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だけれど僕は桃太郎じゃない  作者: pai-poi
第1幕 御伽噺は語りだし歯車は廻りだす
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オムハヤシより飛び立つ青い鳥

 諸兄は女子の「オプション」というものについて、どんな考えをお持ちであろうか。広義においては「制服」等の服装も含まれることだろう。そう、服装から連想される職業、立場などは、女の子の背景、重み、深みを与える重要なポイントとなることは間違いない。そういう意味において僕は「メイド服」が断トツに好きだ。

諸兄の中には「いやいや、チアガールだろう!」だとか「お前はまだまだ青いな! 日本人なら浴衣だろ!」、あるいは「巡り巡って制服の原点、軍服に行きついた。」などなどあることと思う。もちろんどれもこれも甲乙つけがたい意見であることは僕も認めざるを得ない。

だが僕は「メイド服」の貞操感や献身的な雰囲気がたまらなく好きなのだ。たとえ「お帰りなさいませ、ご主人様!」と言わなくとも、きゅるんきゅるんラブラブビームを発しなくとも、女の子が「メイド服」を着ていただけるだけで満たされるのだ。


 そんな「メイド服」のクオリティが史上最高であり、ある意味では正統的なメイドのいる某ファミレスに僕は来ている。ここのファミレスは数あまたあるファミレスチェーン店の熾烈な争いを他所(よそ)に、この地で常勝を誇る個人経営のファミレスだ。メニューに斬新さはないが、古典的な洋食がまたこの店の古風な良質さを後押しし、胃も心も満たされるまさに「人生の楽園」であるのだ。

そんな「人生の楽園」が僕の家からほど近い駅の正面にある。これにはチルチルとミチルもびっくりだろう。本当の幸せとは、遠くではなくすぐ傍にあるのだ!



 素晴らしい、素晴らしすぎる。春夏秋冬4バージョン存在するメイド服の中で、今月から勿忘草色(わすれなぐさいろ)を基調とした夏仕様になったが、薄手であるもののけっして露出度は高過ぎず、一定の格式を保っている。僕の幸せの青い鳥、特別目当ての子がいるわけではない。そんなことを気にせずともここの青い鳥達の質は、僕を裏切ることは無いのだ。


 僕は幸せへの期待感を心に秘め、ニヤ付かないように気を付けながら席についた。もうすでにオムハヤシのセットを頼むことは決定済なのだが、僕は儀式に参加するが如く居住いを正し、優雅にメニュー表を手に取り、そしてゆっくりとメニューを眺める。ほどなくして僕の前に水が運ばれてくる。


「…………。」


 僕はその水に手を伸ばしかけ、動きが止まった。言い知れぬ違和感、不安感のようなものが僕の心に侵食してくる。ここの青い鳥達が囀りを忘れて水を置くことなどあり得ない!


 て、おーい。なんで佐藤ウズシオが店員としているんだよ! コンビニはどうした?

よしんばメイド服が似合うことは認めよう。しかしお前のその二大オムライスははちきれんばかりのボリュームではないか。ここのメニューに特盛や「一つ頼んだらもう一つサービス!」なんてものはない! 貞操感というものが微塵もないぞ、佐藤ウズシオ!



「えっと、オムハヤシを一つ。」


「オムハヤシ…。」



「つか、コンビニはどうした?」


「クビ。」


 佐藤ウズシオは伝票に記入した後、相変わらずの気怠そうな猫背で、僕の前から立ち去った。危うくオムハヤシを二つ注文するところだった。

クビになるのが早いな佐藤ウズシオ。まぁ接客向きじゃないよな佐藤ウズシオ。だがそれはまた同じ過ちを犯そうとしているぞ。この楽園はなにもメイド服だけで成り立っているわけではない!

僕の「幸せの青い鳥」は飛び去ってしまったのだろうか。すまない、チルチル、ミチル。鳥にとって猫は天敵ではないか。



 諸兄、ここで話を戻そうではないか。そうだ、我々は我々の楽園を死守するために現実逃避せねばならないのだ。これは妄想に逃げるということではない。戦略的撤退というやつだ。



 諸兄は女子の「オプション」というものについて、どんな考えをお持ちであろうか。狭義において考えてみてもそれは多種多様で、「猫耳」等の装備も含まれることだろう。しかし我々は「猫耳」からは離れなければならない。そう、猫は青い鳥の天敵であるのと同時に、日常世界に求めてはならない、非日常世界に埋没する時にこそ発揮されるアイテムだからだ。

女の子のキャラ設定を左右する日常世界における装備品は、その女の子の性格、趣味など内面を表し、厚み、奥行きを与える重要なポイントとなることは間違いない。そういう意味において僕は「メガネ女子」が断トツに好きだ。

諸兄の中には「いやいや、カチューシャだろう!」だとか「お前はまだまだ青いな! 日本人なら日本刀だろ!」、あるいは「巡り巡って隷属の頂点、首輪に行きついた。」などなどあることと思う。もちろんどれもこれも甲乙つけがたい意見であることは僕も認めざるを得ない。

だが僕は、「メガネ女子」の清楚感や守ってあげたい的な雰囲気がたまらなく好きなのだ。たとえメガネがずり落ち気味になり、上目遣いで「だめ?」と弱々しく言わなくとも、ぐるんぐるんハワワワパニックにならなくとも、女の子がメガネをかけているだけで満たされるのだ。

ちなみにメガネ装備で20点加点されることを、ここに明記しておこう。


 わかっている、わかっているよ諸兄。記憶力の良い諸兄の指摘通り、佐藤ウズシオはメガネをかけている。

百歩譲ってメガネが似合うことは認めよう。しかし佐藤ウズシオのそれは「メガネは顔の一部です」を地でいっている感じか。「守ってあげたい的な雰囲気」を通り越して、生きていくので精一杯感が半端ないぞ佐藤ウズシオ!



 間もなくして僕のオムハヤシが運ばれてきた。出来ることなら、いや出来なくても佐藤ウズシオ以外のメイドに運んでほしかった。僕の「幸せの青い鳥」はもはや、僕の肩にとまることは無い。さあ、僕の屍を越えていけ、チルチル、ミチルよ!



 フォークとスプーンが所定の位置にセットされ、メインのオムハヤシ、サラダにスープがマニュアル通り配膳された。そして僕が手始めにスープへと手を伸ばそうとした瞬間だった。

佐藤ウズシオは四本のフォークを予備のストックから素早く取り出し、そのモーションのまま下手投げでフォークを投擲した。四本のフォークは僕の眼前を通り抜け、僕の伸ばした右手へと迫り、シャツの袖口を射止めながらシートへと規則正しく並んで突き刺さった。


 僕は右手をシートに固定されながら、声にならない声を発し、佐藤ウズシオを見る。



「蟻かと思った。」


 僕は恐る恐る今日着てきたシャツ、右手を確認する。確かに白地のシャツは黒い糸で縫製されていて、蟻の行列に見えなくもない、かもしれない。だがどこの世界に腕に蟻を這わせてオムハヤシを食べる者がいるというのだ。的確に黒い糸を貫きながらシートに刺さっているフォークを、僕は一本一本丁寧に抜き、静かにテーブルに並べた。



「猿。」


「去る?」


 佐藤ウズシオはこくっと頷き、僕の前から立ち去った。

オーケー、君には清楚感も無いな、佐藤ウズシオ!

いったい何者だというのだ佐藤ウズシオ!



 僕は本来美しく輝いているはずのオムハヤシを見つめた。あの楽園はどこに消えてしまったというのか。夢の中で過去や未来の国をまたにかけ、幸福の象徴である青い鳥を探しに行かねば、僕の青い鳥は見つからないというのだろうか。


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