9・夜は長いのだ
陛下の変態っぷりに拍車がかかっていく…。
これは鬼畜陛下ではなくて変態陛下のお話か…(遠い目)
「お茶にしますか?それともお酒をお持ちしましょうか?」
部屋に戻った私はお風呂のお湯の準備をするとガウンのままソファーで寛ぐ陛下に問う。
夜遅いので、夜勤の私一人の対応だ。
「いえ、キャロルで」
「…」
誰が「お茶にする? お酒にする? それとも私?」などときいたか?
つい無言、ジト目で陛下を見ても許して欲しい。
「キャロルをくれないかな?」
とろけそうな笑顔で陛下が言う。他の御令嬢なら狂喜乱舞なのかもしれないが、なぜかそう思えない。ただこの若き国王陛下に対して危機感しか持てない。それは本能に近いのかもしれない。
とりあえずお茶の準備をしながら適当にあしらう事にしよう。
「あいにく私は飲みものではございません」
「おや、キャロルは知らないの?」
「何をでございますか?」
湯気の立つティーセットを陛下の前に置くと、陛下が私の手をそのまま掴んだ。
「全ての女性はね、愛しむととろけるように甘い蜜を出すんだよ」
手を掴んだまま私の耳元で囁く。
その声にぞくりと…鳥肌が立つ。
主に悪い意味で。
「私はキャロルの蜜を味わいたい」
掴んでいた手にちゅと唇を寄せる。
ぞわわわわ
トリハダ全開です。気持ち悪いです。
見目麗しい陛下が言おうと、誰が言おうとソレは全力で下ネタですから!
「ねえキャロル」
さすさすと握った手の親指を動かし、私の手の甲をさする陛下が、じっと私の目を見つめる。
頭のどこからか「逃げてー」と声がする。
ピンチだ。
「貴方はこんな夜更けに主人とはいえ異性と二人きりになるのにどうも思わないのですか?」
「はい、仕事ですし」
「仕事…か。少しさみしいですね」
嘘だ。ガチでピンチだと思う。仕事じゃなきゃ、相手が陛下でなきゃ当て身からの逃走をはかっている。
ぐいっと繋いだ手を引かれる。
どん、陛下の胸に頭突きをするように引き寄せられる。
見た目は優男だか、実はしっかり筋肉がついている胸板だ。
いや、今は胸板はどうでも良い。
「っ、陛下?」
さすがにこれはよろしくない。
セクハラの域を超えている。
「ねぇキャロル。こうしてもどうとも思わない?」
「せ、セクハラにしてもやりすぎです」
「それだけ?」
「そうおっしゃられても…」
陛下はやんわりと私を抱きしめる。
「私は嬉しいですよ」抱きしめたまま耳元で囁く。「ずっとこうして腕の中に抱きしめていた…「いや、ホント結構です」」
「…」
ちょっと食い気味すぎましたかね。
滅多にない陛下のジト目に背中に汗が流れます。
「キャロル、あなたは家柄的にも年齢的にも十二分に私の妻になる資格があるのですよ。なのになぜいつも私を避けるのですか」
少し私を抱きしめる手に力がこもる。
「それは…」
本能がNGと言っているから、とはなかなか言えず目をそらす。
「どなたか…お好きな方がいるのですか?」
「えっ…」
更にぎゅっと力がこもるのに少し息苦しさを感じ陛下に視線を戻すと、予想以上に真面目な顔陛下の顔。
「そ、そんな方いらっしゃいません!」
とつい言ってしまう。
あ、ウソでも「好きな方がいる」と言ったらセクハラまがいなことをやめてくれ…
「よかった」
私の思いをぶった切ってにこり、と陛下。
「もしキャロルに思う人などいたら、私はその人に辛く当たってしまうところでした」
るわけではないようでした。
…辛く当たるとは…とは聞けない陛下の黒い笑みに、ひく、と頬がひきつるのを感じる。
「さて、湯浴みをしてきましょうか」
いつも通り髪を一房取ると優しく唇を寄せる。
「一緒に入りますか?」
「だっ、誰が…!」
「おや。お風呂の世話も貴女の仕事でしょう?」
「う、」
「ウソですよ」
陛下は私を抱いていた手をゆっくりとほどく。
「今日は一人で入ります。キャロルももう休んで下さい」
「え、でも…」
「すぐに出ますよ。心配ですか?」
「はい」
ちゃんと出てくるのを確認しないと、お風呂でのぼせてしまうとかあると心配だし、責任問題になってしまう。
「わかりました。ではすぐ出てきますので待っていてください」
「かしこまりました」
湯殿へ去っていく陛下の後ろ姿を見送りため息をつく。
色々な意味で落ちつかない夜だった。少し陛下の様子も変だったし。
なんか…ヅカレダ…。
次回以降またもや回想。
陛下視点でいきますよ!




