もしくはラヴレター
これがラブレターかといわれると、どうも不安になります。愛の手紙というのではない気がしますし、ただの手紙とも違います。とりあえずラヴレターということにしておきましょう。
恰好をつけた言葉で、君を惚れさせるつもりは微塵もなく、本当に思っていることだけをありのまま書くので、素直に受け取ってくれることを願います。
ラヴレターというものは、一番初めに最も伝えたいことを書くべきだといつしか聞いたので、僕も例に漏れず、一番伝えたいことを最初に書きます。
「君はとんでもなく素敵な人だ!」
これを伝えなければ何も始まりません。
もしかしたら君はそれを素直に受け止めてはくれないかもしれません。疑問符が君の頭に浮かび上がったのなら、世界中に散らばっている僕のそっくりさん三人を連れてきて、訊ねてみましょう。
「どうだい、彼女は素晴らしい人だろう?」と。
「そんなことは一目見たときから分かっていたよ!」と南の小さな島国から来た彼は言います。二人目は、
「しかし、こうも素敵な人がいるかね? 幻か何かの類だろう!」ガンジス川のすぐ側に住む彼は言いました。
最後に飛行機で十二時間掛けて来てくれた彼はこう言います。
「半日も退屈な空を飛んで来たかいはあったね! もう少し一緒にいてもいいかな?」
気持ちは大変よく分かりますが三人とも帰ってもらいましょう。なんせ僕は君と二人で話をするのが、とびきり大好きなんですから。君と居るとき、僕は自然体で話が出来ます。自然体でいることは僕にとってとても難しいことです。そんな至難の業を簡単にこなしてしまえるのは、君とジョナサンくらいのものです。
君と居ると、あっと言う間に時間が経ってしまいますね。もし君とずっと一緒に居られるなら、僕はすぐにおじいちゃんになってしまいそうです。
二番目に伝えたいことというのは、もうお気づきかもしれませんが、僕は君のことが大好きだということです。笑わせたい、喜ばせたい、支えたい。友人としても異性としても大好きです。右腕と左腕でそれぞれの好意を抱いています。広大な大地があるとしましょう。それが友人としての好意です。揺るぎないものです。そこに雪が降るとしましょう。その雪が異性としての好意です。豪雪警報発令中です。
君の好きなところは、数えるのも嫌になるほどあるので、僕が気に入っている部分を書きます。まず、その優しさでしょう。シロナガスクジラでさえ包み込めるような優しさ。ユーモアのわかる感性も好きです。見た目からは全く感じ取れなかったけれど、自分をちゃんと持っていることに、驚きとともに尊敬の念を抱きました。読書が好きで、互いにお気に入りの小説を教え合えるのは最高だと思います。これからも続けましょうね。正直に言うと、君に勧められた小説を読むまで僕は随分と長い間小説を読むことを止めていた。読書の楽しさを思い出させてくれてありがとう。
笑った顔ももちろん素敵だけれど、どこか遠くの国の風景を眺めているような思案顔は息をのむほど魅力的です。向かい風が苦手なところも猫アレルギーなのも海と山どっちも嫌いなところも素敵だと思う。そんなこと言うと、変なやつだと気味悪がられそうだけど。君を知れば知るほど、僕は惹かれていきました。これほどに人を引き寄せる君は、さながらブラックホールのようです。
僕は今、水深8000メートルあたりで漂っている気分です。深海はプールの水より冷たくてずっと心地がいいです。どこに辿り着くのか、僕にはまだ知らないので、多少の不安はあるけれど、今は気ままに、深海魚たちとゆらゆら流されていこうと思います。
はっきり言ってしまうと、君と五年も十年もずっとその先まで親しい関係でいたいです。君が幸せになるところを隣で見ていたいです。ですから、この気持ちは単なる錯覚にすぎないと信じ込むべきではないかと何度も考えました。しかし君が誰かと手を繋ぎ、キスをする姿を想像すると苦しくて堪りませんでした。そんな気持ちを抱えたまま、君と話していると自分が半分に裂けてしまいそうです。プラナリアみたく半分になっても生きていられるなら、どんなにいいことか。恋人の僕と友人の僕で君を一人占めしてみたいです。でも僕は何の変哲もない人間ですから、終わりの見えない引き裂けそうな想いをするだけです。それならば、伝えてしまおうと思いました。君と関係が金星との距離より遠くなってしまうとしても、構わないと思いました。
好きです。君のことが死ぬほど、好きです。
出会ってくれて、ほんとうにありがとう。君の幸福を心から願っています。
追伸。この手紙は、君の好きなようにしてください。メモ用紙の代わりにしても、僕を脅す材料にしてくれても構いません。
それでは、さようなら。
読んでいただき大変ありがとうございました。約三年ぶりの投稿になります。これからは定期的に投稿していきたいと思いますので気になる方はTwitterでご確認ください。また良ければ評価、感想をお願い致します。