13・お茶会の朝
陛下回想シーン。
ついにきた。
待ちに待ったこの日だ。
午後、お茶会をしている母の所に挨拶に行くと言う情報は入手済みだ。
『オーリンズ公爵令嬢もう見ましたか?』
『見ました、すごい美人でしたね』
『まだ婚約者がいる決まっていないとか。私早速公爵家に手紙を出しましたよ』
『貴方は子爵でしょう、公爵家とは格が…』
『いやいや、なんせ前公爵の7番目のお子様ですから、その辺のハードルは低いでしょう』
などと言う話があちらこちらから聞こえる。
…今の立場が彼女に集まる婚約申し入れのハードルを下げているとは迂闊であった。
「すごい人気ですね〜。この様子だとあっという間に恋人ができそうですねぇ」
ニヤニヤしながら筆頭秘書官となったジャミールが話しかけてくる。
「そんなことはわかってる」
あーイライラする。
「カリュオン伯爵子息が先程かの方に挨拶してましたよ」
「なっ!」
カリュオン伯爵の息子は母上付きの近衛隊長だ。
しかし、それ以上にこの国きってのプレイボーイでもある。
たしかに男の私から見ても整った顔をしていると思うし、性格もいい。付き合う女もよくかわるが、修羅場らしい修羅場にならないのがすごい。
「その後オーリンズ騎士隊長にシメられてましたけど」
「そうか」
よくやった、オーリンズ次男!
グッジョブだ!
もはやあの兄弟と共同戦線を張ってキャロルの純潔を守るしかない。
そしてその純潔を散らすのは私、と。
あ、こら息子よ、立ち上がるな!
「なにやってるんですか、あなたは」
ジャミールにジト目で冷静に突っ込まれたとき、執務室のドアがノックされ、返事を待たずにドアが開く。
こんな無礼なヤツは一人しかしない。
「失礼します」
と入ってきたのは予想通り失礼なヤツ代表、オーリンズ家の当主。
「やぁ、オーリンズ宰相。今日はいい天気で良かったですね」
私がにこやかに言うと、ぴくっ、と彼のこめかみに青筋が浮かぶ。
「本当に。こんな日が来ると思いませんでしたよ」
「本当だね」
「陛下におかれましては一介の侍女などに余計なちょっかいを出したりしないよう、お立場を考えてくださいますようお願い申し上げます」
頭を下げつつ私を鋭く睨みつける宰相。
わざわざ牽制をしにきた、ってワケか。
「わかっていますよ、宰相。キャロル嬢は一介の侍女などではありませんからね」
にっこりと微笑む。
仕事では正直まだまだかなわないと思うことが多々あるが、今日は…キャロルの事に関してだけはもう絶対に負けない。
「王宮はよくも悪くも伏魔殿、オーリンズ家の皆様と力を合わせてかの姫君をお守りしましょう」
「不本意ですが」苦虫を噛み潰した表情のオーリンズ宰相「よろしくお願いします。それと寮の整備等感謝しております」
「ふふ、彼女の為ならなんでもしますよ。よろしくお願いますね、お義兄サマ」
「っ!」
宰相の顔が一瞬歪むが、すぐに涼しい顔にもどる。
勝った。
直感的にそう思う。
「あまり先走られないようご忠告致します」
「忠告感謝する」
「では、失礼致します」
宰相は踵を返しドアに手をかけるが、ふと立ち止まって振り返った。
「そうそう、キャロルは唯一彼女を愛してくれる殿方がいいらしいですよ」にゃっと笑う。「貴方の側女の人数を知ってどう思いますかね」
「っ!」
「それと、自宅では『くーしゃま』の話をした事は一度もありませぬ故、その存在自体覚えていないと思いますよ」
「なっ…」
「では、失礼します」
一方的に話すとぱたん、と静かな音を立て彼は姿を消す。
「く〜〜〜っ」
「一番痛い所を最後に突かれましたね〜」
さすが宰相と、笑いを噛み殺しながら今まで空気のように控えていたジャミールが言う。
「後宮の整備も優先課題だな」
色々な派閥の思惑の蠢く後宮の側女問題は、手をつけようとしながらも正妃がいないが故強くも出れなかった懸念案件だ。そこをわかっているクセに正確について来るあの宰相、やはりいい性格してる。
しかも可愛いキャロルが『くーしゃま』と私に懐いていた事を忘れているなんて…!
「っ、今のところドローだな」
「いや完全に逆転負けでしょう」
「いや、ドローだ。午後のお茶会で私が逆転する!」
「自分で逆転って言ってるってことは負けてることに気づいているじゃないですか」
爆笑しているジャミールを横目に、私は午後のお茶会(招かれていない)に向けて一人闘志を燃やすのであった。
お兄ちゃんが腹黒に…(涙)




