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俺の唯一の知り合い

 あれから、南澤、寺垣から部活の概要を聞いた。

 このお悩み相談所の部活は悩んでいる人がここを訪れて、その悩みを俺達がここで聞いてあげるというなんともテンプレでめんどくさそうな部活だった。

 だがこの部活にしたのにも理由があった。他の文芸部、手芸部などは何か文芸に関する大会があればきちんと実績を残さないといけないが、この部活の場合、何の実績も必要ない。ここに来た人の相談を受けたらいいだけなのだから。

 それも考えてお悩み相談部にしたらしい。この二人は考えていないようで考えていた。


 「けどね。少し事情があってね」


 「事情?」


 南澤が今度は椅子を持ち上げながら呟く。


 「それが学校に部室で使える部屋が無かったの」


 「は?今ここを使ってるじゃん」


 「ここは前の部活と合併したようなものなの。それでここは元文芸部で三人いたんだけど、二人は幽霊部員だったんだけど、残り一人がこの部室を使わせる代わりに、静かに本を読ませてくれるならこの部室を使わせてあげるってなったわけ」


 「ほう。それでそのもう一人は?」


 「それがそろそろ来るはずなんだけどね」


 「あら。ストーカー君もここの部活なの?」


 後ろから聞き覚えのある凛とし透きとおる様な声が聞こえた。


 恐る恐る背後を振り返れば、そこには黒髪ロングの超絶美人と言われている清水涼音(しみずすずね)。こいつは容姿が完璧で勉強が出来るいわゆる超人と言われていて、唯一この学校で俺の元中学の同級生である。


 「その名前止めやがれ。どうせそれテストの話してんだろうが」


 「あんた達知り合いなの?」


 寺垣真由美が俺達を交互に指を差しながら言うがそんな縁ではない。他人も他人。たった一度関わったぐらいだ。


 「「違う」」


 「息ぴったりじゃない」


 そんなツッコミを受けるが決して俺達は知り合いではない。少し中学の頃あったがそれだけだ。


 「こいつとはテストの順位がいつも一位差なんだよ」


 「......え?けど確か清水って学年一位じゃなかったけ?」


 寺垣がそう呟く。


 「こいつは毎回俺の上の点数を取って一位の座を譲らないんだよ」


 「もしかして吉条って二位なの!?」


 「そうだが」


 こいつは中学の頃からずっとそうだった。俺が一位を取ろうと思っているのにも関わらずあっさりその上をいきやがる。中学の頃では勉強のライバルだと勝手に思っていた。今ではそこまで気にしてはいないが、やはり男のさがだろうか。負けるというのはやはり悔しい。


 「めっちゃ意外なんだけど」


 南澤にそんなこと言われてしまうが、


 「逆に俺お前が頭良かったら俺が卒倒するレベルだ」


 「何ですって!」


 そう言って突っかかってきそうな南澤を何とか寺垣が宥めて抑える。


 「ていうかお前が誰かのお願い聞くなんてあり得ないような話だな。どういう風の吹きまわしだ?」


 「彼女に借りが出来るからね」


 清水が一瞬南澤の方へ視線を向ける。


 「どういう意味だ?」


 「それは」


 「ちょっと!」


 何故かそこで南澤が叫ぶ。何だか一触即発の雰囲気で俺と真澄はどうしたらいいか分からない。ていうか俺は今すぐ帰って小説の続きを読みたい。だがこの雰囲気で言えるわけも無い。そんな猛者がいるのであれば、ここの間に入って喧嘩を止めて欲しい。


 「分かってるわよ。ちょっとした冗談じゃない」


 先に清水が肩を落として降参したような感じで終わった。

 ……一体何なんだよ。

 女子って怖い!俺は改めてそう思った。


 「その代わり読書させてもらうからなるべく静かにしてちょうだい」


 そう言って清水もまた一つ椅子を持ってきて何事も無かったかのように読書を始める。

 すると、南澤、寺垣も同じく椅子を持ってきて机の前に置き、話し出す。


 ……何だろう。これ絶対に俺がいらない気がする。

 ていうか、もう三人いるじゃん。


 「あのさこれって俺必要なくね?」


 「何で?」


 「何でじゃねえよ。これ三人いるじゃんか」

 

 「この澄ましたお嬢さんはいない時が多いから駄目よ。それに先生に言われたでしょ。あんたが就職するなら部活はした方が良いって」


 確かにその通りなんだが、この男子一人という空間がなんとも耐えがたいがもう気にしないことに決めた。学園物の主人公も周りの女にチヤホヤされながらやってるしな。もしかしたら、俺もチヤホヤされながら生きていけるのかもしれない。全くチヤホヤされたいとも思わないが気にしない。


 「分かったよ」

 

 「なら決りよ!ってことでチラシを配りましょ!」


 「チラシ?」


 「これ!」


 そこに書かれたのは何と俺達の名前とお悩み相談部という名前が書かれた部活の宣伝であった。

 これはよくない。これでは万が一にも誰かが来てしまうかもしれない。それだけはめんどくさい。


 「これは別に貼らなく」


 俺がこれを拒否するよりも前に、


 「これ色々と貼ってきて!」


 「は?」


 南澤は俺に殆どのチラシを持たせる。しかも結構量があるんですけど。それに何で俺?

 だがここで救世主が現れた。携帯が鳴ったのだ。そこには妹からのメールが来ていた。


 『お兄ちゃん。遅いけど誘拐でもされたの?』


 こいつどんだけ縁起でもない事言ってんだよ。


 しかし何も返さないのも悪いので俺も返信した。


 『誘拐された』


 あながち間違っても無い。こいつらに誘拐されたと言っても過言ではない。

 返信すると、妹もまた携帯を見ていたのかすぐにメールは返ってきた。


 『そう。そろそろご飯できるからなるべく早く帰って来てね』


 この妹はバカなのだろうか。誘拐されて早く帰ってこれたら苦労はしない。

 だけど、妹も寂しいのかもしれない。なんて可愛い妹だ。ああ!なんて可愛い妹だ!

 よって帰ることに決定。


 「妹が早く帰ってこいってうるさいから俺帰るわ」


 そう言ってこいつらが何か言う前にカバンを持ちドアの前まで行くと、


 「なら、仕方ないけど、明日も来ないと学校放送で呼ぶからね!」


 「こえーよ!」


 俺はそう言い残し扉をおもいっきり閉めて、可愛い妹の為に帰宅するのだった。

 

 「ただいま」


 「あれ?まだ帰ってこなくて良かったのに」


 全然可愛くない妹である。


 「お前が心配のメールしたから早く帰ってきたんだぞ」


 「お兄ちゃんってシスコンなの?私そんな気ないからごめんね。きっといい人見つかるよ」


 「何で俺がお前に振られて慰められてんだよ!おかしいからな!」


 「まあ。お兄ちゃん、ご飯できたから食べよ」


 こんなやり取りを続けても俺が勝てないのは分かっている。妹は常にマイペースで生きている。俺とは反対の人間だ。本当困っちゃうよね!


 「ハア。そうだな。いただきます」


 家だけがオアシスであり、何事も無く今日も一日が終わった。


 ~翌日~


 俺は学校の校門を通り過ぎて唖然とした。


 「――――なんだこれ」


 そこには所々に昨日見たはずのチラシが学校の正門近くにばら撒かれ落ちていたのだ。


 「誰だ!こんな変な髪をまき散らしてるのは!?」


 体育教師であり、生徒指導である男前のナイスガイな先生が今日もまた張りきって声を上げている。

 何だか今日も平穏な日常が送れない気がした。

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