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正解なんて分からない

 泉の要望を受け入れ明後日にしてやったのだが……


 「何でお前らまで付いてくるんだよ?」


 そこには南澤と寺垣がいるのだ。


 「いいじゃない。あなたがどうやって解決するか気になるし」


 南澤がそう言うのだがあんまり人に見せるような事をするんじゃないんだよな。

 こいつらに解決方法を教えていない。

 ていうより言ったら反対される気がするから、言わないんだけどな。


 「付いてくるのはいいけど遠くから見るだけで、近づいたり邪魔するなよ」


 一応、釘を刺しておく。


 「分かってるわよ」


 南澤が当然だと言わんばかりに声を上げるが、こいつらの場合本当に分かって無さそうだから怖いんだよな。


 取り敢えず、おさらいだ。泉の彼氏は近隣の他校の人らしい。それはそれで都合がいいので助かるのだがまたしてもめんどくさい事になるのは避けられないんだろうな。


 今俺達はその彼氏がいる学校の前だ。周りからは違う制服の人間が正門前にたむろしているように見えたのか、チラチラと見られている気がするが、自意識過剰と思い意識するのを止めよう。

 それに、これから問題の解消をしなければならない。泉には彼氏を学校の入り口に呼んでもらっている。

 そこからの作戦はまだ言ってない。


 「あの先輩。一つ言っておきたいんですけど、私の何か悪口とかが出るような事は嫌なんですけど」


 「分かってる。今回お前が何にも悪くないようにすればいいんだろ」


 「まあ分かってるならそれでいいんですけど。本当に何する気なんですか?」


 「それを言ったらお前が演技できなくなるかもしれないから、お前は俺の話に合わせてくれたらいいよ」


 泉は首をかしげながらも深く聞いてくる気はないようだ。

 なので俺がその泉の彼氏を待っているとついにやって来た。

 そこには金髪で青春してます系の男の子がいた。


 「誰なのこいつ?」


 その男が俺を睨みながら言ってくる。

 まあ、当然だよな。彼氏の前で他の男がいるんだ。睨まない方がおかしい。

 泉はどうするのかという目線を俺に向けてくる。

 なので俺は一度溜息をついて、昨日思い付いた作戦を実行することに決めた。


 「俺の女に言い寄ってるようだな」


 呟くと同時に、泉の肩に手を置き、こちらに引き寄せる。


 「キャ」


 そんな声を出すのはやめて欲しい。ちゃんと演技してくれって言ったじゃないか。俺がそれを目で泉に訴えると、泉と視線が交差し、少し動揺した目つきが変わり、俺の意図が分かってくれたように思える。


 俺が今回考えたのはこいつの彼氏を演じる。だがそれは彼氏がいない人には有効だが、彼氏がいる奴には無理だ。それだと泉がクズという事になってしまう。なので、元々彼氏の俺がこいつの告白を遊び半分で了承したという設定だ。


 「まさか俺が付き合った時の返事をしたとも思わず嬉しそうに付き合ってるもんだから最高だったぜ」


 昨日泉が告白された方だという事も聞いている。


 「どういうことだ?」


 茶髪男子は未だ分かっているのか、それとも分かりたくないのか俺を先程よりも鋭い目で見てくる様な気がする。だが、ここで怖気づくのは論外だ。


 「だからお前の告白は俺が適当にふざけて返事してやったんだよ。それを隠してこいつがお前を振ろうとしているのにお前がしつこいんだからわざわざ俺が直接言いに来てやったんだよ」


 今回俺はクズの男を演じる。これによって泉は優しくて健気な女の子となり、この男を振る聖女とは言い過ぎかもしれないが、優しい女の子、悪いのは俺だということになる。

 問題は、もしも茶髪男子がこんな男と付き合っているのかと言う質問が飛んできた場合だが、俺が泉と付き合っているのは俺が弱みを握っているとでも言っておけば大丈夫だろう。


 「本当にごめんなさい」


 泉が演技でも悲痛に言っているように聞こえるから怖いものだ。


 「このクズ野郎が!」


 俺は咄嗟に泉を離して茶髪男子のパンチを受ける。


 「キャアアアアア!」


 泉が俺が殴られたことにより叫ぶ。

 うるさいな。

 俺はお前がこんな依頼を出したからやってるんだからそんな声を出さないで欲しい。殴られた衝撃で思わず倒れ込み、茶髪男子は隙を見逃さないと言わんばかりに俺の腹にまたがる。


 「お前みたいなクズのせいで俺がどんな思いしたと思ってやがる!もう、あんな思いはしたくなかったのに!」


 またしても殴られる。俺はそれを避けない。避けれないの間違いでは無い。.....多分。

 だけど、これなら準備していた質問の答えは必要なさそうだ。どうみても、理性があるようには見えない。

 これが、恋をしていたからか?それで、理性が飛ぶのであれば、俺は絶対に恋なんてしたくないんだけどな。


 「クソが!」


 心の中で考える時間も与えない程に何度も殴られる。

 痛いな。今まで中学の頃とかおふざけで殴られたりしたことはあったけど、そんなもものより何十倍も痛い。


 だが、これでこいつも自分が悪くて振られるのではなく俺のせいだからと割り切ってくれる筈だ。

 しかし、一つの問題が生じる。それは先生という存在だ。学校の正門前で殴られるという事は先生が黙っているわけがない。


 「こんな所で何やってんだお前ら!」


 体格が良い体育教師であろう先生の声が聞こえる。


 ――――ここからが本番だ。


 その声が聞こえた瞬間から行動を開始する。散々殴ったこいつは俺が殴り返してこないと思っただろう。だからこそ、その隙をついて俺はカウンターを繰り出し、現在近付いて来る教師に対し、まるで今まで俺が殴っていたかのように見せる。茶髪男もまた俺が反撃して来るとは思わなかったのか、俺のカウンターは見事に決まり、相手も倒れた。


 「お前らこんな所で何してやがる!今すぐ来い!」


 俺と茶髪男は俺達を捕まえに来た体育教師に捕まり教室に連れて行かれる。


 これで後は俺が罪を全部被ればいいだけだ。たかが子供の喧嘩だ。そんな重い処分な訳がない。

 真っ先に俺が口を開こうとすると、


 「僕がむかついて殴りました」


 「は?」


 まさかの男が自分が悪いと言ったのだ。これはまさかの予想外だ。俺も思わず声を上げて茶髪男の方を見てしまうが、あいつはあいつで先生の方を真っすぐ見つめていた。


 「本当か?」


 生徒指導である先生が茶髪男を見てから俺に確認する。


 「いや。僕も悪いのでお互い様です」


 そう言っておく。このままでは、茶髪男が罪を背負ってしまう形になってしまう。

 体育教師の説教を受けていると、俺達がいる教室のドアが開かれ、スーツを身に纏った白髪頭の爺さんがニコニコしながら現れる。


 「君達もう帰りなさい」


 「校長!?」


 どうやらこの人は校長らしい。


 「今回は見逃しますが次は停学ぐらいの処分は覚悟していてください」


 厳命され、体育教師も校長には何も言えないのか、俺達は教室を後にする。


 「失礼しました」


 俺達は何の処分も受けずに帰ることが出来た。

 これはこれで最高の形で終わることが達成できた。もう疲れたし、今日はとっとと帰って寝よう。


 「おい」


 足早に帰ろうとする俺に対し茶髪男が背後から声を掛けるので、背後を振り返る。


 「なんだよ。まだ殴り足りないのか?」


 これ以上殴るようなら逃げる覚悟が必要だ。俺はまだ頬がズキズキして痛いのだ。


 「さっきはすまなかった」


 「……どうしたんだよ急に」


 だが、俺の考えとは裏腹に茶髪男は俺に対して頭を下げて謝罪する。謝られると俺がどう対応したらいいのか分からなく、言葉が出なかった。


 「あれから冷静になって考えたら、彼女を庇っていたんだろ?別れない俺を納得させて別れる為に」


 「何のことやら分からんな」


 「そうか。だけど、俺はもう一回別れる辛さを実感したんだ。それも酷い形でね。だから、こんな形で別れるのは君にかける言葉なんじゃないんだと思うが、少しスッキリした感じだった。ありがとう」


 ここで俺がそうさせるために行ったのだと言えば今までの全てが無意味になってしまう。

 もしも、ここで俺が肯定してしまえば、こいつは少しは責任を感じてしまうかもしれない。だからこそ、ここは無言を貫き通すしかない。

 俺は悟られないようにその場を逃げるように前を振り向き歩いた。


 「俺は見る目が無かったのかな」


 「知るか。だけどな、正解か不正解なんか何も始まる前から分かるものじゃないだろ」


 自分でも言っておきながら何処か心にすっぽりと入っていく感覚に囚われてしまった。

 その通りだ。正解なんて分からないんだ。俺のやり方が正しいのか、不正解なんてこれからのこいつら二人の出来事で分かることなのだから。


 「今度は悪女のような女には手を出さないようにするんだな」


 一言だけ忠告し、俺は学校を後にした。

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