贈り主
僕が生まれるよりも昔、この地球には非常に大きな隕石が落ちた。それによって多くの人命が炎に呑み込まれ、多くの建物が形を失い、一つの都市が消滅した。周囲にも多くの影響を振り撒き、混乱を齎した。
しかし、それは始まりに過ぎなかった。その隕石が起因し、凶悪なウィルスが発生。それが全世界に蔓延した。多くの人の命を喰らい、自分達の仲間をを増やし、新たな地へと侵攻していく。
そうやって未知のウィルスは地球半数以上エリアで蔓延し、人間が住むことのできるエリアは極僅かになった。同じように人類の数も極端に減っている。
そんな状態に陥って数十年が経過した。
僕は、こんな状態を引き起こしたあの巨大な隕石の内部に数名の仲間と居る。
この空間は、一番隕石内では大きく、横からは光が差し込んでいる穴がある。
未知の液体が床全体を覆い足元は濡れている。非常にヌメヌメとまるで蜂の蜜のような、けれども蜂蜜ほどいいものには思えない。
「暑いわぁ」
そう関西訛りでディエゴは呟いた。
そりゃあ暑いに違いない。ただでさえこの空間の室温が高い上に、万が一の為に着用していた防護服がそれに輪をかけた。
「ええ。このスーツを脱ぎたいですよ」
ディエゴの言葉に反応し、高まる不快指数を僕は口にした。
「脱いでもいいけど死ぬわよ」
電子端末を操作するミラは冷静に呟く。
「わかってますよ」
僕がそう言葉を返しても、ミラから返事はなく作業を続けている。
僕は、呼吸を一息ふうっとついた。
その時、甲高い電子音が僕の耳に届く。
「解析が終わったわ」
ミラは、背を伸ばし呟いている。
僕とディエゴは、足早に端末の元に近寄る。
「この隕石、ただの隕石じゃないわ」
「それはどういうこと?」
僕はミラに質問をしてみた。
「人類は、隕石内部にこんな空間があり、しかもそれがこんな湿度の高い空間だったなんて思わなかったでしょ?」
「まあ。この何年かで隕石内に空間があることが判明し、それを踏まえて調査しろってことやったからなぁ」
「この隕石は、あのウィルスを送る為の言わば培養器みたいなものなの」
「培養器?」
「培養器のようにウィルスが死滅しないよう人工的に作られた環境それが、この隕石なの」
「嘘や」
「それだけじゃない。この隕石。地球の環境を変えてるわ」
「今でも十分地球に影響を与えているだろ?」
「そうじゃないわ。この隕石は、極めて小さいナノマシンに覆われいて、それが酸素や二酸化炭素の濃度などを変化させているの。人類が気づかないレベルで」
「えっ! なんの目的で!?」
「この隕石は、人口的に建造されたもの。人口的に作られた以上、それを造った者が居るわ。そして、そいつにとって都合のいい環境にしようとしている。同時に、邪魔な人類も死滅しようとしてる」
「言わば人類に対する死の贈り物ですか」
「ほんま、ゲロがでるわ」
「そして、この隕石は今でも微弱な信号を送り続けている」
「なんやて!?」
「それはどういうことなんだ!?」
「短い間隔で信号を送り、もう少しで消える」
端末上で、心電図の様に表現された信号。
それは微弱で、もう少しで止まりそうだ。
いや、もう止まった。
「止まったわ」
ミラが静かに呟き終えた時、火山が爆発したかのような轟音が僕達を襲ってきた。
「行こう!」
僕は二人に声をかけ、近くにある外が見える穴へと走り、その淵に立った。
「なんやあれ……」
ディエゴは言葉を失う。いや、それは僕にミラも同じだった。
そこには、雲に覆われた雲の隙間から強烈に漏れる光の塊だった。
高さがあるここから見ても、巨大なサイズであることは僕らにも容易に分かった。
時折、閃光が地面に向け放たれ、直撃した地面では激しく爆発し、大きな花火のような火花が、周囲に激しく轟く音共に散っているのが僕には見えた。
「あれが贈り物の贈り主……」
僕達に待つのは地獄だ。
完