだった。
「なんかゾンビゲームのシチュエーションみたいですね」
「美咲、そんなゲームやるのね?」
「意外だわ」
2人とも即座にツッコミを入れてきた。
「引きこもってた時にゲームしたり、実況動画見ていたんです」
私は笑いながら答え、ライトで周りを照らした。
「早速左右に分かれる道よ。優一どうする?」
「先輩と天海が左。俺が右。なんもなかったらここに集合。何かあったら片方が呼びにきて」
「長瀬くんに何かあった時は?」
「爆音鳴らすから来てくれ」
「オッケー じゃあ行くわよ、美咲。優一も気をつけて」
私と長瀬くんは手を振ってそのまま分かれた。
「なんかロッカーみたいね」
「ゲームではここら辺でゾンビが出たり、詳しく調べたりしているとアイテムが見つかりますが」
私がそこまで言うと宝条先輩はロッカーをくまなく調べていた。
「何にもなかったわよ」
「あくまでもゲームの例ですから・・・」
「まぁいいわ。進みましょう」
私たちがロッカーを出て廊下を少し進むと非常口が光っていた。
「なんで光ってるんですかね?」
私が先輩に尋ねている間に先輩は非常口のドアを開けていた。
「見てみなさい、美咲」
私はそう言われてのぞいてみた。そこにはトロッコみたいなものがあった。
「これに乗ったらどうなるんですかね?」
「見た感じ下り道になってそうだから、ゲームスタートの場所に戻れるんじゃない?」
「そしたら時間まで間に合わないじゃないですか!」
「こっちは空振りか〜 優一の方探しましょ」
「はい! 長瀬くん何にもないといいけど・・」
「優一なら大丈夫よ。何かあったらあたしが助けるから」
そう言ってウインクをしてきた。宝条先輩と長瀬くんの関係性って本当に特別なんだなぁ・・・
「誰かいますか〜」
ライトをつけながら廊下を俺は歩いていた。廊下の一番奥までつくと右側に広い部屋が見えた。
「なにこれ。めちゃくちゃ怖いんだけど。無理無理」
そう言いつつ、俺はあるものを念じて右ポケットを確認した。
「まぁこれがあれば平気だろ、うん」
そう言ってライトと拳銃を備えて部屋に入っていった。
ここは手術室だったのだろうか。あたりに医療器具が散らばっている。血も大量に出た跡がある。マジで怖い。
「ウウウウウ」
謎の声が部屋に響いた。俺は拳銃を前に出し、周辺を見渡した。すると奥の手術台から、ゾンビがこちらに向かってゆっくり歩いてきた。
「マジでゾンビいるのかよ!」
俺は頭部めがけて銃を撃った。“バン”と凄まじい音と衝撃だった。ゾンビの頭部に2発命中したようで、床に倒れていた。
「ふう。倒せると気持ちいいけど、怖いな。とっととあいつらと合流するか」
そう言って戻ろうとした時だった。
「お前はなぜこんなところで遊んでいる」
びっくりして思わず振り返った。そこにいたのはゾンビでもなんでもない。俺の父親・長瀬美紀夫だった。
「親父? なんでこんなところに?」
「うるさい!」
俺は親父に首を掴まれて入り口側に投げられた。
「痛てええ」
「こんなもんまで持ち出して。お前は本当に長瀬の恥さらしだ!」
そう言うとさっき俺が使っていた拳銃を俺に向けていた。
「いい機会だ。邪魔な奴には死んでもらおう。俺に恥をかかせる、俺の言うことを聞かない、長瀬にふさわしくないお前を! 今ここで」
親父は真剣な表情だった。昔怒ってきた時と同じ様に、真剣な顔で俺は、いや、俺たちはひたすら殴られていた。それが今は、撃たれるに変わる。結局いつも通りに。俺は覚悟して目を閉じた・・・
“バン”
凄まじい音がした。あぁ俺、死んだのか・・・
「ったく、優一! なにやってんの!」
「長瀬くん、こっち!」
何が何だか分からなかった。俺は天海に連れられてさっきの山小屋に戻った。
「長瀬くん、大丈夫だった?」
「え? ごめん。よく分からなくて・・・」
すると銀の拳銃を持った鳳羽先輩が山小屋に戻ってきた。
「銃声がしたからすぐに駆けつけたけど、なに、アンタ死ぬ気だったの?」
「・・・ わからない」
俺はそう言うと、手が消えかかっていた。
「今日はここまでみたいですね」
「そうね。ゴールもだいたい見えてきたし、明日も頑張りましょ、美咲♪」
「はい! でも長瀬くんもですよ!」
そう言うと彼はもう消えていた。
「あの、先輩・・・」
「明日、最初少し嫌な感じになると思うけど許して」
「え、あ、はい・・・」
そして私も先輩も消えていった。
「うふふふふふふふふふふ あははははははははははは やっぱり! 彼はそういうことなのね♪ 楽しみだわ楽しみだわ〜 早く壊れるのが♪」
18
5月3日 木曜日
私たちは今日もカフェ宝山に集合していた。だけどいつもと違う雰囲気がしている。長瀬くんと宝条先輩の空気感がすごく悪い。それは昨日の夢が原因であることは間違いないけれど、長瀬くんは先輩を見ずに勉強をし、先輩は長瀬くんをひたすら睨んでいた。私はもう耐えきれなかった。
「あ、あの、仲直りしましょうよ。宝条先輩も長瀬くんも友達じゃないですか!」
「美咲は黙ってなさい」
先輩にそう言われ、私は黙るしかなかった。
「なんで逃げようとしたり、戦おうとしたりしなかったのよ」
先輩は長瀬くんに厳しい口調で問い詰めた。しかし長瀬くんは反応せず、勉強を続けていた。
「なんで何にもしなかったのかって聞いてるのよ!」
先輩は長瀬くんの胸倉を掴んで怒鳴りつけていた。
「別にどうでもいいでしょ」
長瀬くんはボソッと呟いた。
「なんですって?」
「別にあの夢で何されようが現実世界では何もない。それは昨日のコウモリでわかってるじゃないですか。仮に昨日ゾンビが持った銃に撃たれようが現実世界の俺には何にもダメージはない。別にいいじゃないですか」
長瀬くんはヤケになっているようだった。
「アレは噛まれたからで、撃たれた死んだ場合は同じとは言えないわよね?」
「まぁそうですけど」
「あたしは! アンタに何かあったら困るの!」
先輩の目は真剣で長瀬くんを見つめていた。
「私も! 長瀬くんに何かあったら嫌です! それにこうやって長瀬くんと宝条先輩が喧嘩するのはもっと嫌です!」
私がそう叫ぶと2人は黙ってしまった。それから何分経ったのかわからない。嫌な空気がこの空間に流れていた。
「あのさ。聞いてもいいですか、先輩」
「何よ」
「先輩は銃で撃って俺を助けてくれました。でもなんで撃てたんですか?」
「なんでって、優一がゾンビに殺られそうだったから、そのゾンビを撃っただけじゃない。ねぇ、美咲?」
先輩からの問いに私は何度も頷いた。
「ゾンビ?」
長瀬くんはわかっていないようだった。
「優一覚えてないの? アンタ、ゾンビに銃で撃たれそうになってたのよ?」
「いや、違う! 俺は確かに覚えてます。広い部屋に入って、銃を呼び出して、ゾンビを殺しました。そした後ろから親父が現れて、吹っ飛ばされて、銃を奪われて。それで。それで・・・」
すると彼は全身が震えだし、過呼吸ぽくなっていた。
「はぁ。そういうことだったのね」
先輩は深いため息をついて長瀬くんの隣に移動した。
「それは怖かったわよね。ごめん、優一。一方的に怒って」
そう言って先輩は長瀬くんを抱きしめて頭を撫でていた。長瀬くんは肩を震わせていて、顔は見えないけど泣いているようだった。
「え、あのどういうことなんですか?」
「んーとね。美咲とあたしから見たら、アレはただのゾンビにしか見えなかった。けど、多分あの声の仕業ね。優一にはアレが父親に見えていたのよ」
「長瀬くんのお父さんってあの官僚の?」
「そう。優一は自慢の父親って感じに周りに見せてるけど、実際は違う。幼い頃から長瀬の恥と思われることをすると怒鳴られるし殴られるしで、恐怖の対象なのよ」
「え・・・」
そう言えば前に先輩の過去話を聞いたとき、長瀬くんのお姉ちゃんも体罰を受けていたって。長瀬くんもだったんだ。お父さんが怖い。私にはわからない感覚だけど、辛くて、でもそれを押し殺して生きてるんだろう。私はそう思った。
「ったく、何勝手に話してるんですか」
長瀬くんは先輩から離れて、鼻をすすっていたが、目が赤かった。やっぱり泣いていたんだろう。
「いいじゃない。美咲も、もうこの聖域のメンバーなんだから♪」
「まぁ、そうですけど」
「その、前から気になっていたんですけど、聖域ってなんなんですか?」
「あー、元々は優香先輩が名付けたの。宮城先生のパクリでね」
「宮城先生って保健室で色々改造してるっていう?」
「天海がなんでそのこと知ってるのって、先輩がもう話したのか。あの人は自分が自分らしくいれる場所を聖域って呼んでた。んで姉貴もそれを作ったんだよ。姉貴、鳳羽先輩、俺が自分らしくいれる場所が、去年までの聖域だった。会室とか、ココとかね」
「卒業しちゃってからは私たち2人だったの。そこに美咲が仲間入りした。おめでと、美咲♪」
「あ、ありがとうございます!!」
自分らしくいれる場所。私にもそれがある。
「あともう1つ言っておくと、私と優一、よく喧嘩したりするから、よろしくね♪」
「え、え、何がよろしくなんですか? それにどうしてそんなに仲良しなのに喧嘩するんですか?」
「仲良しだから喧嘩できるかな。先輩とは隠し事とかもないし、お互い性格とかもわかっているからこそ、衝突したりする。喧嘩するほど仲が良いってやつだよ」
「去年までは優香先輩が面白いとか言って観察してて、つまらなくなったら止めてくれてて。私たちの喧嘩止める係、頑張れ美咲♪」
「は、はい。わかりました?」
正直あまりわからなかったけど、友達だからこそ喧嘩をする。そういうことなんだって理解はできた。私は友達は喧嘩しないと思っていたから、とても新鮮に感じていた。それからは勉強しつつ、雑談しつつのいつもの時間で、私の中で日常化され始めていた。
「あ、そうだ。2人に聞きたいことがあったのよ」
「なんですか?」
「美咲は多分わからないかもだけど、あたしたちって明晰夢を見てる?」
「明晰夢ってなんですか?」
私は初めて聞く言葉だった。
「俺たちが寝てる時に見ている夢を、自分で夢と自覚して見ている夢のことでしたっけ」
「そう。私たちは夢を夢と認識しているじゃない? 明晰夢を見ているとね、他にも夢の状況を自分の思い通りに変化させられるってのがあるのよ」
「私たちが見ている夢を変えられるってことですか?」
「そう。だけど昨日そっこり試して見たんだけど、変わらなかった。多分あの声のやつが制限をかけていると思うの。けどできることはあった」
「あ! ライトや爆弾、銃を呼び出せた!」
「そう。だから夢のステージは変えられなくても、私たちが道具を自由に呼び出せる。といううことは他にも何かできることがあると思うのよ」
「確かにそうですね!」
先輩は本当に頭がいい。かっこいいと何度も思ってしまう。
「まぁこれに関しては今夜の夢までに何かできるか各自で考えておきましょ」
「はい! わかりました!」
「美咲は本当に可愛いわね〜♪」
そう言って今度は私の頭を撫でてきた。先輩に撫でてもらえるのが嬉しくなってきているなって最近思うようになってきた。
「あ! そうだよ。明晰夢! あいつ言ってたわ。私に関わると明晰夢を見るようになるって!」
「もっと早く思い出しなさいよね〜! でもこれで確証が持てた」
先輩は立ち上がり、真ん中に手を差し出した。
「この調子で一気にあいつの正体暴くわよ!」
その言葉に私たちは手を重ね、
「おう」「おー!」
と、叫んだ。
19
気がつくと私たちは、昨日の山小屋にいた。
「さぁ、行くわよ」
「はい!」「おう」
私たちは山小屋を出た瞬間、そこは昨日見た道のりと違っていた。
「なんで・・・ どういうこと・・・」
「あの声がいじったんでしょうね」
「にしても昨日まで普通の登山道だったのが、こんな墓場みたいになるなんてな」
長瀬くんの言う通りだ。普通の登山道が何故か道が広くなり、お墓が何個もある。暗い霧も出ていて、死人でも蘇りそうだった。
「一応これ持っておきますか」
彼はそう言うと拳銃を取り出した。
「た、確かに。またゾンビ出そうですもんね」
私も拳銃を願い、右ポケットから取り出した。
「優一、美咲。約束して欲しいんだけどいいかしら」
宝条先輩は拳銃を取り出しつつ、私たちを見た。
「優一の昨日みたいに、私たちにとってのトラウマがゾンビとして出てくる可能性がある。そうしたらすぐに助けてって言うこと。もちろん私も言うわ。他人からならただのゾンビにしか見えないはずだから」
「わかりました。その時はお願いします」
「わ、私も気をつけます」
そして私たちは進み始めた。霧があるし、風の音がより怖さを増幅させてくる。私が震えていたのがわかったのか、先輩は片方の手を握ってくれた。
「もう半分くらいは来ましたかね? 霧で良く見えないですけど」
「どうかしらね。まぁでも進みましょ」
「でも何か出そうで何にも出てこないですね」
「天海は何か出て欲しいの?」
「いや、そう言うわけじゃない・・けど・・・」
その時、私は長瀬くんの後ろ側に光る何かを見た。
「何かいる!」
私がそう叫ぶと宝条先輩はすぐに引き金を引いた。見事にゾンビに命中した。
「俺に当たるかと思ったよ・・・?」
「ごめんごめん、優一♪ でも、どうやら、こっから先はヤるしかないみたいよ?」
先輩の目線を追うと、たくさんのゾンビがいた。
「えええ、さすがに多くないですか?」
「まぁやるしかないわ」
「2人は下がってて」
長瀬くんはいきなりそう言うと私たちの前に出た。
「昨日迷惑かけちゃいましたから。ここは俺1人に」
「でもこの人数を1人って・・・」
「今日話したでしょ。明晰夢。別にこいつらヤるのは拳銃じゃなくていい」
彼はそう言うと、大きい銃を取り出した。
「ブレザー服と機関銃。なんちゃって。夢って便利だからな、無限に打ち込んでやるぜ! オラオラオラオラ!」
凄まじい銃撃音が響きつつ、ゾンビたちは1体1体と倒れていき、全て消えていった。
「やるじゃない、優一!」
「長瀬くんすごい!」
「じゃ、先進もうぜ!」
私たちはそのまま進み、途中出てきたゾンビは私と宝条先輩で倒していった。
「あれ。行き止まり?」
私たちは道なりに進んでいたはずなのに、行き止まりに当たってしまった。
「この壁壊せば行けるんじゃない? 優一、ぶち壊してみなさいよ」
「そんなゴリ押しでいいんですか?」
その会話を私は聞きつつ、壁を触ってみた。すると壁はすり抜け、いつか見た、草原になっていた。
「え。え。ここって・・・」
「・・・ 私を1人にするの?」
「え?!」
目の前にいきなり白い犬が現れた。それは私がよく知っている、私が大好きな・・・
「シロ?」
「また一緒にいようよ、美咲。1人にしないで」
そう言いながらシロはこっちに歩いてきた。シロがいる。シロが私を求めてる。私は座り込んだ。こうすればシロがここに飛び込んできてくれる。また一緒にいれる・・・
「美咲!」
シロがこっちに走り出した瞬間、私は顔に衝撃を受け、そして銃声を聞いた。
「美咲! しっかりしなさい! 美咲!」
「もう、ゾンビはいないみたいです、先輩」
少し前にいた長瀬くんはこっちに戻ってきた。
「あ、あの私、えっとその、し、シロが。そ、それで」
「あいつ、やりやがったか」
「もう大丈夫よ。幻を見せられただけ。立てる?」
「は、はい」
私は宝条先輩に支えられつつ立ち上がった。
「シロのこと、まだ受け入れられない、不安定だと思うけど、それは悪いことじゃない。まだこれからだ。俺たちがいる。安心しろ」
「う、うん」
そうだ。シロと生きるために私は生きるんだ。友達もいる。1人じゃない。
「まぁこれでゾンビワールドは突破したみたいね」
先輩と声を聞いて、周りを見てみると、確かに霧や墓は消えていた。
「でもこんな険しい道登るのかよ」
今までの道のりと違って、本格的で、山の頂上へ行くための険しい崖のような道だった。
「あれ。時間?」
長瀬くんがそう言うと手が消えていた。
「おかしいわね。いつもより短いけど」
その言葉を聞いて私たち3人は消滅した。
20
5月4日 金曜日
気がつくとゾンビの場所を突破したところにいた。
「さぁ会議した通りやっていくわよ」
私たちは今日も宝山で会議をした。この道の登る方法。あとテスト勉強。
「じゃ、3人同時にいきましょ。レッツ変身♪」
その声に合わせて私たちはイメージした姿に変身した。そう、登山服である。私はピンク色、長瀬くんは青、宝条先輩は黒の登山服に、制服からチェンジした。
「これなら歩きやすいし、寒くもない。もう一気に駆け抜けましょう!」
先輩の合図で私たちが歩き始めた。昨日までの道と違って険しい道のり。喋ることも一切なく、私たちはただただ歩き続けた。すると案外あっさり私たちは頂上に到達した。
「はぁはぁ。疲れたわ。さすがに」
「ここは襲ってくることはなかったですね。はぁ」
「でも、時間制限余裕持ってゴールできましたね! はぁはぁ」
「美咲、鍵あるわね? このいかにも鍵を挿せって岩があるから、よろしく」
「は、はい!」
私は言われた通り鍵を差し込んだ。しかし何も起こらなかった。
「何も起きませんね?」
「えーどうしてよ〜」
先輩は岩を調べているけど、何も起こらない。
「天海! 先輩! アレ見て!」
長瀬くんは山の下の方を見ていた。
「な、何よアレ」
スタート地点に青いリングが浮かび上がっていた。そしてそのリングは徐々に小さくなっていた。
「光の輪ってアレのこと?! アレが消えるまでにスタート地点に戻れってことなの!?」
「マジですか。せっかく登ったのに・・・」
「4日かけて登ったのに数分で戻るって・・・」
もはや絶望でしかなかった。あの声の人は私たちをクリアさせる気なんてなかったのではないか。どうしたらいいんだろう。
「こんなところで諦めてたまるもんですか。絶対クリアするわ」
「でもどうやってあそこまで行くんですか?」
「方法がないっすよ、先輩」
「いや、方法あるわよ。美咲、あのゾンビ小屋のトロッコよ。アレでスタート地点に行くわ」
「あ、確かに、トロッコありました!」
「そこまではこれで行くわよ」
すると先輩の足にはスノーボードが付いていた。
「雪は無くてもこれで山下り。小屋まで行けば一気にスタート地点いける!」
「よっしゃ!」
長瀬くんも私もボードをセットして下り始めた。
「山下りしてる分には楽しいわね〜」
そう言いながらジャンプまでしている。
「遊んでないで、急ぎますよ!」
もうリングは最初から半分くらいまで小さくなっていた。
「着いた! 付いて来なさい!」
先輩は着くとすぐにボードを消し、小屋に入ってトロッコの場所まで走り、私たちも急いで付いていった。
「こっちにこんな場所あったのか」
「そうよ。私と、美咲が入るから、優一押して、それから乗りなさい」
そのまま私と先輩はトロッコに乗り込み、長瀬くんは押しながら、トロッコに駆け乗った。
「スタート地点に戻れって願いなさい!」
「戻れええええええええ」
「戻ってええ」
周りは真っ暗だけど凄いスピードで下っているのは実感していた。すると視界が一気に開け、トロッコはリングに突撃した。
「間に合った?!」
宝条先輩の声に合わせ、長瀬くんは一目散にトロッコから出て、リングを確認した。
「間に合った!」
「やったぁ!」「イエーイ!」
そう言って私は先輩とハイタッチした。本当間に合ってよかった。
「ゴール♪ おめでとう! さぁ、戻ってらっしゃい♪」
私たちの周りが急に暗くなり、いつものように“落下”し、お茶室に戻った。
「な、なんかゴールしてからすごい怒涛だったわね?」
「間に合ったの確認して、すぐここに戻されましたからね。達成感とかがないっすね」
「でも、ゴールして、ここに戻って来れてよかったです!」
私たちは椅子に座って、テーブルにあるジュースを飲み始めた。
「本当によく帰って来れたわね。あんなやり方でゴールするとは思わなかったわ♪」
謎の声が私たちを迎えた。
「逆にどうクリアするのが正解だったのかしら?」
「ふふふ♪ クリアできないように色々弄ったり、無理難題にしたつもりだったのよ♪ だからクリア方法なんてなかったの。正直びっくりしてるわ」
「お前を一泡吹かせることができて少しは満足だ。さぁ姿を見せてもらおうか」
そうだ、そういう約束だった。私たちを弄っているこの声の主の姿を見せる。それが先輩が取り付けた約束だった。
「うふふふふ そういう約束だったわね。じゃあ扉にご注目♪」
私たちは一斉に扉に注目した。どこからかスポットライトが出てきて扉を照らしていた。すると扉がひとりでに開き、謎の声の主が姿を現した。
「え・・・」「マジか・・・」「へぇ〜」
「改めまして。初めまして皆様。この館の主にして、夢の神。パージでございます。 うふふふ♪」
そのパージと名乗った人、いや、人じゃない。羊のような、象のような、寅のような。背中に弓を持っていた。とにかく適当な言い回しが見つからない。言えることは1つ、人間じゃなかった。
「あなた達が望んだ私の姿よ? 何かご不満?」
「人間じゃなかったのか、お前」
「当たり前じゃない。たかが人間ごときにこんなことできるわけないじゃない。私は神。夢の神よ」
「夢の神なんて聞いたことないわよ」
「鳳羽ちゃん。世の中に知れ渡っていることが全てじゃないのよ♪」
「あなたが神様だとして、なんでひどい夢を見せたりするんですか?」
「前にも言ったでしょ? 人間は私にとっておもちゃ。そして私が人間が嫌いだから。人間が見る夢を覗いて悪戯するのが好きだから。それに人間が夢を見て、感じるものが私の養分なの。ただただそれだけよ♪」
「随分勝手な神様ね」
「うふふふふふ 今回は負けちゃったけど、次は絶対クリアできない夢、用意してあげるから楽しみにしててね♪」
「もう二度どごめんだよ」
「そう言われても私が逃さないわ♪ 明日からもココは開放しておくから、自由に使って。見たい夢を願えば、その夢が見れる鍵が現われるから。そのまま自由にその夢を楽しみなさい♪」
そう言うとパージと名乗る神は姿を消した。
「なんかあまりにも意外だったわね」
「なんかもう頭が追いつかないわ」
「私も、なんかもうわからないです。疲れました」
すると私の手が消えかけていた。そのまま私たちの夢はそこでおわった。
21
5月5日 土曜日
気がつくといつものお茶室にいた。今日もお昼からカフェ宝山で雑談しつつ、勉強していた。ふと思う。テスト勉強がなくなったら宝山に行かなくなるのかな。どうなんだろう。
「痛っっっったい!」
今日も今日とて長瀬くんはソファーに降ってきた。そのままソファーに横になって彼は動かない。
「痛っっっっっっった!」
そんな彼のお腹の上に宝条先輩が落下してきた。
「あら、優一、大丈夫?」
「心配するならどいてください・・・」
「なんか今になって思うけど。昼間も会って、夢でも会ってるって1日のほとんど一緒にいるわね、私たち」
「確かにそうですね。私は嬉しいですけど、迷惑ですかね・・?」
「いや、俺は楽しいから全然」
「あたしもよ。美咲と出会えてよかったわ♪」
「長瀬くん、宝条先輩・・・」
私は泣きそうになった。
「あ、もうそれ余所余所しいから、鳳羽先輩でいいわよ」
「あ、俺も別に優一でもいいよ」
「それはダメ。あたしが許さない」
「え、えっと、鳳羽先輩、ゆ、優一くん?」
「ん。それならいいわ」
「これからもよろしくな、美咲」
「う、うん!」
「さぁ、今日はどうする? パージが言ってたみたいに夢でも見に行く?」
「いや、ここで勉強する」
彼はそう言うと机に勉強道具を用意した。
「あんたここでもやるのね・・・ まぁ付き合うわ」
「わ、私も!」
私たちは昼間は宝山で勉強し、夜は夢のお茶室で勉強。なんかおかしく思えたけど、すごく楽しかった。
彼女達が去った後、その場に館の主が姿を現した。
「夢を見ず、勉強なんてバカじゃないの。つまらない」
そう言いながら彼女は黒い騎士の壁画の前に進んだ。
「天海美咲。彼女が壊れるのはもうつまらない。長瀬優一はいつか壊れる。それは私の最高の楽しみ。そして宝条鳳羽。なんとなく、面白くなると思って呼んだら予想外の人間だった。彼女は夢に慣れるのが早い。あぁいうタイプは危険だ」
そう言って彼女は黒い騎士を睨んだ。
「ゲストを増やしましょう。全ては私の幸せのために」
22
5月7日 月曜日
GWも終わって、今日から学校が再開する。少しのワクワク感があるのは、優一くんと鳳羽先輩がいるからだろう。けれどやはり不安は大きい。クラスに馴染めるのか。髪型も笑われたりしないか。うん。やっぱり怖い。そう思いながらも、足は学校に向かっていた。
「おはよ、美咲♪」
「おはよ!」
いきなり話しかけられて肩がビクッと上がってしまった。
「なーにびっくりしてるのよ?」
「鳳羽先輩! 優一くん! おはようございます!」
「ん、おはよ」
ラジオを聴きながら、ずっと下向いて考え事していたからか、2人がいたことに全く気づいてなかった。
「え、あの、どうしてここに?」
「ここにって、ここ通学路だし」
「あ、そ、そうですよね」
「それに俺と先輩は去年から一緒に登校してるしな」
「そうだったんだ!?」
「まぁ美咲も聖域メンバーになったし、誘いましょうって提案したの。それでここ通るはずだって優一が言うから、待ってたら美咲が来たってことよ」
「うぅぅぅ、先輩、優一くん」
私は朝からもう泣きそうになってしまった。この2人は本当に良い人だって心から思えた。そのまま私は2人と一緒に登校した。2人といるといろんな人から挨拶されたり、周りから少し変な目で見られたりしていた。
「俺たち校内委員長と前委員長だから、全校生徒に名前と顔を知られてるんだよ。だから挨拶はいつもこう。そこに今日は客人がいるようなもんだからみんな変な目で見てくるけど、まぁこれが日常になれば慣れるよ」
「優一も最初はあたしと優香先輩に囲まれて、今の美咲みたいだったのよ」
2人とも懐かしそうに笑っていた。そうか。私にとって非日常でも、それが続けばもう日常に変わるんだ。
「今日ウチ来る? テスト前で委員会禁止でしょ?」
「じゃあ行くか〜」
「今日もお邪魔します!」
「オッケー じゃあまた放課後ね」
そう言って先輩は3年生の下駄箱の方へ向かった。
「クラス中、驚くと思うけど、大丈夫だから。安心しろな」
優一くんはクラスへ向かう途中そう言ってくれた。きっと、大丈夫。きっと。
「おはよ〜」
「おう、優一、はよ〜・・・」
「優一、おは〜・・・」
「長瀬くんおはよ〜・・・」
みんな優一くんに挨拶してから、私の姿を見て固まっているようだった。そのまま私たちは席に着いた。
「あ、あ、あ、天海さん!?」
一目散に片瀬さんが駆け寄ってきた。
「お、おはようございます」
「おはよう! ショートすごい似合ってるね!」
「そ、そうかな」
私は恥ずかしくて声が小さくなってしまった。そして片瀬さんの声を聞いてクラス中が私の方に寄ってきて、私はどうしていいかあわあわしてしまった。
「あのさ。ちょっと聞いてくれ」
すると、優一くんが声を出して注目をそらしてくれた。
「美咲はさ、今までほとんど転校続きで、あまり友達付き合いとかそういうのわからないんだ。だから今まで、冷たいと感じてた奴もいると思う。だけど慣れてないだけで本当はすごく良い奴だから、みんなも仲良くしてあげてほしい。どうか、頼む!」
彼はそう言うと顔の前で両手を合わせた。
「そんなん全然オーケーだし、クラスメイトなんだから当たり前よ!」
「こちらこそよろしくね、天海さん!」
尾木くんや松本さんをはじめとして、みんなが次々に言ってくれた。それから休み時間の度にいろんなクラスメイトと会話した。こんなの初めてだし、何より話すということが楽しかった。
クラスに美咲の事情を軽く説明したものの、休み時間の度にあんなに美咲の周りに集まるなんて、ウチのクラスの善人度は高いと思い知らされる。
「なぁ、優一。お前なんで天海と仲良くなってて、しかも美咲って名前呼びなんだ? お前もしかして・・・」
いつも通り佐藤は颯爽と絡んできた。男友達と話すのって久々だな。
「宝山で委員会の仕事してたらさ、あいつが客として来たんだよ。それで鳳羽先輩の目に止まってあーなって、俺もいろいろ巻き込まれたって感じ」
「あー、結局鳳羽先輩絡みか〜 お前は周りに美人が多くて羨ましいぜ」
「恋愛する気は無いけどな。ほら、移動教室行こうぜ」
美咲も女子たちと移動してる。もう大丈夫だろう。本当よかった。
「それで1日中話したりしてたら、疲れて今ダウンしてると」
「ウチのクラスの善人度の高さと、美咲の可愛さが引き起こした悲劇ですね」
放課後、宝山でグダリきっている私を見ながら、2人はコーヒーを飲んでいた。
「なんか、今までの何十倍も話した気がして、すごく疲れました」
「まぁそのうち慣れるわよ」
「あ、打ち合わせ通りに佐藤とかには言っておいたから、2人とも合わせてくださいね」
「うん。優一くんありがとうね」
「おう。さぁ次は中間テストだぜ!」
23
5月11日 金曜日
「終わったあああああああ」
中間テスト最後の科目が終わり、佐藤の叫び声と同じく、多くの生徒が開放の表情をしていた。
「美咲、どうだった?」
「優一くんと鳳羽先輩のおかげで結構できた!」
そして私たちはハイタッチをした。それから藤浪先生のホームルームも終わり帰宅の時間となった。
「ねぇ、みんな! この後時間空いてる人〜?」
片瀬さんが前の席で大きく叫んだ。
「テストも終わったし、みんなで遊びに行こうよ! ボウリングとかカラオケとか行こう!」
「よし、行くか!」
「もちろん行く!」
クラスの大半が片瀬さんの提案に賛同していた。
「優一くんどうする?」
「ん? もちろん行くよ。美咲も来いよ」
「うん!」
そして私たちは中間テストお疲れ様会に参加した。ボウリングもカラオケも初体験だったけど、すごく楽しかった。今まで知らなかった世界。そして、友達がたくさんできた。
シロ。私ね、たくさん友達できたよ。楽しいこと知れてきた。これからも増えていくと思う。楽しいこと、悲しいこと、たくさん知っていくと思う。それがね、楽しみなんだ。優一くんに鳳羽先輩もいるから。だからさ、シロ、ココで見ててね。
第2章 完
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3章以降は本編をご覧ください。
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