21・時間切れ
陛下の部屋はすでに食事の用意ができていた。
悠然と椅子に座っている陛下、そして何故か給仕よろしく横に立っているジャミール筆頭秘書官。
「えーっと、ジャミール様がなぜ?」
ジャミール様がひいてくれた椅子に座りながら疑問をぶつける。
ちなみに椅子の位置は陛下と90度。向かい合うよりはいい気がするけど、近い。
「先ほど姉に会いまして、陛下とキャロルさんのことを伺いました。状況が状況と思い、全ての人払いした結果、私が給仕することになりました」
喋りながら準備をするその手つきは、プロの給仕そのもの。
「あのマリーさんはなんと…?」
ジャミール筆頭秘書官のお姉さまは言わずと知れた脳筋天然娘マリーさんである。
今姿の見えないことを考えると、既に騎士団の朝の訓練へ向かったのであろう。
「朝、陛下の寝室行ったらキャロルさんがいらっしゃったと。陛下は裸で、キャロルさんはガウンを羽織っただけの姿であったと」
「………」
あぁ、魂が抜け出ていくのを感じる。
見たままの風景を、そのまま弟君に伝えたのだねあの人は。
「正直なところどうなんですか?」
「どう、ときかれても」黙って黙々と食べていた陛下が口を開く。「私はキャロルと共に夜を過ごしただけだが、ね」
にこり、陛下は私に笑いかける。
事実を見ればそうなんだけど、残念なことに私には記憶がない。
・朝隣に陛下がいた
・ジゼルさんたちに見られた
・なぜか陛下と一緒に朝ご飯←イマココ
こんな状態である。
しかし陛下と私の間に何もなかったことはわかる。
しかし、このコンソメスープ、美味しいなぁ。
「私は言葉遊びがしたいんじゃないのですよ、わかっておいででしょう」
「何がかな?」
「そろそろ時間切れ、と言うことがです。既成事実があったかどうかとりあえず言え」
…ジャミール筆頭秘書官さま…陛下に対する言葉遣いが乱れております。
許されるのか?
この場にいる4人(陛下とジャミールさんとジゼルさんと私)のうち、今の発言に疑問を持ったのは私だけみたい。
と言う事は許されるんだろうなぁ…。
ジャミール筆頭秘書官…毎日お疲れ様です、いやなんとなくそんな気がします。
あ、このスクランブルエッグ、おいひぃ。
しかし時間がないと言ってたけどそれは…?
「既成事実の有無? それは公表することではないだろう」
「いえ、大事なことだと思いますが」
「そうであれば、今は使われていない王妃の部屋をキャロルに与えよ」
ちょっと待ったー!
「発言をお許し頂けますか、陛下」
「ん、何かな? キャロルならいつ発言してもいいんだよ」
小さく首をかしげながら陛下が言う。
少年がやればかわいいしぐさかも知れないけど、おっさんがやると気持ち悪い。あざときもい。
「いろんなことがおかしいです。陛下と私の間には何もなかったと存じます。そもそもなぜ私が陛下とともにいたのか自体わからないのですが、なぜに王妃の部屋とかまで話が飛躍するのでしょうか?」
「うーん、それはね…」
陛下が口を開こうとした瞬間、ノックもなしに部屋のドアが開けられた。
あれ、ここ陛下の私室だよね。
セキュリティー的にとか不敬罪的にとか、良いのだろうか。
例によって私以外驚いてないからいいのかな。
しかし私はさらに驚くことになる。
「陛下! これはどういうことですか?ご説明いただきましょう」
不敬罪も気にせずドア開け放ったのが宰相であるお兄様と騎士団長であるお兄様という身内だったのだ。
「あぁ、時間切れじゃないですか」
ジャミール筆頭秘書官が小さく呟やいていた。
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