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「私はお前のような年増は嫌いだ。妃と言っても仮だという事を忘れるな。ヴェロニカがきたらお前は即追い出してやるからな」


これはクラーラが初めてハインリヒと会った際に言われた言葉だった。クラーラは特に泣くことも傷ついた様子もなく「わかりました」とうなずいて持参した荷物の整理を始めた。

その様子を見たハインリヒは驚愕したようだったが、すぐに踵を返して部屋を出て行った。

クラーラは仮の妃を演じる代わりに、自室で装飾の仕事をしても良いという許可を得た。ハインリヒを除いた王族からはとても感謝され、そして不憫に思われているので、クラーラは不自由なく王城で生活することが出来た。こうして彼女は王族の一員としての学習や社交の合間に装飾作業に没頭したのである。


ハインリヒはクラーラが気に食わなかった。自分のせいで仮の妃という哀れな役目をやらせているという事は理解していたが、逢うのを心待ちにしているヴェロニカを差し置いて、妃の座に収まるクラーラを好きになれなかった。


嫌いなのにハインリヒは、毎日クラーラの部屋を訪れては嫌みを言って帰るという事を日課にしていた。

クラーラも初めのうちは律儀に立ったままハインリヒの嫌味をなんとも思わぬ顔で受け止めていたが、2、3日経つと、出迎えと見送り時は立つものの、嫌味を言われているときは作業台で装飾をしながら相手をしていた。


「全く、私を相手にあの態度はなんだ!私の話を作業しながら聞くやつは他に居ないぞ。しかもあの相槌の適当な事よ!『そうですか』と『そうですね』しか言っとらんわ」


「毎回最後まで相槌打ってくれるだけでも良いと思いますよ。殿下の内容の無い嫌味を嫌な顔一つしないで聞いてくださっているのも凄いと思います」


ハインリヒの補佐役であるテオは宥めるように言った。


「嫌な顔というかあの澄ました顔以外見たこともない。心が冷たい女だとは噂に聞いていたが、噂以上に冷え切った奴だ」


「そうですか?宝石を選んでいる表情は凄く真剣で楽しそうですよ?」


「そうなのか?」


「殿下はいつもクラーラ様の部屋の机に置いてある水差しを見ながら話しているでしょう?恥ずかしくてお顔を見られない事はわかりますが、クラーラ様のお顔を見ながら話せば表情が変わる事に気づくはずですよ」


「恥ずかしくなどない!あ、あの女の顔など見たくもないからな。だが、お前がそういうなら今度話すときは見てやらぬこともない」


ハインリヒはクラーラを初めて見たときその美しさに一瞬心を奪われていた。さらさらとした金色の長い髪にエメラルドの瞳、透けるような白い肌はお伽話に出てくるような姫を彷彿させた。しかしヴェロニカという心に決めた女性がいるハインリヒは、クラーラを拒絶する事で乱された心をなんとか保ったのだった。


幼い少女が好きという、あまり良く言えない嗜好をしていると自分ではわかっていたが、それが自分なのだという間違った確固たる意思をハインリヒは持っていた。

ハインリヒがロリコンになってしまったのは、彼の友人が婚約を破棄した事に端を発する。ハインリヒの友人は、幼いころから婚約者がおり、成人になると同時に結婚する予定だった。しかし、婚約者が違う男性の子を孕んだという事で大事になったのだ。

その当時は国中その事件が噂され、一番傷ついたのは勿論ハインリヒの友人なのだが、ハインリヒもまた心に傷を持った。

彼はその時から女性が恐ろしくなった。自分の結婚する相手も自分の子ではないものを産んだらどうしようという果てのない不安が彼を覆うようになった。

そんな時に声をかけてくれたのが行儀見習いにくる少女達だった。裏表のない子供らに心を浄化され、少女ならば自分を裏切ることはないと考え、自分をロリコンだと思うようになった。そしてマレーナ王国に訪れた際に幼いヴェロニカに求婚したのである。ヴェロニカも時が経てば大人になる事をハインリヒは理解していた。しかし幼いヴェロニカの心は清かったから大丈夫だろうという、何処から来るのかわからない持論を信じていた。


そんな不安定なロリコンを一瞬でも、クラーラという少女ではない者に崩されそうになったので、ハインリヒはクラーラの顔を直接見ることはさけていた。

しかし、毎日会いに行かねばならないという、どこから湧くのか分からない可笑しな動機で、彼はクラーラの元を訪れるのだった。

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