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初めての依頼主

 俺達は現在生徒指導の先生に怒られている。

 南澤、寺垣、清水もいる。

 ――――だがちょっと待ってほしい。

 誰もが分かっている筈だ。どうして、俺が怒られなければならないのかと。だから、はっきりと言ってやった。


 「何で俺怒られてるんですかね?」


 「お前もこの部活の部員なんだろうが!」


 先生は怒鳴りながら手に持っているチラシを俺の目の前に持ってくる。渡されたチラシを見ると、部員に俺の名前が書かれていた。

 それで俺も朝から呼び出しを食らった訳か。ここで、言い訳しても良いがそれは得策ではない。先生に反抗するのは間違っている時にはすべきことなのかもしれない。だが、その場合説得に時間が掛かる為、俺は我慢して説教を重んじる。


 「そうですね。僕も悪かったです」


 「そうだ!お前らは大体――――」


 大体という時は長い話だ。こういったケースの場合、先生に怒られながら読んでいる小説の続きの展開を自分でも想像しながら時間を潰す。


 「おい!吉条お前話を聞いてるのか?」


 「聞いてますよ。これから主人公がどうピンチを乗り越えるのかっていう話でしょ!」


 「お前一体何の話を聞いてたんだ!」


 少し説教が伸びるのだった。


 「マジで災難なんですけど」


 俺は生徒指導室から帰る途中思わず背後にいる三人を睨みつけて呟いてしまう。


 「まさかあそこまで怒られるとは思わなかったわ」


 「ほんとに勘弁してくれよ」


 こいつらはチラシを色んな所に貼っていたがどうやら途中でめんどくさくなってしまったらしく、もう昇降口に置いておけば誰か見るだろうと思ったのだが、昇降口の扉が開かれた瞬間、風で飛ばされたらしい。

 こいつらは俺が思っていたよりもバカだったらしい。


 「もう頼むから俺を巻き込むなよ」


 「それは分かったけどこれからも部活来てよ!」


 「へいへい」


 放課後にこのまま帰ってしまいたい衝動を抑えながら部室に向かう。

 今日の出来事で本当にこいつらは校内放送で呼んでもおかしくないと思ったからだ。


 「失礼します」

 

 そう言って部室に入ると清水がいた。


 「用があるの?」


 「無いけど、来なかったら校内放送で呼ばれるから来てんだよ」


 だがそこで校内放送をしでかしそうな南澤と寺垣がいないことに気付いた。


 「南澤と寺垣は?」


 「さあ。私がここに来た時にはまだいなかったわよ」


 あいつら俺より先に出て行った筈だったんだけどな。


 「よし。じゃあ帰るか」


 「さようなら」


 こいつは帰る気はないらしい。だが今回は言い訳が出来る。お前らがいないから今日は無いと思ったと。


 少し浮き上がってスキップでもしてしまいそうな衝動に駆られながらドアを開けようとすると、


 「あれ吉条?トイレでも行くの?」


 ……こんなことだろうと思ったよ!


 扉を開けようとすれば、先に廊下にいた南澤が扉を開けて鉢合わせになった。

 だがふと気づいた。


 「お前らの後ろにいる奴誰だ?」


 そこにはもう一人茶髪の女の子がいた。


 「初めまして。私一年の泉愛華(いずみあいか)です。今回相談があって来ちゃいました」


 そこにはまあ何ともリア充でパリピのような輩が相談しに来てしまった。

 髪は茶髪と桃髪の半分を混ぜ合わせたような髪の毛をしているが、顔立ちは良く、スタイルもいい。それを自分でも分かっているのか、俺に対して腰に手を当ててモデルがポーズを取る様な仕草で挨拶してくる。

 どうしよう。もう既にこの依頼主で帰りたい気持ちになる。

 俺はどうも、こういうパリピのような輩が苦手だ。まあ逆に苦手じゃない奴の方が少ないとは思うが。


 「あ!清水先輩!相談乗ってください!」


 その泉は教室に入ると真っ先に清水の所に向かう。


 「お前。案外知り合い多いんだな」


 「この子は元文芸部に入ってもらった子よ」


 「あーそういう事か。それでここにいるお前に相談って訳だな。じゃあ俺はこれで」


 俺には関係なさそうなので帰ろうとすると、後ろから首根っこを南澤に捕まえられる。


 「何処に行くの?」


 「帰るんだよ。俺には関係ないだろ?」


 「関係大ありよ!この子が私達の部活に相談しに来たのよ!助けてあげないの!?」


 「清水が助けてくれるだろ。俺なんていなくても変わらないって」


 「取り敢えず、話を聞く!」


 「分かった!聞くから俺を引きずろうとするな!犬じゃねえんだよ!」


 俺は引きずろうとする南澤から離れ一応聞く為、椅子に座った。


 「それで俺が聞いてもいいのか?」


 「全然大丈夫ですよ!むしろ男子の意見も聞きたいので!」


 この子は分かってない。今の流れで別に先輩はいなくても大丈夫ですよって言ってくれれば俺は帰れたのに。


 「それで何があったの?」


 清水が初めに聞き、泉はあっさりと話した。

 それは彼氏がいて振りたいという簡単な話だった。


 「それってなんの問題もなくない?」


 寺垣が真っ当な意見を言う。俺も同意見だ。


 「それがこの人別れてくれないんですよ!」


 寺垣の発言に食いついたのか泉が体を乗り出して言う。


 もっと詳しく聞くと泉はもうこの人に別れたいと言ったらしい。だが結果はもう少し考えてくれ。まだ付き合いたいという話だった。


 「いい彼氏じゃないか」


 俺は最近ではそんな男子は近年稀にみる良い奴だと思う。


 「男子からしたらいいかもしれませんけど私からしたら他にいけないし大迷惑です!」


 ほんと女子ってこえーな。俺は改めてそう思った。そして、帰りたいと思ってしまったが許してもらえそうにはない。


 「なんでそいつと別れるんだ?」


 「冷めたからですよ」


 「はい?」


 「だから冷めたんですよ。大体別れるのってそんなもんじゃないですか?」


 「付き合って何カ月なんだ?」


 「一週間です」


 何だろうか。もうこの子は助けてあげなくてもいいんじゃないかと思う。


 だが他の奴は違った。


 「分かるよ!男子って諦めなくてしつこい奴とかいるんだよね」


 「本当に面倒な輩が多いからね!」


 泉の発言に対し、南澤、寺垣は頷いている。


 ここに男子がいるのにそんな話をしないで欲しい。

 女子っていつもこんな話をしているのだろうか。俺なんかここにずっといたら女性不振になりそうな気がする。

 なので俺は話を逸らした。


 「それでどうするんだ?」


 すると、泉が俺に聞いた。


 「どうしたら別れてくれると思いますか?」


 無茶を言う。俺は付き合ったことのない歴=年齢だ。

 そんな俺には別れるどころか、付き合う所から始めなければならないレベルだ。


 「俺はまず付き合ったことないから分からん」


 「あ、なんかすみません」


 「哀れね」


 ……おい。そんな悲しそうな目で見るなよ。

 南澤、寺垣のみならず清水にまでこいつ寂しそうな奴だ的な目を向けられる。


 「ま!まあそういう人もいると思いますよ」


 泉はちょっとテンパりながらも俺をフォローしてくれた。

 何だか急にこいつを助けてあげてもいい気がする。


 「お前らはどうしたらいいと思う?」


 俺はモテるであろう三人に聞く。


 「私はまず付き合ったことないから」


 「右に同じく」


 「右に同じく」


 「は?」


 こいつら全員付き合ったことが無いだと。まさか清水はともかく、ビッチだと思ってた二人まで付き合ったことないとは思わなかった。


 「まあ、告白はされるんだけど、何だかピンとこないんだよね」


 「分かる!」


 そう言って南澤と寺垣は笑っている。

 そんなん言ってたら萩先生のようになっちゃうぞ。

 俺は心の中で言ってあげた。今言えば、それを南澤が次なる脅しとして使う気がするからな。


 「じゃあ、先輩はどうしたら諦めると思いますか?」


 泉はまたしても俺に聞いてくる。


 「そう言われてもな」


 俺には泉の話を聞いてから一つだけ案が浮かんだ。だけどこれを俺がする理由が無い。

 それにこれは最低とも言える行為だろう。


 「もう最近は何度言ってもきりがないですし、電話も沢山きてちょっと怖いんですよね」


 「泉?」


 泉は独り言のように呟くが、俺以外の人間には聞こえていないようだ。だが、清水は泉の表情で何かあると察したように声を掛けるが、一瞬陰りが見えた泉の表情は直ぐに消え、


 「――――い、いやー。やっぱ面倒だし無理ですかね?」


 気丈に振舞っているのか、頭の背後に手を置きながら泉は喋るが、俺の脳裏では中学校時代での出来事が思い浮かんでしまう。


 『――――な、なんでお前は』


 『――――怖いんだよ』


 ……ああ!くそ。思い出したくも無い事を思い出したじゃねえか。それにそんな事を言われると断れ無いんだよな。昔のことを思い出して、


 「おい。お前とその男を別れさせる事が出来たら俺の言うことを一つ聞くと約束出来るか?」


 それに他の皆は驚いた顔をしていた。泉だけは少し考える素振りを見せて、


 「エッチな事じゃなかったらいいですよ」


 ウインクしながら言うのだが、


 「興味ないんで」


 「それはそれで腹が立つんですけどね!」


 女心はめんどくさいものだと思いながらも助ける事が決定してしまった。


 「じゃあやるのは明日で」


 「明日は用事があるので明後日でもいいですか?」


 ……こいつ。本当に助けなくてもいいんじゃないだろうか。


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